夏色グラビティ 〜この声がキミに届くまで〜

ステージの上で歌うって、…まじ?
平木明日香
平木明日香

第11話

公開日時: 2025年2月23日(日) 15:28
文字数:1,561



翌日、進也(=さやか)はスマホを取り出し、バンドメンバーのグループチャットを開いた。


パスワードがどうしてもわからなかったから、ドコモショップに行き、パスワードのリセットをお願いしていた。


指紋認証で解除できるようにしてもらってから、みんなともやり取りができるようになっていた。


──「久しぶりに、みんなと会いたい」


そうメッセージを送ると、すぐに返信が来た。


蓮:「お、いいね!」

陽菜:「私も行く」

直美:「さやかが元気そうで良かった」

圭吾:「焼肉行く?(笑)」


──この何気ないやりとりも、進也には"異世界の会話"のように感じられた。

でも、今は彼らの話を聞く必要がある。


数時間後、進也(=さやか)は待ち合わせ場所のカフェへ向かった。



カフェの奥の席で、バンドメンバー4人が待っていた。


「おー、さやか! ちゃんと生きてるか?」


「だから病人扱いしないの!」


圭吾がふざけて言い、直美が軽くツッコミを入れる。


進也は席につき、ドリンクを注文した。


そして、本題に入る。


「……ねえ、私の歌ってさ……みんなにとって、どんな感じだった?」


メンバーが、一瞬黙る。


蓮が、コーヒーを混ぜながら答えた。


「どんなって……お前が書いてた歌詞のことか?」


「うん」


進也は、真剣な眼差しで彼らを見た。


「私は、どんなことを歌ってた?」


陽菜が、ゆっくりと言葉を選ぶように口を開く。


「……さやかの歌詞って、"まっすぐ"だよね」


「まっすぐ?」


「うん。何かこう……"誰かに届いてほしい"って気持ちが、すごく強い感じがする」


進也は、心臓が跳ねるのを感じた。


──まさに、ノートに書かれていた"さやかの想い"と同じだった。


(やっぱり、さやかの歌は"誰かに届けるため"のものだった……)


「……そっか」


進也が呟くと、今度は圭吾が腕を組みながら言った。


「まあ、俺は歌詞の意味とかあんまり深く考えないけどさ」


「お前はもうちょい考えろ」


蓮がツッコむ。


「でもさ、さやかの歌詞って、どこか"悲しさ"があるんだよな」


「悲しさ……?」


進也は、思わず聞き返した。


「うん。楽しい曲でも、どこか"寂しい感じ"がするっていうか……」


「……」


それは、進也にとって"新しい気づき"だった。


(さやかは、歌で"誰かを笑顔にしたい"と思っていた。でも……)


("楽しい歌"なのに、どこか"悲しさ"がある……?)


進也は、圭吾の言葉が引っかかった。


──それって、"母親のこと"が影響しているのか?



「さやかの歌って、"希望"と"寂しさ"が入り混じってる感じなんだよ」


今度は、直美が優しく言った。


「それが、私は好きだった」


「……そうなんだ」


進也は、ゆっくりと頷いた。


"希望と寂しさ"。


──確かに、それは"さやかの人生そのもの"だったのかもしれない。


母親が笑ってくれるのが嬉しかった。

でも、母親はいなくなった。

それでも、歌うことで"誰かのために"なりたいと思っていた。


──その想いが、彼女の歌に込められていたのだろう。


だが、そこでふと疑問が浮かんだ。


(……もし、さやかが本当にそれを貫きたかったなら、なんで"あのノート"を隠してたんだ?)


机の底に、埋もれるようにしまわれていたノート。


──まるで、"誰にも知られたくなかった"かのように。


進也は、何かが引っかかるのを感じた。



「ねえ、さやか」


蓮が、少し真剣な顔で言った。


「……お前さ、本当にバンド、またやる気あるのか?」


その言葉に、進也はドキリとした。


「え?」


「いや、事故のこともあるしさ。無理に戻らなくても……って思うんだけど」


「そ、そうだよね……」


進也は、適当に答えながら考えた。


──もしかして、蓮は"何か"を知っているのか?


(……でも、それを今、聞くのはまだ早い)


「ううん、私は……戻りたいよ」


そう言うと、蓮は少し寂しそうな笑顔を見せた。


「……そっか」


その一言が、やけに引っかかった。

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