無理ゲークリアしたらゾンビ世界になってしまったのですが*

ゲームから始まるゾンビ世界 ホラー部門カクヨム最高2位
夢乃
夢乃

第77話【森根サチはいきなり未来の自分と会話する】

公開日時: 2020年12月5日(土) 14:03
文字数:3,717

 気絶したサチはその場で倒れ込み、落雷が落ちた周辺住民地では停電が多発している。まさか家に落雷したとは誰も思わず、誰もいない玄関で一人……サチは夢を見ていた。


■□■□


(真っ白だよぉ……この人は誰? どこかで見た事ある様な……私?)


「あのぉ、ここどこ!? 真っ白で何も見えないんですけど!」


「え! ここ? ――異世界転生するための天国で、私は女神」


「マジ!?」


「嘘!」


 会話のスタートは、こんな感じだった気がする。


 物事には必ず意味がなくちゃ、納得できない。


 約3年前――丁度中学校3年に上がってすぐの事、1000万という大金が振り込まれてたらしい。それを私が知ったのは高校に入学した後の事だった。


 それは偶然起きた奇跡か? はたまた、何かの事件に巻き込まれたか? それなら私は後者を望む。しかしサチは考えるわけだ。――この大金には何かメッセージになりうるものがあるんじゃないかと。


 使う、使わない? 考えるまでも無く一日で使い果たしてやった。


 自分の身に何が起こるか確かめてみたかった。――でも、私の身に危険が起こる事は無い。この時の期待を裏切られた感じを私は忘れないよ?


 そんな愚痴を目の前に立つ少女は笑いながら聞いている。そして「うんうん! それには意味があったよ! ただの時間稼ぎだけどね」っと、答えた。


 そこは真っ白な空間――サチの前に立つ少女は自分よりかなり歳をとっているが、見た目はとても自分とそっくりで、一言で言ってしまえば『未来の自分』だ。


 緑色のロングヘア―に、首元に付けられた古いヘッドホン。OLスーツの上に白衣を着ており、白衣は両肩に裾を通さずに肘の辺りまでしか着ていない。そんな自分とそっくりな『人間? 化け物?』を前に、少しだけ現実世界で何が起きたのかを考えていた。


 家が停電した所までは覚えている。気が付くと自分はこの真っ白な空間に立っていて、目の前には未来の自分が立っている。そんな状況じゃ、声をかけて会話するしかないでしょ!?


 から始まり、


 それからしばらく愚痴に付き合ってもらった。目の前にいる私は「何か聞きたいことある?」何て、可愛らしく笑いながら聞いてきた。しかし、その目は酷く真っ黒で……とても自分とは思えない、闇落ちしたヒロインの様な目をしている。


(まぁ、気にしないけどさ)


「えぇ~特にないけど? ――人生が楽しくなる方法を聞きたいかなぁ」


「ん? 安心していいよ。君の望む世界は、アイリスさんが作っちゃったから!」


「誰それ?」


「ん~私が知る限り、そこそこ頭がいい人間。――まぁ~私はさぁ、上には上がいると思うけど、リアっちが最終的には一番だと思うよ」


「リアっち? 一番? ――あり得ないよ」


「今の私なら否定するだろうけどさ。まぁ、これから色々楽しい事が待ってるよ? そこで少しずつ知っていけばいい! アイリス時雨さんも確かにすごい人だったけどさぁ……あれは私と同じで凡人なんだよね。リアっちの『研究成果を奪う』事しか出来ないんだから」


「アイリス? さっきから言ってることが意味わかめ何ですけどぉ? もうちょい分かりやすいヒントをプリーズ!!」


「だめぇ~知りすぎるのは禁止! これぐらいのピースなら渡して大丈夫って、最初の時点で決めてあるからさぁ。でもなぁ~リアっちはシンヤっちを前にすると格好いい所見せたくてしょうがない子だからなぁ……喋りすぎちゃって無いといいけど」


「もしかして……今、事件のピース配ってる段階!?」


「(え?)――そそ!」


「なるほどね! 推理ゲームは大好きだよぉ、ウミガメのスープとかやった事ある!」


「あぁ、本当にゲームだと思っちゃったよぉ(まぁ、いっか!)――私に特別な役目は無いからさぁ~天能リアって人が来るまでは好きに遊んでていいと思う! 自分で探すのもありだね! 刀の鞘を地面に叩きつけてみるといいよ。――あと、これも伝えとくよ?」


 少しだけトーンが落ちたように真面目な声が聞こえ、テンションが上がる。


「なになに!?」


「ふふ、私ねぇ~『リアっちが死ぬ寸前』に話してた内容を実は聞いててさぁ。計画の半分は向こうの世界で完了してるらしいんだよね? 詳細はアイリスさんにも言ってなかったけどさぁ……多分、最高にイカレタあの人の計画だからさ……調べてみるといいよ。リョウっちとシンヤっちは知ってるのかな? アイリスさんが恐れてるとしたらその懸念と、カオリっちの存在ぐらいじゃない?」


「ちょっと待って! えっと、リアっちと、シンヤっちと、リョウっちと、アイリスっちと、カオリっちね! この中に犯人がいるって事でいいの?」


「あはは……(駄目だなぁ、この頃の私)そうだよぉ! 後は、カイトっちも入れとこうかな? シンヤっちと仲が悪くて、リアっちの事が好きな少年キャラだよ」


「えっとぉ、リアっちはシンヤっちに格好いい所見せたい人で、そんなリアっちをカイトっちは好き――シンヤっちがどう思っているのかは謎? えぇ、三角関係!?」


「シンヤっちは実は女です」


「えぇ!? 百合……それはそれで、あり? でもそれならカイトっちとリアっちは恋人でも可笑しくないよね?」


「嘘。男の子!」


「やっぱり三角関係!?」


「実はカイトっちは女です」


「それは無い。男っぽいもん」


「バレちった……もう怒ったから消えます。ついでに二度と会えないからね! 後、『体を借りるのも無理』だから~そんな感じでよろしくぅ!」


「えぇ!? ちょ、まだ犯人見つけてないよ!?」


「さようなら~」


 そのまま徐々に未来の自分は消えていき、訳も分からないまま真っ白な空間は亀裂と共に真っ黒な空間へと変わっていく。闇に飲まれると同時に意識が遠のいていき、気付くとサチは玄関の前で仰向けになりながら空を見上げていた。


 色々と大切な話をしていたのだが、サチは全くと言っていいほど理解していなかった。頭がいいので話した内容は一字一句しっかりと覚えているが、これが今後どのような形で役に立つのか、今のサチは知る由も無い。


■□■□


【4月6日(火曜日)/13時26分】


 サチが目を覚ますと、いくつかあり得ない状況に気付いた。


 まず、家の玄関で寝ていた自分が空を見ている事だ。玄関にいるのに外が見えるという矛盾に頭を悩ませつつ、焦げた落雷の跡に目を見開く。


(え? 嘘でしょ? ――この家に雷落ちたって事? 天井消えてるよ!?)


 満点の太陽に照らされながら、流石に苦笑いを漏らした。


 そして漏らしたと言えば、漏らしたのだ。下半身が気持ち悪いほど冷たく濡れており、自殺したくなるほど身動きを取りたくない。この年齢で乙女心(笑)を汚されたことに、サチは酷くショックを受けていた。もう二度とお嫁にいけない程の恥辱を味わった気分である。


 真顔のまま流れる涙は瞳を覆いつくして太陽がぼやけて見える。


(あぁ、この年齢でやっちまったよぉ……このまま大きい方もして、自殺しようかな? ははは……もう、立ち直れないよぉ)


「太陽がまぶしい」


 そして、そんな空を謎の飛行物体が飛んでいる。とうとうフィクションと現実も分からないほど精神崩壊を起こしたんだと自覚しながら、謎の飛行物体を遠目で観察していた。


 その姿は真っ黒な肌をして顔中に大量の目玉が付いている化け物。背中から羽を生やして飛んでいる。体付きは普通の人間の2倍ほどのサイズで、細身の体型ながらとても良く目立つ。羽の動く速度とサイズから計算して飛行できるような感じには見えないが、一体何で飛んでいるのだろうと疑問に思った。


「すごい。映画の撮影かなぁ? 後、死にたい……」


 そして、そんな空を飛ぶ化け物の両腕には人間の足が握られている。足を握られて宙吊りにされてた2人の人間は生きており、酷く怯えたように暴れ回っている。そしてそのまま、空高くから地面に落とされた。


(あ、落ちた……映画じゃ無かったら死んでるよぉ)


「リアルだなぁ~すごいドキドキしたよぉ。って、イタタタタ……」


 フローリングという寝心地が最悪な一晩の睡眠により、体中が悲鳴を上げている。ゆっくりと腰を上げて、未来の自分と話した変な夢の内容を思い出しながらびしょびしょに濡れたスカートを捲る。


 シマシマ模様の可愛らしい下着とフローリング、そして破壊された天井を眺めた後に風呂場へと向かった。色々とテンションが上がる展開続きなのは認めるが、少しだけ身だしなみを整える時間と考える時間が必要だ。


 キャパシティを完全にオーバーしており、まだ夢の中にいる感覚。


 洗面台前で服を脱ぎ捨てて素っ裸になりながら両手を広げて背骨がパキパキと音を鳴らす。胸を前に突き出して少しだけストレッチをした後に、風呂場でシャワーを浴びた。


 まるで穢れを祓うかのように体が清められる感覚に頬を緩ませながら、力身まくった体中の力が抜けていく。ボディーシャンプーを大量に使いながらゴシゴシと汚れを落としていくわけだが……鼻歌を歌たってしまうよ!


「ラン、ラン、ランランル~ラン、ラン、ランランル~!」


 その瞬間――『ドガァ!!!!!!!』


 シャワーの音、鼻歌、そして『風呂場の壁が破壊される音』と共に、先ほど空を飛んでいた化け物が素っ裸のサチの前に現れた。そして互いに視線を重ねる……胸と下半身を隠して、シャワーヘッドを落す。


「え?」


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