無理ゲークリアしたらゾンビ世界になってしまったのですが*

ゲームから始まるゾンビ世界 ホラー部門カクヨム最高2位
夢乃
夢乃

第47話【ショッピングモール⑩】

公開日時: 2020年9月29日(火) 18:05
更新日時: 2021年3月4日(木) 03:07
文字数:3,725

 そしてリアとカブリコは共に一階――ゾンビで溢れかえっている地獄の海と化した場所へと落ちていく。普通の人間なら大量のゾンビが徘徊している場所に自ら飛び込んだりはしない。――それは一線を越えた異常者とも呼ぶべき行動だ。

 

 リアはそのままカブリコの腹部を蹴り上げて、空中へさらに飛び上がった。

 そして半回転しながら頭部から落下する態勢を取り、カブリコと目を合わせる。

 

「全く、ここは地獄なのだよ!!」

 

「――イタ……ンジャ! コロ……ス!!」

 

 空中で鋭利な右腕から斬撃が飛び出し、リアはエクスプロージョン本体を盾にしてその斬撃の進行方向を自分から外した。そのまま赤く点滅する銃弾を撃ち込み、リアが落下する手前で大爆発させる。

 

 爆風がリアを浮かせ、爆発した中心で線香花火のようにゾンビが周囲へと吹き飛んでいく。そしてリアが着地する予定場所はマグマのように地面が溶けており、ゾンビがいないその場所にゴシック服のスカートを翻しながら着地した。

 

 黒ブーツの厚い靴底が溶けていくのに気付き、リアは周囲のゾンビをエクスプロージョンで蹴散らしながらその場からゆっくりと歩みを進める。

 

「ふぅ、少しはしゃぎ過ぎてしまったのだよ。――左腕の再生もまだか。やはりこの世界線の私も適合率は低いようだね。それに裏口へと続く壁に大穴を開けてしまったから、シンヤ達は今頃苦労しているだろう。まぁ、この程度の修羅場を越えられないようでは意味がない。――結果は分かっているが、頑張りたまえ」

 

 どこを見渡しても一階の中央通りはゾンビで溢れかえっていた。そしてその正面にはカブリコも立っている。対するは妖精のように小柄な体型をしたリアだ。金髪を左右に振りながら、地面をかかとで軽く叩く。

 

 ――トントン。

 

 リアの瞳がこれまで以上に淡い青色の光に包まれる。

 

 波紋のように広がる音の振動を、ソナーシステムのように理解した。しかし途中でゾンビの足音に阻害されてしまい、結果的に周囲二十メートルほどしか分からない。その範囲にいるゾンビの動きを数式に割り当て、頭の中で演算処理を行う。

 

 リアの視界では全てが数式の塊に見えていた。

 そんな神業を難なく実行してしまうリアだが、その表情は芳しくない。

 

「やはり、彼女ほど上手くは出来ないか。天才を自称していた私ではあるが、どこまで行っても上には上がいるのだよ。――完璧な人間など存在しない。少しだけ救われた気分だ」

 

 エクスプロージョンを構えてリアは走り出す。その言葉が過去の綴られた歴史に小さな区切りを付ける。その表情は遠い昔を思い出しているようだ。

 

 英雄と呼ばれたこの世界線の先導者に敬意を払う。

 一瞬だけ全てが止まった世界は、また時を進めだす。

 

■□■□

 

 シンヤがツキを背負ってカオリと共に二階へと降りて行こうとする瞬間だ。リアとカブリコの戦闘で従業員用の荷物置き部屋とショッピングモールモール表通りを塞ぐ壁が大爆発と共に開通した。しかもリアはカブリコと共に一階へと落ちていく。

 

 ――自殺か? っと疑いたくなるような光景だ。

 でも多分生きてる。

 

 そしてその開通した大穴から大量のゾンビが入り込んできた。

 シンヤとカオリの表情が曇り、悪態に拍車がかかる。

 

「リアの奴!! 何考えてるんだよ。馬鹿か!?」

(裏口から脱出するってお前が言い出したんだぞ!)

 

「シンヤ君、ここはまずい」

 

「っく! あんのクソロリ野郎!!」

 

 そのまま従業員用の階段を使って一階へとたどり着いたシンヤは、ゾンビがいない事を確認して外へと続く裏口の扉へとたどり着く。しかし、その扉には数十体に及ぶゾンビが張り付いており、ガラス越しにその地獄絵図が映り込んでいた。

 

 ゾンビが扉と密着しており、力ずくで開けることも出来ない。どうやら今のシンヤにアグレストと戦った時のような戦闘力はないようだ。

 

「クソ、この扉は使えない」

 

「嘘でしょ? ――ここで死ぬの……」

 

「こんなところで死ねるか! 屋上だ。そこで立てこもっていれば、後はリアが何とかするだろ。それまで時間稼ぎすれば問題ない……リアが死んだら屋上から色々つたってでも脱出する」

 

「適当すぎるよ! ――ツキちゃんもいるのに」

 

「分かってる。ただのゾンビなら何とかなる」

 

 しかし二階に出来た大穴から大量のゾンビが従業員通路を覆いつくしており、次々とシンヤ達の元へゾンビが押し寄せてくる。それをコルトガバメントで対処していくが、数が多すぎてゾンビとシンヤ達との距離が縮まっていくのを感じた。

 

 今のところギリギリ大丈夫だが、このままだと死ぬ。後ろの扉が壊されたら挟み撃ちでゲームオーバーじゃねーか。――くぎ付け状態で動けねぇ。

 

「シンヤ君が駐車場で化け物と戦った時の……あの状態になれないの?」

 

「――なれるか! あれが何なのか俺が一番知りたい。夢なんじゃないかって今でも思ってる」

 

「そんな……気合でなったりしない?」

 

「俺は伝説的な戦闘民族じゃないんだけど!? いきなり怒りで覚醒できるほど壮大な人生を歩んだ訳じゃない。カオリと変わらないただの高校生だって」

 

「そう……だね」

(でも、シンヤ君は強いよ)

 

 焦りに身を任せながらコルトガバメントの引き金を引き続けていたシンヤが、ある叫び声で一瞬だけ動きを止める。そしてゾンビ達の動きも止まった。

 

……「「「「「「ぎゃぁぁぁっぁぁぁああ!」」」」」」……

 

「「!?」」

 

 大勢の叫び声が上階から聞こえ、その声につられて正面にいたゾンビが半分ほど方向を変えた。そしてシンヤとカオリの元から離れていく。

 

 結果的にチャンスが舞い込んだ。

 どうやらゾンビは音に反応するらしい。

 

「シンヤ君……」

 

「分かってるよ。この結果を生み出したリアを殴り飛ばしてやる」

 

「リアちゃんだって、やりたくてやったわけじゃ……」

 

「それも分かった上でだ」

 

 隙をつくようにシンヤはツキを担ぎ、カオリと共に階段を上がった。そしてそのまま三階までゾンビを殺しながら駆け上がる。数は多いが、ただのゾンビであればカオリを守りながらでも何とか対応できる。生存者の叫び声が所々で聞こえるが、今のシンヤに助けると言う選択肢は無かった。

 

 乱れた自分の呼吸を聞きながら、周りの叫び声に耳を塞ぐ。

 やるせない気持ちを、辺りどころのない怒りを、都合よく振る舞っているリアに向けていた。そんな自分自身がとても惨めに感じる。

 

 リアならもっと上手く出来たんじゃないのか?

 

 考えるだけ無駄な時間だ。

 

 リアは化け物を一人で相手にしている。

 リアがいなければカオリとツキは間違えなく死んでいた。

 

 そしてシンヤがリアのように行動できていれば、あの場にいたもう一人ぐらいは救えたはずだ。シンヤが融通をきかせれば、ミカの命は助かったかもしれない。縛られていた男はシンヤとリアが行動に移す前に殺されたので、助けるのは難しかったが。

 

 そして継続的に聞こえる銃声と爆発音――一階で化け物とゾンビ達を相手に、リアが今も生きていると分かる。シンヤが駐車場で戦った時の状態になっていたとしても、あの地獄に行けば五回は死ねる自身があった。

 

 リアが壁を破壊して表通りと従業員通路を開通してしまったことに対する怒りは、シンヤ自身も自分勝手だと理解している。カブリコの奇襲をいきなり受けたのだから。しかし、それ以上をリアに期待してしまう。

 

――リアならもっと上手く出来たんじゃないのか? っと。

 

 天能リアならこのショッピングモールのゾンビを全て駆逐して、ここにいる生存者を全て助けるほどの力があるんじゃないか? そう思えてならない。全くあてにならない勘に近い感覚だ。

 

 そして三階から屋上へと続く、四階へとシンヤ達はたどり着いた。

 

 慌てて扉を開けようとする。

 しかしその扉はカギがかかっており、固く閉ざされていた。

 

「クソ! 屋上のカギが閉まってやがる」

 

 そのままシンヤは、ガチャガチャと力強くドアノブを弄り回している。

 

「ひぃ!」

 

「「声!?」」

 

 扉の先からかすかに聞こえる人間の声にシンヤとカオリは激しく扉を叩いた。四階までゾンビ達はまだ上がってこない。今なら扉を開けてシンヤとカオリが入り込む時間は十分に残っている。

 

「開けてくれ! ゾンビは襲ってこない。今は大丈夫だ! 頼む」

「お願い!! ドアを開けて!!」

 

 シンヤとカオリが大声で頼むが、扉が開く様子はなかった。屋上にいる生存者たちは無視を決め込んでおり、助けが来るまでここを開けない気でいるらしい。

 

「――……」

 

「何でだよ!? ――ふざけやがって」

「どうする? シンヤ君」

 

「リアが来るまで待機しかないだろ。リアの武器ならこの扉をこじ開けて、中にいるクズどもをぶっ飛ばすことが出来る」

 

「目的……変わってない?」

 

「そうか?」

 

「それにリアちゃんも殴るって言ってなかった?」

 

「ぁ、まぁ」

 

「シンヤ君、なんだか自分勝手じゃない?」

 

 自覚していたことをカオリに言われてしまい「うるさい! 分かってるよ」と、苦い表情を浮かべる。確かにシンヤは先ほどから感情に任せた自分勝手な発言が多い気がする。

 

「なんか口も悪くなってるし……学校だと丁寧語で私と喋ってたよね?」

 

「……」

 

 カオリが苦笑いして少しだけ空気が和む。シンヤは居心地の悪さを感じながら、ため息交じりにがっくりと肩を落とした。

 

 やはり男は女に勝てないのだろうか? 

 

 ――むかつく!

 

■□■□

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