ゼルゼレイ、そしてアデュラの指示の元、帝国兵の一団に囲まれ、拘束される形でシヴィルが連行されたのは、村の奥まった敷地にある大きな屋敷だった。
ここがアルマンド伯爵の別荘なのだろう。
屋敷の外見は瀟洒だが、兵たちに連行されるまま、その裏手にある地下への階段を降りると、そこは薄暗く――
そして、いやな匂いがした。
(これは……死の匂いだわ)
貴族の別荘の地下に、このような場所があろうとは。
そこは、家畜小屋よりもさらに悪臭ただよう、地下の牢獄部屋だった。
「巫女殿には居心地のいい場所ではなかろうが、我々の用が済むまでは、ここで大人しくしていてもらおう」
ゼルゼレイが冷ややかにそう言い、シヴィルを拘束した際に奪った、リドリスの神剣を手にして、
「この剣も、預からせてもらう。
まあどのみち、そなたにはもはや不要であろうがな」
そして、兵たちと共に去って行った。
檻に閉じ込めたとはいえ、見張りすらつけていないのは、小娘一人には何もできないと踏んでいるからか。
(……御使い様に、用心しろと言われていたのに……)
結局、自分一人の力では、自分の身を守ることすらできない……
シヴィルは一人、嘆息した。
(どうにかして、ここから出ないと…)
シヴィルは周囲を見回し、脱出の方法を探った。
檻は頑丈で、武器も道具もないシヴィルでは、破壊するのは容易いことではない。
仮にどうにかして、破壊して出られたとしても、その音にすぐ帝国の兵士たちが押し寄せてくるだろう。
『必要な時はいつでも、わらわを召喚するのだぞ』
ふと脳裏に、リンディの言葉が蘇った。
(こんな時こそ、彼女の力を借りられたら……!)
万一の為に、リンディや死骸兵を召喚する術は魔王から教わっている。
だが――
(ここで彼女を召喚しても、冥龍の力で暴れられたら大騒ぎになってしまう。
御使い様のような力のない私に、暴れ出した彼女を制御する力はない……)
下手をすれば、ゼルゼレイとアデュラが村の各所で待機しているという兵士たちに指示を出して、村に危害を加えかねない。
それでは、こうして大人しく囚われの身になった意味がなくなってしまう。
結局、今の自分にはどうすることもできないと悟り、シヴィルはうずくまり、膝を抱えた。
(私には、御使い様のような力も、冷徹な決断力もない。
今までだって、誰かと争うのが嫌で、戦う事からも目を背けてた……
こんな私が、戦女神リドリスの巫女だなんて……)
狭い檻の中で一人、自責の念に沈んでいた、その時。
忍ぶようにして、こちらへ近づいてくる何者かの足音が聞こえた。
松明を手に、薄闇の向こうから現れたその姿は――
「――アレアさん!」
「……お静かに。
今、出して差し上げます」
それは紛れもなく、昨夜シヴィルが眠りについて以来、姿の見えなかったアレア本人だった。
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