絶望的とも呼べる状況だが活路が見えない。時間と労力がただただ失われていく今の状況に憂鬱な気分になっていた。
シンヤはこの状況に対して2つの仮説を用意した。
・このゲームは中ボスを倒せないように出来ている。
元々運営側がクリアなどさせる気が無いパターンだ。
・あるいは攻撃の仕方を間違えている。
そろそろ3時間が経過するこの状況、アグレストというこの化け物に未だダメージが入っていないというパターンだ。
まぁ、どちらであっても最悪だ。
長時間の戦闘を行って、未だに倒せないのだから他の方法を探すしかない……ここまで倒せない敵キャラを俺は他のゲームで見た事が無い。
ギャルゲーで選択肢をミスった瞬間にヒロインが即死亡するぐらい……いや、ハッピーエンドルートですらセーブキャラだったはずの親友とヒロインが結ばれて目の前でキスをするクソゲーをプレイするぐらいイライラする。
※これはシンヤの勝手な解釈です。ギャルゲーに誹謗中傷の意図はありません。
「参った――方法が思いつかん! ここでロケットランチャーを使うか?」
それはマントを羽織ったおっさんから購入した武器だ……しかし値段が高すぎて1発分しか購入出来ていない。
アグレストが攻撃モーションに入り、いつものように跳躍する。そして空から落下……ロベルトをミンチにしようと巨大化された右腕が地面にクレーターを刻み込んだ。
装備をコルトガバメントに変更――……一定のリズムを刻んで銃声が鳴り響き、血しぶきと共に肉が弾ける音をシンヤに届けるが、ほとんどダメージが入っているようには見えない。
「はぁ……ダメっぽいな。手榴弾ならどうだ?」
アグレストがその場に停滞している状況を狙い、手榴弾を投げ込む。でかい爆発が鳴り響き、ロベルトが両手で顔を抑えるようなモーションをしていた。
アグレストに変化は無い。
「っち――後はロケットランチャーだけか……」
装備をロケットランチャーに変更しようとした瞬間――
アグレストの右腕が巨大化を始めて攻撃モーションに入る。シンヤは装備変更にうつつを抜かしており、慌てて緊急回避をしようとするが、ミスってその場に手榴弾を転がしてしまった。
――やば!?
慌てて緊急回避を行い、アグレストが地面と接触する瞬間に手榴弾が爆発した!
アグレストの巨大化した右腕がフィールドの端に吹き飛び、コロコロと転がる。
「――え?」
初めて起きた、予想外のアクションにロベルトを動かさず、ディスプレイ画面を見続ける。
アグレストはその場で右腕を抑えながら悶絶している。吹き飛んだ右腕は巨大化したまま指を小刻みに動かしながらアグレストの本体と接触し、足元にたどり着いた右腕は粘土の様に体に吸収されて右腕が再生した。
「――これだ!」
長時間のプレイで初めて活路が見えた。その偶然に、失いかけていたやる気が戻る。
アグレストが跳躍すると同時に、足元に手榴弾を転がして緊急回避を行う。落下してくるアグレストと手榴弾の爆発が重なり、巨大化した右腕が再度吹き飛んだ。
それを確認した瞬間にシンヤは急いで装備をAK-47Ⅱ型に変えて、吹き飛んだ右腕に乱射する。
「大体こういう場合は、右腕を狙うのが正解だったりするんだよな……」
アグレストの右腕が灰となって消える。
「よぉぉぉおおおおおっしゃ!!」
シンヤの予想は当たり、アグレストは右腕を失った事に対してその場で叫び散らすことしか出来ていない。
その後アグレストは光に包まれて――消えた。
「倒した……?」
しかし橋の両側に出現した肉の壁は消えていない。
嫌な予感がして、後ろを振り向く。――瞬間……
アグレストはロベルトの背後に立っており、『左腕を巨大化』させていた。すぐさま緊急回避を行うが、間に合わずに大ダメージを受ける。
HPはみるみると減っていき、0になる手前でギリギリ止まった。
「はぁ……はぁ……はぁ……」お預けを食らった犬の様に細かい呼吸を繰り返す。そして心臓が弾けるほど痛い。
何が起きたのか分からず、状況を把握できていない。
アグレストの右腕を破壊した後に、光りだして消えた。
気付いたら背後に立っていた。
そして再度、アグレストは光りだす。
――姿が消えた。
「っく!?」
慌てて背後を振り向くが、アグレストの姿が無い……そして前を向きなおすとアグレストが左腕を振り下ろそうとしていた。
――くそ……次は正面!?
流石に2度目の緊急回避には成功し、アグレストから距離を取って『薬草』を大量に使用する。HPがレッドゲージから安全圏に増えていき、胸をなでおろす気分だ。
今までの何倍も速い攻撃モーションと背後に立たれるむず痒さがゲームリズムを乱す。
問題があるとすれば『タイミング』だ。
2度目のアグレストの発光は、背後ではなく正面に立っていた。予想だが、俺が背後を確認するのが早すぎた可能性がある。――確認した後の背後に現れた。
どのタイミングで背後に現れるか分からない。
先ほどの攻撃でHPがギリギリ残る事は確認できた。直撃さえよければ多少の無理は出来る。
「覚悟を決めるか……」
それからアグレストとの戦闘は続く……大量の薬草を消費しながら、何度も何度もレッドゲージに入りながら、緊張感のある激戦が繰り広げられていた。
4時間にわたる戦闘は、シンヤの精神力をどんどん奪い去っていく。
シンヤは気付いていないが、極度の緊張状態が続きすぎて服にはびっしょりと鼻血が付着している。親御さんが見たら卒倒するレベルだ。
レアドロップの装備を着用してなければ、100回は殺されていただろう。
何十回にも及ぶアグレストの瞬間移動のタイミングを暗記して、手榴弾を装備する。銃を乱射してもアグレストは倒せないだろう。
多分、左腕も右腕と同じように破壊できるはずだ……
手榴弾を片手に、発行するアグレストを見ていた。アグレストがその場から消えるが、ロベルトは数秒ほどその場から動かない。
そして手榴弾を自分の足元に転がして、直ぐに緊急回避を行う。
紙一重のタイミングでアグレストの攻撃を避けて、そのままアグレストは手榴弾の爆発により、体中を燃やしながら左腕が吹き飛ぶ。
すかさずAK-47Ⅱ型をシンヤは装備して、アグレストの左腕に乱射。
――灰となって消えた。
しかし油断は出来ない。右腕と左腕を消したとしても、まだ終わりではないだろう。先程と同じ失敗は繰り返さない。
その予想は当たり、アグレストは奇怪な叫び声と共に体中の肉や骨が溶けだし、球体へと形状を変化させていく。
それはゾンビというよりは、アートに近い姿をしていた。無数の腕が触手の様に球体から飛び出しており、不規則に動く。
「ハハ……第三形態って奴? ――それ何て漫画だっけ?」
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