「あ、あれえ⁉」
「何を素っ頓狂な声を上げているんだ?」
「い、いや、若者が……若い男女が多い!」
集落に入ってイオナが周囲を見渡しながら驚く。
「そうだな……」
「で、でも皆、服装が似ている?」
「……」
「おい」
「ぐえっ!」
リュートがイオナの襟首を引っ張る。
「あんまりジロジロと見るな、失礼だろう?」
「そ、それはそうですが……観察することも大事かと……」
「まあ、それはそうなんだが……もっとこう……さりげなくやれ」
「は、はあ……」
「とりあえず座るぞ」
「あ、はい……」
二人は集落全体を見渡せる位置にある垣根に腰かける。
「……どう思う?」
「若さが溢れています」
「そういうことじゃない」
「瑞々しさに溢れています」
「言い方の問題でもない」
「えっと、一人、二人、三人……」
「……何をやっている?」
「いえ、男子が何人か数えようかと思って……」
「男女比はこの際どうでもいい」
「いいんですか?」
「ああ、ってか、数え方下手だな……」
「いや、確実に数えようと思って……」
「大体の場合、男子が多いものだよ」
「え?」
「ざっと見た感じもそうだろう?」
リュートが集団を指し示す。
「た、確かにそうですが……あの……今、大体の場合とおっしゃいましたね?」
「ああ」
「もしかしてですが……この若人集団が何者かご存知なのですね?」
「集落の者ではないと分かったか」
「そ、それくらいは分かります」
イオナが頷く。
「ふむ、何者かというと……」
リュートが腕を組む。
「はい……」
「……」
「………」
「…………」
「あ、あの……?」
「知っていると言えば知っているし……」
「へ?」
「知らんと言えば知らん……」
「はあ?」
イオナが首を傾げる。
「まあ、そういうややこしい集団なんだよ」
「ど、どうややこしいんですか?」
「……さっき服装が似ていると気づいただろう?」
「ええ、魔法学院のような……」
「彼らは学校の生徒だ」
「学校の生徒?」
「そうだ」
「ど、どこの学校ですか?」
イオナの問いに対し、リュートが明後日の方向を指差す。
「……異世界だと言われている」
「い、異世界⁉」
イオナが驚く。
「そう、彼らは異なる世界からこの世界に迷い込んだんだ。いわゆる転移者ってやつだな。一説には何者かによって召喚されているとも聞くが」
「転移者……何者とは?」
「それは知らん」
リュートが首をすくめる。
「し、知らないんですか……」
「この場合、それはどうでもいいことだ。重要なのは、若い男女が二、三十人のクラス単位――彼らの世界でもクラスと言うらしい――で、この地に転移してきたということだ」
「そ、そうですか……リュートさんは分かっていたんですか?」
「不思議なことに毎年この時期になると、この集落群の近辺にああいう若い男女が多数現れる。何故かはよく分からん。彼らの証言を借りるならば――これも不思議なことに言葉は通じる――大体が『旅行中に事故にあったかと思ったら、ここにたどり着いていた』と……」
「旅行中?」
「こちらと異なる世界では、旅行のシーズンなんじゃないか?」
「はあ……あ!」
「なんだ?」
「リュートさんが見た記事ってこれですか? 『~~地方で謎の物体を発見~』ってやつ!」
イオナが新聞のある記事を指し示す。
「そうだ、そろそろその季節だろうと思って、新聞を眺めていたらビンゴだったよ」
「は、はえ~」
「なんていう声を出してるんだよ……」
リュートが苦笑する。
「も、もしかして……」
「うん?」
「この転移者たちをスカウトするんですか?」
「ほう、なかなか鋭いな」
「いや、それはさすがに分かりますよ」
「転移者というのはこれまた不思議なもので、高確率で優れたスキルを有している場合が多い。さらにこういうクラス単位での転移者に至っては、全員がスキル持ちであるというのも珍しくはない」
「へ、へえ……」
「加えて若いし、バイタリティーもある……野心もな」
「じ、人材の宝庫じゃないですか⁉」
「そうとも言うな」
「うわあ~てっきり高齢化過疎化集落だと思っていたら……」
「常識に囚われるなってことだ」
「なるほど、では誰をスカウトするんですか? あのリーダーシップのありそうな男子? それともガタイが良い男子?」
「違うな」
「ええ?」
リュートがイオナの指し示したリーダーシップのありそうな男子に話しかける。二言三言話した後、リュートが戻ってくる。
「よし、集落を出るぞ」
「ええっ⁉」
リュートの言葉にイオナがびっくりする。
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