夏色グラビティ 〜この声がキミに届くまで〜

ステージの上で歌うって、…まじ?
平木明日香
平木明日香

第13話

公開日時: 2025年2月23日(日) 16:11
文字数:1,090



机の引き出しを探ると、いくつかのアルバムが見つかった。


"高月家の思い出"と書かれた表紙。


進也は、静かにページをめくった。


──そこには、家族の写真が並んでいた。


幼い頃のさやか。

兄の直哉。

父親の雅弘。


そして──


母親。


進也は、母の姿をじっと見つめた。


──穏やかな表情の女性。


だが、違和感があった。


──写真が、ある時期から"母だけが消えている"。


最初の数ページには、母親がいる。

だが、あるページを境に、"母親の姿だけがなくなる"のだ。


まるで、意図的に存在を消されたかのように。


「……」


進也は、無意識のうちにページをめくる手を止めていた。



アルバムを調べたあと、進也は母親の部屋だった場所を探すことにした。


──現在は、物置になっていた。


父親が「もう使わない」と言っていた部屋。


進也は、その部屋の奥にある古い机の引き出しを開けた。


──そして、そこに封筒を見つけた。


封筒は、やや黄ばんでいた。


手書きの文字がある。


「高月 雅弘へ」


──父親宛の手紙。


進也は、喉の奥が詰まるのを感じながら、ゆっくりと封を開けた。



「雅弘へ」


「この手紙を読んでいる頃には、私はもう家を出ています」


「突然いなくなってしまって、ごめんなさい」


進也は、息を呑んだ。


やはり、母は"何も言わずに消えた"わけではなかった。

父親が言っていた「置き手紙はなかった」という話も、違っていたのか?


「私は、このままここにいることができません」

「でも、子供たちのことは、お願いしたい」


──子供たちのことを"お願いする"?


「さやかには、まだ言えないことがある」

「いつか、彼女が本当に自分の夢を見つけた時、その時こそ伝えるべきことがある」


進也の心臓が高鳴る。


──"伝えるべきこと"?


「私は、ずっと歌が好きでした」


進也の目が、驚きに見開かれた。


──母親も、歌が好きだった?


「でも、それが幸せにつながるとは限らない」

「さやかには、自分の道を見つけてほしい」


──何を意味している?


進也は、手紙を強く握りしめた。


(母親は、何を"隠していた"んだ……?)



進也は、最後の一文を読んだ。


「さやかが、本当に歌いたいと思った時、その歌を"誰のために"歌うのか、考えてほしい」


手が、震えた。


──"誰のために"?


進也は、ノートの中に書かれていたさやかの言葉を思い出す。


「私は、歌で誰かを笑顔にしたい」


──"誰か"とは、一体、誰だったのか?


進也の胸の奥に、得体の知れない不安が広がっていく。


(俺は……もっと知るべきだ)


母親が、何を隠していたのか。

さやかが、本当に歌いたかったものは何なのか。


進也は、決意した。


(もう少し、この手紙を調べよう)


"何か"が、まだ隠されているはずだ。

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