【4月15日(木曜日)/12時46分】
『解放者』――なんて、かっこいい名前を付けてはいるが、それは言ってしまえばただの学生集団だ。明確な目的を持っている訳でも無ければ、ボランティア活動のように生存者を助けるような行動も取っていない。
血生臭い教師の死体が転がり落ちている『校長室』で、二人の学生が会話をしている。一人は校長室に置かれている高価な椅子に座りながら割れた窓ガラスを眺めており、もう一人はその隣で高価な机に座りながら親友である【熱意リョウ】を見つめていた。
「なぁ、トオル? あいつの様子はどうだ?」
(どうして、こうなった?)
「ダイキ先輩が見張ってるが、あれはやばいわ。ぶっちゃけちまうと、何で俺らが生きてるのか分かんねぇよ。森根サチ、あれは人間じゃない」
「だよなぁ。はぁ、海外に高飛びして自由になりてぇ」
(あんなイカレ女がいたんじゃ、生きてる心地しないっての)
「とりあえず、今は記憶が無いみたいだから襲ってくる心配は無いぜ。何で記憶が無いのかは知らねぇーが、ナイフをぶっ刺しても再生しちまう化け物だ。ダイキ先輩達に任せてるが、あれに手を出す馬鹿はいないだろ」
「はは、もしそんな奴がいたら俺はそいつを殺すぞ?」
「リョウ、お前の女の好みって気持ち悪いな。参考までに教えてくれよ」
「そうだな。俺より目立つ髪の色をした女が好みだ」
「そうかよ。それより朗報だ! 関東圏内の情報をネットで集めてる奴らから入手したんだが、群馬県で自衛隊駐屯地を避難所にしてる【皆音カオリ】って奴がいるらしい。それと埼玉県に金髪の美少女を車椅子で運んでる【死神】……まぁ、これは都市伝説みたいな物だな。他にも、千葉をまとめる【バルベラファミリー】なんて集団も出来始めてるらしい」
「なんだよ、それ? どこが朗報だ?」
「森根サチの一件で、周りの奴らがああいう化け物をピックアップし始めたんだよ。少なくとも馬鹿な一年坊主どもは、あの女に憧れてるからな」
「化け物……ね」
(まぁ、俺も似たようなもんだよな)
「しっかりしろよ、リョウ。この学校のリーダーはお前なんだぜ?」
「なりたくてなった訳じゃねーよ」
(たまたま届いてきた『メリケンサック』が、凄かっただけだ)
そう、自分自身が強くなったわけでは無い。森根サチと熱意リョウによる殺し合いは、本来であれば負けていた。それを改めて実感するほどの圧倒的な力を見せつけられている。不敵な笑みを浮かべたサチを思い出すだけで、背筋が凍り付くような恐怖が全身を包み込む。
そして、その瞬間だけはサチが運命の相手だと思った。
だが、どこか違和感のようなものを抱く。
(トオルには言わないが、俺の好みはもっと馬鹿で真っ直ぐな奴だ。どこかでそんな馬鹿に会った気がする。全く思い出せないが、そんな奴がいた気がする)
「なぁ、トオル。お前ってゲームとかする?」
「あ? ゲーセンで格ゲーならやった事あるぜ」
「俺なぁ、シューティングゲームで誰かに連敗した気がするんだよ」
「いきなり意味わかんね」
「だろ? 俺も不思議なぐらいだ。ゲーム何てまともにやったこと、無いのに」
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【4月15日(木曜日)/同時刻】
『体育館のステージ裏個室』で、マイクコードに縛られているサチは目を覚ました。それはスタンガンを頭部に叩き込まれた結果だ。脳内を駆け巡る電気を、雷切も握りしめずに制御してしまった。しかし、徐々に記憶が抜けていく感覚は止まらない。
「ねぇ、そこにいる雑魚っち。悪いんだけどリョウっちを連れてきてくれない?」
(やばいなぁ、雷切が手元に無い。さっさとここから抜け出すか)
サチの声に驚愕する生徒達、そして周囲がざわめく。
サチはアイマスクで目元を隠されており、小さく聞こえる声を頼りに人数と配置を瞬時に把握した。そしてゆっくりと立ち上がり、生徒たちは慌てた声を上げる。
「う、うそだろ!?」
「記憶が戻ったのか? おい、スタンガンを頭にぶち込んだからこんなことになったんじゃねーのか!? どうするんだよ。このままじゃ殺されちまうぞ」
「お、俺は悪くねぇ。お前らだって賛成してたじゃねーか」
「ふざけんなよ。とりあえず、リョウさんに報告だ」
「おい、一人だけ逃げる気かよ!?」
「違うっての!」
「えっと、人数は四人か。全員、男の子だね。ん? 奥に一人だけ女の子が隠れてるかな。彼氏の後を追って来た? ラブラブな感じだね」
「っひ!?」
「てめぇ、シズを脅してんじゃねーぞ!?」
「死にたい?」
(リョウっち強かったなぁ。もう一回、戦いたい。やっぱり私と同じ武器を持ってるだけはあるね。でも、アイリス・時雨については何も知らなかった)
「「「「「!?」」」」」
サチは片足を振り上げて、そのまま床にかかと落しを食らわせた。その威力に学校中が揺れ動き、体育館は悲鳴を上げながらゆっくりと崩落していく。土煙が舞うと同時に、サチに拷問じみたことをしていた五名の生徒は逃げ出し、その揺れを校長室で感じ取ったリョウの目が見開かれる。
「馬鹿ばっかりだね。リョウっちの部下!!」
(とりあえず、雷切の回収とリョウっちとの接触だね)
「クソが。あの馬鹿ども、森根サチになにしやがった!?」
(マジであのイカレ女と再戦とかごめんなんだが!? そうだ、逃げよう)
そしてこれから語られる話は、こうなるまでの経緯についてだ。
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