夏色グラビティ 〜この声がキミに届くまで〜

ステージの上で歌うって、…まじ?
平木明日香
平木明日香

第7話

公開日時: 2025年2月23日(日) 14:37
文字数:1,064



「……また抜け出すんじゃないぞ」


父親に見送られながら、進也(=さやか)は病院に戻った。

数日は安静にするように言われている。

けれど、もう体は十分動く。


──それでも、"さやかの意識"は戻らない。


それが、進也を不安にさせていた。



病院に戻って二日目の昼、病室のドアが勢いよく開いた。


「おおーっ! さやかー! 生きてたかー!!」


「おい、病室なんだから静かにしろって……」


騒がしい声に驚き、進也が振り向くと、そこには4人のバンドメンバーが立っていた。


「Blue Moon」のメンバー──羽柴蓮、真壁陽菜、三浦圭吾、小田直美。


彼らが、病室を訪れた。


「お前、急に事故なんて……マジで心配したんだからな」


「さやかがいないと、バンド回んないし」


「うるさい圭吾。とにかく、無事でよかった」


"俺の知らない世界の人たち"が、俺を"さやか"として見ている。


進也は複雑な気持ちだったが、今はどうすることもできなかった。



「とりあえず、これ」


蓮が差し出したのは、バンドメンバー全員の寄せ書きが書かれた色紙だった。

「元気になったら、またバンドやろうな!」と大きく書かれている。


「……ありがとう」


自然と口から出た言葉は、"さやかの言葉"のような気がした。


「で、調子はどう?」


陽菜が問いかける。


「……まあ、大丈夫……かな」


「そっか……本当に、良かった……」


小田が小さく微笑む。


進也は、"さやか"として会話を続けながら、彼らとの関係を探っていった。


──でも、違和感があった。


蓮は明るく振る舞いながらも、どこか落ち着かない様子だった。

圭吾は、何か言いたげにこちらを見ている。

陽菜は、さやかの目を真正面から見ようとしない。

小田は、無理に明るくしているように見えた。


──何かある。


バンドメンバーの中に、さやかが事故に遭う前の"違和感"を知っている者がいる。



「……そういえば、事故の前の日……」


進也が何気なく口にした。


「私……何か話してたっけ?」


その瞬間、全員の表情が固まった。


「え?」


「……あ、いや……」


「その……特に、何も……」


明らかに"何かを隠している"空気が流れた。


進也の心臓が早鐘を打つ。


──さやかは、事故の前に"何か"を言っていた。

──けれど、彼らはそれを話したくない。


「明日、私は変わる」


日記に残された言葉と、メンバーの反応。


──さやかは、事故の前日に何かを決意していた。


「……ごめん、なんでもない」


進也は、それ以上は聞かなかった。


でも、確信した。


このバンドの中に、さやかの"最後の気持ち"を知る人間がいる。


それを知ることが、"さやかが消えた理由"に繋がるかもしれない。

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