「お疲れのところ、失礼するよ……」
「!」
控室にリュートが入ると、注目が集まる。
「お、おい、あれは……」
「ああ、伝説のスカウトマン、リュートだ……」
「本物か?」
「マジかよ、初めて見た……」
「誰をスカウトに来たんだ?」
控室がざわつく。
「すごい、有名人ですね……」
「ミイラ取りがミイラになってしまってはしょうがない……」
イオナが感心する横でリュートが苦笑する。
「お目当ての方は?」
「うん? いないな、控室に戻ったはずだが……」
リュートが控室に入り、周囲を見回しながら歩く。
「おい、リュートさんよ」
「うん?」
リュートが振り返ると、そこには大柄で禿頭の男性がいた。
「今回は不覚を取ったが……俺の剣は役に立つはずだぜ?」
「『豪剣』のガルベス……残念ながら君に用はない」
「なっ!」
「あまりにも力任せ過ぎる……技の後に隙が出来やすいのを改善した方が良い」
「むう……」
ガルベスが黙る。
「なるほど、俺がお目当てってことだな?」
小柄な男性がリュートに話しかける。
「『激剣』のスアレス……君にも用はない」
「んなっ!」
「剣速は大したものだが、一撃がどうも軽い……一撃必殺の心構えが欲しいな」
「ぬう……」
スアレスも黙る。
「はは~ん、っていうことはアタシにお誘いだね?」
長身の女性がリュートに話しかける。
「『魔剣』のマルシア……飲みの席なら喜んでお誘いしたけど、君でもない」
「なに?」
「剣技はなるほど見事だったが、それに溺れてしまっている。もっと精進が必要だ」
「うぬ……」
マルシアも黙る。
「ふっ、僕の才能は隠し切れないようだね……」
中肉中背の男性がリュートに話しかける。
「『秘剣』のゴンザレス、手の内を隠し過ぎだ……主役気取りはいらない」
「なにっ⁉」
ゴンザレスが愕然とする。
「自分の……」
「『猛剣』、言うほど猛っていなかったぞ」
「ぬっ⁉」
「私の……」
「『天剣』、ぴょんぴょん跳ねていただけだったな」
「うっ⁉」
「ワイの……」
「『獣剣』、あれは荒々しいのではなくて、ただ粗いだけだ」
「むっ⁉」
話しかけてきた者たちに対し、リュートがシンプルに講評を伝える。
「……ふん」
「ん?」
がっしりとした肉体の男性がリュートの前に立ちはだかる。
「やはり、わたくしのオーラに惹かれたか……」
「……誰だっけ?」
リュートが首を傾げる。
「なぬっ⁉」
男性が愕然とする。イオナが声を上げる。
「リュ、リュートさん!」
「うん?」
「『覇剣』のフェルナンデス選手ですよ!」
「ああ……」
リュートが思い出したかのように頷く。
「ふ、ふん、どうだったかな?」
フェルナンデスは髪を優雅にかき上げながら問う。
「……正直、一番期待外れだったな」
「なぬうっ⁉」
「リュ、リュートさん⁉ なんてことを!」
「思ったことを伝えたまでだ」
「も、もっとこう、オブラートに包んで……」
「それで鍛錬を怠り、実際の戦闘で怪我したり、命を落としたりしたら最悪だろう……自身の現状としっかり向き合うことが大事だ」
「そ、それはそうかもしれませんが……」
「まあ、あまり気にするなよ、評判倒れというのはよくある話だ……」
リュートはフェルナンデスの肩をポンポンと叩き、通り過ぎる。
「ひょ、評判倒れ……」
「だ、だから言い過ぎでは⁉」
「ストレートに言った方が誠実だと思うがね」
「む、むう……」
リュートが痩身の青年の前に立つ。
「優勝おめでとう。見事な戦いぶりだったよ」
「……どうもありがとうございます」
座っていた青年は立ち上がって頭を下げる。
「聞きたいことがあるのだが、良いかな?」
「はい」
「お師匠さんは?」
「祖父ですが、俺が子供のころに亡くなったので、そこから約十年はほぼ独学です」
「ふむ……大会に出るのは初めてかい?」
「はい、なにせ田舎者ですから……試合自体もほぼ初めてです……」
「自分の優勝という結果は率直にどう思う?」
「マグレなんじゃないかと……」
「なるほど分かった……アーヴさん」
「は、はい⁉」
リュートは青年の近くにいたぽっちゃりとした女騎士に声をかける。
「準優勝おめでとう。惜しかったね。しかし大健闘だ」
「あ、ありがとうございます……でもまだまだです。力も速さも技も……」
「そうか……君をパーティーメンバーにスカウトしたいのだがどうかな?」
「ええっ⁉」
リュートの申し出にアーヴが驚く。イオナが慌てて尋ねる。
「こ、こちらの彼を誘う流れじゃないんですか⁉」
「己の強さをはっきりと自覚していない者は伸び代がない。その点彼女はしっかりと自己を省みることが出来ている……。どうだいアーヴさん、今の勤め先より金払いは良いぜ?」
「お、お願いします……」
「決まりだな」
頭を下げるアーヴを見て、リュートが笑みを浮かべる。
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