「……やったな! 帝王の軍勢を撃退したぞ!」
街に戻った小太りの勇者が小躍りして喜ぶ。
「ああ、そうだな……」
リュートが頷く。
「しかし、あっけなかったな! 帝王が倒されたと分かるやいなや大混乱に陥って!」
「まあ、戦というのは案外そういうものだ……」
「街から報奨金も出たぞ!」
「良かったな……それは皆さんに分けてやれ」
リュートがベルガたちを指し示す。
「あ、ああ、そ、そうだな……」
小太りの勇者が報奨金のたんまりと入った袋をベルガたちに渡す。リュートが頷く。
「報酬などは正当に分配されるべきだからな……」
「う、うむ……それで、街の駐屯部隊から相談を受けたんだが……」
「なんだ?」
「南方のある土地で邪王が復活したらしいんだ……」
「ああ、あの地方に封印されていた邪王か……」
「知っているのか?」
「その手の情報は頭に入っている……」
リュートが自らの側頭部を右手の人差し指でとんとんと叩く。
「そ、そうか……さすがだな……」
「それで? まさかとは思うが……」
「そのまさかだ! 今度は邪王討伐に赴こうと思う!」
「……本気か?」
「本気も本気だ!」
「ふむ……」
「なに、帝王を打倒した俺たちなら、邪王も恐るるに足らない!」
小太りの勇者が胸を張る。リュートが腕を組む。
「う~ん……」
「ち、違うのか?」
「……いや、可能だ」
「そうだろう! ついてはメンバーの補充をお願いしたいんだが……」
「その前に今回の報酬を頂こうか……」
リュートが右手を差し出す。小太りの勇者が苦笑交じりで応える。
「しっかりしているな……そう言うと思って、用意しておいた! ほらっ!」
リュートが受け取った金を確認する。
「……確かに。では、これをそっくりそのままお返しする」
「……うん?」
「よし、受け取ったな。手切れ金の成立だ」
「て、手切れ金⁉ ど、どういうことだ⁉」
「これでお前とこのパーティーは全くの無関係になった」
「そ、そんな! 勇者なくしてパーティーは成り立たないだろう⁉」
「勇者ならいるさ……ここに」
リュートがシャルを指し示す。小太りが驚く。
「えっ⁉ シャ、シャル……」
「坊ちゃま、申し訳ありません! シャルは自らの眼で世界を見てみたくなりました……」
シャルが深々と頭を下げる。リュートが笑みを浮かべる。
「まあ、そういうことだ……」
「ふ、ふざけるな! 皆がそれに納得するはずが……」
「オッカ、シャル好き」
「えっ⁉」
「シャル殿の為なら、どんな武具でも作ってみせます……!」
「まだまだ経験不足な面も否めませんが……」
「その辺りはお姉さんたちが教えてあげましょう~♪ 色々と……」
「ええっ⁉」
クイナとレプとルパの言葉に小太りが驚く。
「シャルくんはなんだか支えてあげたいと思うんです……」
「分かる! シャルっちは母性本能をくすぐるんだよね~。マイもそう思うっしょ?」
「ま、まあ、否定はしないよ……」
「えええっ⁉」
ユキとカグラとマイの言葉に小太りがさらに驚く。
「……正直、太っている男の人はちょっと……」
「えっ……!」
ファインの言葉に小太りは愕然とする。
「ごめんなさい! 貴方の為に戦う気にはどうしてもなれません」
「ええっ……」
アーヴの言葉に小太りは唖然とする。
「……美少年しか勝ちません……」
「えっ……」
ベルガの言葉に小太りは茫然とする。
「……よし! これでパーティーメンバーが完全に出揃ったな……それじゃあ行こうか」
「わ、わりと鬼畜の所業……! まさか最初からこれを狙って? お、恐ろしい人……!」
小太りを置いて、メンバーを引き連れて出発するリュートの背中を見てイオナが呟く。
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