夏色グラビティ 〜この声がキミに届くまで〜

ステージの上で歌うって、…まじ?
平木明日香
平木明日香

第14話

公開日時: 2025年2月23日(日) 16:14
文字数:1,367



進也は、家の中をもう一度探した。

そして、物置の奥にある"古い箱"を見つけた。


中を開くと、そこには──


一枚のCDがあった。


表面には、シンプルなデザインと、母の名前。


──「TAKATSUKI RISA / First Melody」


(……母さんの、アルバム?)


進也は、息を呑んだ。



CDプレイヤーにディスクを入れる。


ゆっくりと、静かなピアノの音が流れ出した。


そして──


女性の、透き通るような歌声が響いた。


──「光の向こうに、私はいるの?」

──「答えのない旅を、いつまで続ければいい?」


進也は、胸の奥がぎゅっと締めつけられるのを感じた。


(……この声、どこかで……)


そうだ。


──さやかの声に、よく似ている。


進也は、イヤホンを耳に押し付けるようにして聴き続けた。


歌詞のひとつひとつが、どこか切なく、それでいてまっすぐだった。


──"さやかの歌詞"と、どこか似ていた。


(……さやかは、ずっとこの声を聴いて育ったんだな……)


進也は、知らないはずの感情が、自分の中に湧き上がるのを感じた。


母のようになりたかった。

母のように歌いたかった。


──それが、"さやかの原点"だったのだ。



「……そのCD、どこで見つけた?」


声に驚いて振り向くと、そこには兄・直哉が立っていた。


「……物置の奥にあった」


進也がそう言うと、直哉はため息をついた。


「そうか……まあ、別に隠してたわけじゃないけどな」


「……お母さん、歌手だったの?」


直哉は、少しだけ沈黙した後、ゆっくりと頷いた。


「……ああ、"TAKATSUKI RISA"っていう名前で活動してた。メジャーデビューもしてたんだ」


「メジャーデビュー……」


進也の心臓が、ドクンと脈打つ。


「でもな、最初のアルバムはそこそこ売れたんだけど、2作目以降、ヒット作に恵まれなくて……。どんどん、追い詰められていったんだ」


進也は、息を呑んだ。


「……それで、家を出たの?」


「……ああ」


直哉は、少し顔を曇らせる。


「"もう一度本当の自分を探し直す"って言って、家を出て行った」


「……」


「俺も、父さんも、納得できなかったよ。家族を捨ててまで、"夢"を追いかけるのかってな」


直哉は、苦笑いを浮かべた。


「結局、母さんはその後も大きな成功を掴むことはできなかった。結局、"家族"も"音楽"も、どっちも失ったんじゃないかって……俺は、そう思ってた」


進也は、拳を握った。


──でも、さやかは違った。


さやかは、そんな母の声に憧れていた。

そんな母の歌を愛していた。


(……さやかは、それでも母さんみたいになりたかったんだ)


そして、さやかは母親のいなくなった家で、自分なりの歌を作り続けた。

誰かに届くようにと願いながら。


それが、"さやかの音楽"だったのだ。



夜の間中、進也はベッドの上で、改めて母の手紙を見つめた。


──「さやかが、本当に歌いたいと思った時、その歌を"誰のために"歌うのか、考えてほしい」


"誰のために"。


母は、"家族のために"歌えなかったのか?


それとも、"自分のために"歌おうとして、苦しんでいたのか?


(……母さんの"本当の想い"を知りたい)


そして、さやかがなぜ「母のようになりたい」と思ったのかも。


進也は、再び決意する。


──もっと、母親について調べよう。


母親が今どこにいるのか。

彼女が何を考えていたのか。


そして、"さやかが本当に歌いたかったもの"を、見つけるために。



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