机の引き出しを探ると、いくつかのアルバムが見つかった。
"高月家の思い出"と書かれた表紙。
進也は、静かにページをめくった。
──そこには、家族の写真が並んでいた。
幼い頃のさやか。
兄の直哉。
父親の雅弘。
そして──
母親。
進也は、母の姿をじっと見つめた。
──穏やかな表情の女性。
だが、違和感があった。
──写真が、ある時期から"母だけが消えている"。
最初の数ページには、母親がいる。
だが、あるページを境に、"母親の姿だけがなくなる"のだ。
まるで、意図的に存在を消されたかのように。
「……」
進也は、無意識のうちにページをめくる手を止めていた。
アルバムを調べたあと、進也は母親の部屋だった場所を探すことにした。
──現在は、物置になっていた。
父親が「もう使わない」と言っていた部屋。
進也は、その部屋の奥にある古い机の引き出しを開けた。
──そして、そこに封筒を見つけた。
封筒は、やや黄ばんでいた。
手書きの文字がある。
「高月 雅弘へ」
──父親宛の手紙。
進也は、喉の奥が詰まるのを感じながら、ゆっくりと封を開けた。
「雅弘へ」
「この手紙を読んでいる頃には、私はもう家を出ています」
「突然いなくなってしまって、ごめんなさい」
進也は、息を呑んだ。
やはり、母は"何も言わずに消えた"わけではなかった。
父親が言っていた「置き手紙はなかった」という話も、違っていたのか?
「私は、このままここにいることができません」
「でも、子供たちのことは、お願いしたい」
──子供たちのことを"お願いする"?
「さやかには、まだ言えないことがある」
「いつか、彼女が本当に自分の夢を見つけた時、その時こそ伝えるべきことがある」
進也の心臓が高鳴る。
──"伝えるべきこと"?
「私は、ずっと歌が好きでした」
進也の目が、驚きに見開かれた。
──母親も、歌が好きだった?
「でも、それが幸せにつながるとは限らない」
「さやかには、自分の道を見つけてほしい」
──何を意味している?
進也は、手紙を強く握りしめた。
(母親は、何を"隠していた"んだ……?)
進也は、最後の一文を読んだ。
「さやかが、本当に歌いたいと思った時、その歌を"誰のために"歌うのか、考えてほしい」
手が、震えた。
──"誰のために"?
進也は、ノートの中に書かれていたさやかの言葉を思い出す。
「私は、歌で誰かを笑顔にしたい」
──"誰か"とは、一体、誰だったのか?
進也の胸の奥に、得体の知れない不安が広がっていく。
(俺は……もっと知るべきだ)
母親が、何を隠していたのか。
さやかが、本当に歌いたかったものは何なのか。
進也は、決意した。
(もう少し、この手紙を調べよう)
"何か"が、まだ隠されているはずだ。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!