無理ゲークリアしたらゾンビ世界になってしまったのですが*

ゲームから始まるゾンビ世界 ホラー部門カクヨム最高2位
夢乃
夢乃

第85話【森根サチとクリムゾニックラスト】

公開日時: 2021年2月24日(水) 00:03
文字数:2,165

 潰されたサチの両腕は素早く再生を始めて、口にくわえられた雷切は右腕へと落ちてく。そして雷切を手に取り、その刀身を天井にかざして、剣術で扱われている『霞の構え』を取っていた。その瞬間、刀身を流れる電気が体中を包み込み、頭の中に良く分からない言語が溢れる。


「――なにこれ?」

『繧「繧ォ繧キ繝�け繝ャ繧ウ繝シ繝芽オキ蜍輔€�峭逾槭Δ繝シ繝峨∈』

(まぁ、今は関係ない。これは放置!)


「挑発はこのぐらいでいいよね。私はこの後、色々と状況をまとめないといけないからさ。化け物っちに関わってる暇が無くなっちゃったんだよ」


 夢の中に出てきた、未来の自分が言っていた事を思い出す。


『――君の望む世界はアイリスさんが作った――』


(それがこのパンデミック? それにこの化け物は戦闘中に『アイリス様』と口にしていた。記憶が消えている間の出来事は覚えてる。あと少しで、点と点が繋がりそうなんだよね)


 サチはすでに、アイリス・時雨に一歩近づいていた。頭の回転だけは昔から人一倍あり、その優れた頭脳は激しい戦闘を行いながらも常に考え続けている。アイリス時雨や天能リアのこと、そして雷切や自らの肉体についてもそれなりに結論付けが完了していた。


 謎は多い、そして現状を客観的に捉えられないのはよろしくない。知識とは武器だ。知っている情報だけでも早めにまとめて自分の行動を再認識したい。


 自分自身を危険な状況に晒すことに興奮する反面、知的な思考を持っている矛盾した存在。それ故に感情と行動が上手く一致せず、誰にも理解されない。


「イタンシャ……コロシタクハ、アリマセン」


「いいよ、そういうの。――神に頼る奴は追い込まれた人間だけなんだから」


「ッチ! シニタイ、ヨウデスネ」


「核を破壊して? 私にもあるのかな。その核が? とても死ぬような人間には見えないよ、今の私。それに戦いながら色々と考えてたんだけどさ、アイリス様だっけ? どっかで聞いたことある名前だと思ったよ。夢の中の戯言だと思ってたけど、私が想像している以上に面白いことが広がってるみたいだね、この世界。この考えが正しいならね」


「?」


「気にしなくていいよ。ただの独り言」


「……ソウ、デスカ」


 その瞬間、クリムゾニックの両翼がリビングを覆いつくす勢いで広がる。それはサチをも巻き込み、視界が暗闇へと落ちていった。そして両翼は巨大なドーム状の空間となり、サチを閉じ込めてしまう。


 しかし、それと同時に脳裏を過る謎の文字が一瞬だけ読めた。

『アカシ�?��レコード起動�??��神モードへ』


 まるで、読んではいけない物を読んでしまったような感覚。踏み入ってはいけない領域に片足を入れてしまい、人間でも化け物でも無い存在になってしまう罪の意識。


「なに、これ?」

(私、知らないうちに何かしちゃったの?)


 そして霞の構えから刀身を振り下ろすと同時に、その空間をあっさりと切り裂いてしまった。暗闇に包まれていた視界は元に戻り、目の前に立っているクリムゾニックの両翼は切り裂かれて血が吹き出ている。


 動揺するクリムゾニック。まさか奥の手が一瞬で破られるとは思わず、周囲を飛び回っている目が見開かれていた。しかし、その目は気付いた時には血だまりに変わっている。


 何も見えない。


「エ?」


 全ての目が切り裂かれた。それは一瞬の出来事であり、最後に捉えたサチの姿は『雷で出来た十の太鼓』を背負っており、右目が黒く染まっている。そして首に巻かれていた『天の羽衣』が、その神々しさを物語っていた。


 それはまるで【雷神】である。

「エ?」

 クリムゾニックの両腕が切り落とされて、両腕が地面に転がり落ちた。

「エ?」

 クリムゾニックの両足が胴体と切り離され、地面に叩きつけられる。

「エ?」

 そのまま地面に叩きつけられる寸前、首を切り離された。

「エ?」

 そして現在、クリムゾニックの核が刀身に触れている。


 何もかもが理解できない状況。切り離された感覚すら感じず、脳の処理が届いた頃にはすでに死にかけている。肉体の再生が追い付かず、雷切の刀身が自らの核に触れている感覚だけが残っていた。


 クリムゾニックの脳裏に警戒音が鳴り響く。


「ック! アカシックレコード申請!!」

(議決されました。危険な状況のため、位置ベクトルの強制変更を受理)


 それは化け物達に与えられた一度限りの特権。本来、死ぬ寸前ですら使用を躊躇う神の領域。アイリス・時雨のみに許された力の一部である。


 それを躊躇うこと無く使わせるほどの圧倒的な力。


 サチが刀身を振り下ろすと、クリムゾニックはその場から消えていた。辺りを見渡すがどこにもいない。不規則に自らの首をあらぬ方向へ回転させながら、頭部が地面に転がり落ちる。そして地面に落ちた頭部は灰となって消えて、また新しい頭部が再生された。


 そのまま言葉を口にする。


 しかしそれは人間が発していい言語ではなく、喉を何度も破裂させながら語られる言葉だった。体中が素早い動きに耐え切れず、液体のように溶けては再生を繰り返す。


「縺薙%縺ッ縺ゥ縺薙□縲らァ√�繧キ繝ウ繝、縺ィ繝ェ繧「縲√◎縺励※逾槭�鬆伜沺縺ォ雜ウ繧定ク上∩蜈・繧後▽縺、縺ゅk繧ォ繧ェ繝ェ縺ォ莨壹>縺溘>縲よ爾縺輔↑縺上※縺ッ縲√◎縺励※譛ェ譚・縺ッ縺昴�蜈医�驕句多繧貞、峨∴繧�」


 これは、そんなサチが不良少年と出会うまでのお話。


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