「……」
リュートが頬杖をつきながら、馬車の車窓から外を眺める。
「あ、あの……」
イオナが口を開く。
「……なんだ?」
「ここら辺には大きな町はないと思うのですが……」
「町どころか村もないな」
リュートが笑みを浮かべる。
「ええ?」
「集落がいくつかあるかな……」
「しゅ、集落?」
「ああ、村と呼ぶには規模がやや小さいからな」
「な、何故、こんなところに?」
「なんでそんなことを聞く?」
リュートが問い返す。
「い、いや、だって……」
「だって?」
「人材がいるとは思えないからです」
「どうしてそう思う?」
「じ、人口が少ないでしょう」
「それで?」
「人口が少ないイコール、母数が少ないということです」
「ふむ……」
「それでは望むべき人材に巡り合えるとはとても思えません」
「まあ、確率は低いな……」
「低いじゃなくて、限りなくゼロに近いですよ」
「随分な言い草だな」
リュートが苦笑する。
「でも、そうでしょう? それに加えて……」
「加えて?」
「若者が少ないはずです」
「ああ、近隣の町村に出稼ぎに行ったり、そのままそこに居着くのがほとんどだからな……」
リュートは首をすくめる。
「で、では……」
「君の見立て通り、これから向かう集落群は過疎化・高齢化の一途を辿っているよ。どこの地域も抱えている問題だな……」
「ど、どうしてそんなところに?」
「どうしてだと思う?」
リュートが再び問い返す。
「で、伝説の大魔法使いがいるとか!」
「違う」
「そ、即答⁉ 違うんですか?」
「そんな奴がいたら噂になるだろう」
「た、確かに……」
「仮にいたとしても……」
「いたとしても?」
「足腰が弱っているのがオチだ。そんな奴をメンバーに引き入れても意味が無い」
「む、むう……」
「他にないかい?」
「れ、歴戦の剣豪がいるとか!」
「全然違う」
「ま、また即答⁉」
「全然違う」
「お、同じこと言わなくても良いんですよ!」
「だからそんな奴がいたら嫌でも噂になるだろう」
「そ、それはそうですが……」
「大体いたとしても……」
「い、いたとしても?」
「剣をまともに振れなくなっているか、腹がぽっこりとだらしなく出ているはずだ。とても冒険の旅には連れてはいけないだろうな」
「は、はあ……」
イオナがリュートを見つめる。
「……なんだ?」
「随分と具体的ですね……」
「……気のせいだ」
リュートが顔を背ける。
「はは~ん♪」
イオナが笑みを浮かべる。
「……なんだ、その笑みは」
「ひょっとしてなんですが……リュートさん、昔、その手の噂をまんまと信じて、痛い目見たことあるんじゃないですか?」
「……ノーコメントだ」
「あ~図星だ~」
「そんなことはいいから、予想を続けろよ」
「う~ん、幻の殺し屋がいるとか?」
「違う!」
「ま、またまた即答⁉」
「……違う!」
リュートがイオナに顔を近づけて言う。
「か、顔が近いですよ! 強調しなくても良いですから!」
「そもそもなんだ、幻の殺し屋って……」
リュートが席に座り直し、ため息交じりで呟く。
「いやあ、そういうミステリアスな存在かなっと……」
「殺し屋なんかをパーティーメンバーに入れるなんて、よっぽどの物好きだろう」
「そ、それはそうですね……」
「はあ……」
「ろ、露骨なため息! な、なにかヒントを下さいよ!」
「……それだ」
「え?」
「君がわざわざ持ってきたそれだ」
リュートがイオナの鞄からはみ出している新聞を指差す。
「ああ、これですか? 駄目ですよ、カフェに置いてっちゃあ……」
イオナが新聞を取り出す。
「それがヒントだ」
「ええ、これが?」
「そうだ」
「ええ、でも……一面にはドラゴン討伐の記事がデカデカと書いてありますが……」
「この地域のことじゃないだろう」
「そうですよね……経済の動向ですか?」
イオナが新聞をめくって尋ねる。
「それも大事だが、こういう田舎には直接的には関係のないことだ」
「そうですよね……猫ちゃんが一杯子供を産んだって」
「そんなほのぼのニュースはどうでもいい……」
「これも違うんですか?」
「違う。大体だな、ドラゴン討伐とか誰の目にも付く記事に注目してもしょうがない……」
「は、はあ……」
「三面記事に注目して、初めて他に差が付けられる……着いたようだぞ」
馬車が止まり、リュートたちが降りる。
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