信条シンヤは生徒教室が並ぶ北校舎から、職員室方面の南校舎へ飛び移り、現在は北校舎と南校舎を繋ぐための一本道になっている廊下を走っていた。階層は3階だ。
「放送を聞く限り、生徒たちはグラウンドに集まってるはず……」
内心シンヤはグラウンドに向かうか悩んでいた。このまま学校の外へ逃げたほうが安全な可能性もある。学校のルールに従うのが得策とは言えない。
何よりあの右腕が巨大化する化け物から距離を取りたい。この学校に居たくない……
そして3階から2階へ降りる最中に「きゃッぁっ!!」というか細い声が耳に入り、少しだけその場を立ち止まるが……気にしている場合ではないとそのまま足を進めた。
外へ出るためそのまま1階へと降りたシンヤは、その場で立ち止まる。
廊下をぞろぞろと歩き回る教師たちがそこにはいた……ゾンビになっている。
マジかよ……先生が……、てことはさっきの放送は?
シンヤは階段の途中に設置されている窓から、グラウンドの様子を窺う。この学校の半数以上の生徒がそこには固まっており、グラウンドの外には大勢のゾンビが集まっている。
この学校は、ゾンビ達によって囲まれていた。運がいいことに、柵で覆われているグラウンドの中に、まだゾンビ達は入って来ていない。
だがその事実に俺は頭を抑えることになる。
「学校の外も……ゾンビだらけなのか……? 嘘だろ」
この学校だけじゃない、少なくとも学校の周りにも被害が出ている。
「ァァ……ぁぁ……ぁぁ」
「……っ!」
――ドン!!
そして教師のゾンビ達がゆっくりとこちらへ向かってくるのに恐怖し、階段から蹴り落して、慌てて2階へと非難する。
そのまま2階の廊下を歩きながら、先程までいた北校舎の様子を見る。崩落した北校舎は、紛争地帯のような有様で、ここが本当に日本なのか疑問を持ちたくなった。
シンヤは2階の廊下を突き当りまで進み、もう片方の階段から外へ出ようとしている。
しかし放送室前で足を止めた。
その周りには血や化け物が暴れ回った形跡もないのにも関わらず、地面に眼鏡が落ちているからだ。
「これ……どっかで見た事ある……」
見覚えのある所有物に頭を抱えるが、思い出せない。
そのまま突き当りまで進もうとしたが、放送室から物音が聞こえたため慌てて扉から距離を取る。
化け物やゾンビの可能性に警戒心を高め、ゆっくりとその扉から距離を取って離れようとした瞬間だ。
「先生……おねがい……やめて……」
「その割には全然抵抗してないように見えるが?」
中から人の声が聞こえ【先生】という単語にシンヤは反応した。先程放送をかけた先生の可能性が高い。
俺はゆっくりと放送室の扉を開き、隙間から中の様子を窺う。
「――……っ!?」
この状況でこいつら、何やってんだよ……。あり得ないだろ……?
言葉を失った……中で女子生徒が服を脱がされて如何わしい事をしている。それもこんな異常事態に。常識はずれな行動に飽きれて、放送室の扉を閉めようとした。
しかしその女子生徒の表情が一瞬だけ視界に入る。
――その子は泣いていた。
頭を掻きながら、ため息が漏れる。どうしたものかと、頭を悩ませた。
合意の上だと思ったが……、犯されてるのか……行くか?
漫画やアニメに出てくる主人公はこんな時迷わずに行動に移せるんだろう。
しかしシンヤは普通の高校生だ。満員電車で痴漢されている女性がいたとしても、大声をだしてあげるような事は出来ないタイプの人間だ。周りに合わせて生きてきた人間の本能とも言える。
――バチ……激しさを増す不快な音に再び頭を抑える。
(くだらない事に時間をかけるな……考えてる余裕はない……)
気付いた時――、俺は放送室の扉を蹴り破っていた。そして襲われている女子生徒と目が合う。見覚えが無いが、どこか引っかかる顔をしていた。
「――……助けてよ、シンヤ君……」
その声に目を見開く。そこにいたのは皆音カオリだ。
同じクラスの委員長で、シンヤとほとんど面識はないが知らない人物でもない。
そんなカオリの助けを求める声に、体が動いていた。その泣き顔があまりにも似合わなくて、すぐにでも泣き止んでほしかった。
シンヤは、すぐ隣にいる男性教師を睨みつけ、顔面に渾身の蹴りをお見舞いしてやった。
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