自動車とガードレールに挟まれたカブリコの血と肉片、そして飛んでいった体のパーツがグチャリと動き出して再生を始めていく。リアの表情に変化は無い。この程度で死ぬなら、学校で大勢の生徒や教師が殺されることなんてなかった。
そしてリアが乗っていた自動車はカードレールにぶつかった衝撃で煙を上げており、火の元を少し近づければ大爆発を起こす状態だ。リアはエクスプロージョンの赤色に点滅する弾をカブリコに撃ち込み、歩きながら距離を取っていた。
そして辺りの警戒を忘れてはいけない。リアは森中に視線を向けて、そこに吊るされている人間や自動車を見ながら、更に警戒心を高める。
「これは化け物の影響か、それともこの森全体が?」
リアは確認のため、樹木にエクスプロージョンを向けるとそのまま銃弾を撃ちこんだ。そして弾の位置に、再度銃口を向けてマガジンリリースボタンを押す。その瞬間、鼓膜が破れそうなほどの爆発音と爆風がリアの髪を激しくなびかせ、樹木は燃えながらパッキリと巨大な風穴を空ける。
そして、自らの逃げ道を塞ぐように樹木は倒れた。
「はぁ、自ら逃げ道を塞いでしまった。まぁ逃げる気など無いがね」
リアは不敵な笑みを浮かべながらカブリコに視線を戻すが、燃えている樹木から「パチパチ! スチャ、ツチャ、スチャ」っと、何かが動くような音が聞こえて視線を戻す。そして目を見開き、眉間にしわを寄せながらエクスプロージョンを向けた。
「!?」
倒された樹木がミミズのように動き回りながら幹へと戻ろうとする。まるで素材がシリコンや天然ゴムで出来ているようで、とても気持ち悪い。そのまま焼け落ちた樹木の幹と、土に埋まっている根を生やした幹が、接着されるように再生を始めた。
「はは、この森全体が化け物と言いたいのかい? 森まで人を襲うとなると、海も危険と見るべきか。全く、日本のどこにも逃げ場が無いでは無いか!?」
リアは視線を樹木に向けたまま背後で再生を続けているカブリコに銃口を向けて、マガジンリリースボタンを押した。先ほど撃ち込んだ弾が大爆発を起こし、自動車と誘爆する形でリアの真横をフロントドアが飛んでいく。そのままガードレールにフロントドアが突き刺さり、それを眺めながら未来のことを考えていた。
(再生する化け物に人を襲うゾンビ。私の目的はこの兵器を持っている人間を探しながら、この世界の元凶である大量殺人犯を殺すこと。それは変わらないのだが、その先の目的が今の段階では見えないのだよ。ゾンビや化け物は、人間の人口が最後の1人になるまで止まらない可能性が高いと仮定する。再生や瞬間移動を可能にする化け物が、どの程度の肉体維持が出来るのかは分からない。1年や2年逃げ続ければ、腐って骨になるというネットの豆知識を頼りにしたくなってしまうのだよ)
リアは現状、最も勝率の高い行動を取っているだけで、手紙の目的を果たした先にある未来を知っているわけでは無い。この選択は過程に過ぎず、最終的にはこの現状を全て理解して、元凶である『化け物』の考えを理解したうえで最終的な目標を立てるつもりだ。
「道のりは随分と長いのだよ」
「カツン!」――歯を叩く音に、リアは苦い表情を浮かべる。
「っく!?」
いきなりリアの目の前に現れたカブリコは、右腕を横に振り下ろす。リアは膝を曲げて地面に背中を押し当て、その斬撃を回避した。そのままリアの頭上を通り過ぎていく斬撃は、カブリコの正面に立っている樹木を片っ端から切り倒していく。
その光景にリアは歯を食いしばりながらエクスプロージョンを頭上の投げると同時に、カブリコの視線が銃へと注がれる。その隙を付くように、両手を地面に付けて右足を振り上げた。リアの蹴りはカブリコの顎を貫き、そのまま後ろ側に倒れ込む。そのあとリアはバク転で立ち上がり、頭上に投げたエクスプロージョンをキャッチしてカブリコの顔面に銃弾を撃ち込んだ。
そのまま距離を取る。
リアは流れるような動作でマガジンリリースボタンを押すと同時に体を丸めて、そのまま爆風に吹き飛ばされた。空中を不規則に回転しながら、銃口を更にカブリコに向ける。そして、空中を舞っているカブリコに銃弾を撃ち込んだ。
それは一言で言ってしまえば『神業』である。
リアとカブリコは爆風によって、互いに空中を舞っていた。そんな状況で、狙撃を成功させてしまうのだから『天才』と言うほかない。
そしてこれは、プロによる技術や経験とは違い、計算と予測によって引き起こされた『必然』である。しかし悪い言い方をすれば、技術や経験によって生み出された『奇跡と言うべき必然』を越えることは出来ない。
そのままリアは受け身を取りながら緩やかに転がり、体勢を低くしながら着地した。そして互いの距離が空いていたこの瞬間、リアは銃弾を連射すると同時にマガジンリにリースボタンを連打した。一定のリズムで爆発していくカブリコは、火の海に飛び込んだように燃えている。
鋭利な両腕が吹き飛んだ。そして前屈みになるカブリコ。
色白な肌をした両足が吹き飛ぶ。そのままリアを睨みつけていた。
体の中心に大穴が空く。「カラッカララララ!」っと喉を鳴らすような叫び声。
焚火のように燃えているカブリコの姿を、リアは睨みつけていた。(このまま燃え尽きて灰となれば、生き返ることも無いだろう)と考え、その光景をしばらく見た後に不敵な笑みを浮かべる。
「さすがに死んだかい? まぁ、確認している時間も無いがね」
深く深呼吸してリアはすぐに移動を開始した。何故なら、カブリコの斬撃によって切り倒された樹木が再生を始めており、森全体が不気味さを増している。それに先ほどから小さな地震が止まらない。嫌な寒気を全身で感じながら、ショッピングモールまで急いだほうが良いと言う判断だ。
そして、リアがその場から走り去った瞬間――燃えているカブリコの腕や足がゆっくりと動き始めた。リアが立ち去る後姿を見ながら、燃え盛るカブリコは口を開く。
「コ……ロ……ス」
リアは気付いていない、カブリコが生きていたことに。そしてここでしっかりと殺しきらなかったことを、天能リアは一生後悔することになる。
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