「リュ、リュートさん、どちらに？」

　イオナが早歩きで歩くリュートに問う。

「町の東側だよ」

「フレイムゴブリンやゴブリンたちを退治したことによって北側が空きましたよ？」

「それは分かっているさ」

「な、ならばそこから避難した方が良いのでは？」

「だからそういうわけにもいかないのさ」

「ま、まさか……」

「そのまさかさ……」

「わああー！」

「いやあー！」

「お、お助けをー！」

　人々が恐怖し、逃げ惑う様子がリュートたちの目に飛び込んでくる。

「どうやら闇の帝王軍はこの街の攻略に本腰を入れているようだ」

「そ、そんな……」

「恐らく東西南北、四方を取り囲んでいるだろうね」

「ええ……」

　イオナが戸惑う。

「さてと……」

　リュートが周囲を見回す。

「リュ、リュートさん？」

「この建物の二階がちょうど良いかな」

　リュートがある建物に入り、二階に上がる。

「ちょ、ちょっと……」

「ふむ、良い眺めだ」

　リュートがベランダから街を見下ろして頷く。

「ま、また観察ですか？」

「そういうことだ」

「だ、大丈夫なんですか？」

「何が？」

　椅子に腰を下ろしたリュートが尋ねる。

「な、何がって……もしも危険が及んだら……」

「まあ、なんとかするさ……」

「な、なんとかするって……」

「己の身の守り方くらいは心得ているつもりだ……このくらいならばね」

「こ、このくらいって……」

「さあ、おいでなすったぞ……」

　リュートが視線を向ける。その先にはオークの集団がいる。

「ぐへっへっへっ！」

　オークたちが下卑た笑い声を上げながら迫ってくる。足がそれなりに速い。

「みょ、妙に動きの素早いオークたちですね⁉」

「闇の帝王の軍勢に属しているんだ……あれらも精鋭みたいなもんだろう」

「ちょ、ちょっとマズいのでは……⁉」

「まあ、少し見ていなよ……」

「ええ？　あっ⁉」

　イオナが視線を向けると、小太りの勇者たちが現れる。

「さてと、ここではどうするかな……」

　リュートが酒を注いだグラスに口をつける。

「ふん、オークどもが！　調子に乗るなよ！」

　小太りの勇者が威勢よく叫ぶ。

「ああん？」

「なんだあ？　おめえは……？」

「俺は勇者だ！」

「……」

　オークたちが黙り込む。小太りの勇者が首を捻る。

「な、なんだよ？」

「……ぐへっへっへっ！　あれで勇者だってよ！」

「は、腹痛え！」

　オークたちが飛び出た腹を抑えて笑い出す。

「ば、馬鹿にしやがって！」

　小太りの勇者が剣を抜いて斬りかかる。

「おっと！」

「なっ⁉」

　勇者の攻撃はオークの分厚い肉に跳ね返され、小太りの勇者は転んでしまう。

「へっ、やっぱり大したことねえな、まずはてめえを……」

「ひいっ……！」

「坊ちゃま！　危ない！」

「！」

　シャルがそこに槍を持って突っ込み、何匹かのオークを素早く貫く。

「こ、このガキ！　や、やりやがったな⁉」

「ふん……！」

「どわっ⁉」

　そこに強風が吹き荒れ、シャルはたまらず転倒する。

「はん……」

「あ、あれは……⁉」

「『ストームオーク』だな……奴も闇の帝王の配下の『四天王』の一角だ……」

　面食らうイオナに対して、リュートが説明する。

「か、風を吹かせるオークなんて⁉」

「また極めてレアだな……だからこその四天王なんだろうが……」

「ま、また、シャル君が危ないですよ⁉」

「……勇者の心配もしてやれよ……」

「ぼ、坊ちゃま！」

　体勢を立て直したシャルが小太りの勇者を守るように構える。

「ふん、二人まとめて風の刃で八つ裂きにしてやるよ……！」

　ストームオークが両手を交差させる。

「くっ……！」

「そらっ！」

「『ジャックフロスト』！」

「‼」

　ファインが叫ぶと、小さな氷の妖精が何体も現れて、ストームオークの放った風の刃を空中で凍らせてしまう。ファインがしてやったりという風に笑みを浮かべる。

「ふふん……」

「ちっ……！」

「さらに追い打ちよ！」

「⁉」

　ジャックフロストたちは氷の息吹で、ストームオークの両手も凍らせてしまう。

「うまくいったわね！」

「！　く、くそが！　溶かしやがれ！」

　ストームオークが叫ぶ。

「リクエストとあればしょうがないわね……マイ！」

「おうよっ！」

「ごはっ⁉」

　炎を手に宿したマイが拳をストームオークに叩き込む。ストームオークは凍った部分だけでなく、体全体を炎に包まれ、丸焦げになって倒れる。マイが他のオークも倒す。

「へへっ、どんなもんだよ！」

「ファインさんが召喚した妖精で凍らせて、そこにマイさんの紅蓮魔法を叩き込む……相当な温度差だ……あれにはなかなか耐えられない……上手い連携攻撃だな……」

　リュートが満足そうに頷く。