魔王と巫女の重奏譚(アンサンブル)

魔王と巫女、一つの身体を共有する二人が、英雄の築いた帝国に立ち向かう。
風祭史紀
風祭史紀

【6】再会

公開日時: 2021年11月8日(月) 03:35
更新日時: 2021年11月8日(月) 18:27
文字数:1,095

 扉の前にやってきた足音の主は、外側から扉の鍵を開けようとしている。


(どこか、隠れられる場所は……!)




 慌てて周囲を見回すシヴィル。

 完全にシヴィルの姿が隠れそうなものといえば、部屋の奥にある棺か、片隅にある祭壇しかない。

 とっさの判断で、祭壇の陰へと身を潜めると、一瞬遅れて部屋の扉が開き、二人の人間が入ってきた。



 一人は、予想通り、死霊術師ゼルゼレイ。


 そしてもう一人、その後ろにいるのは――

 毅然としつつも、怯えた表情を隠しきれないアレアの姿。


「本当に、約束を果たして下さるのですか」

「ええ。

 貴女の働きには、我々も感謝しているのです。

 それに――」


 ゼルゼレイは、口元を薄笑いに歪めて、


「『彼』もきっと、貴女に逢いたがっていることでしょう」


 そして、部屋の奥にある、大きな黒い棺のほうへとアレアを促す。


「さあ、こちらに」


 祭壇の陰からその様子を見つめながら。 シヴィルは嫌な予感がした。


(まさか、あの黒い棺の中身は……!)


 ゼルゼレイによって棺の蓋が外された。


 その中に、横たわっていたもの。

 それは――



「エセリオ……!」

 

 アレアが、愛しいその名を呼んだ。


 その、白骨化した遺体は――

 まぎれもなく、アレアの夫・エセリオのものだった。


「『彼』との久しぶりの再会は如何です?

 貴重な薬品を丁寧に塗っておいたのです。

 悪くない保存状態でしょう」


 まるで自分の蒐集品コレクションを自慢するかのようにそう語るゼルゼレイを、アレアはきっと睨みつけて、


「早く彼を、蘇らせてください。

 リドリスの巫女様を捕らえる手助けをしたら、彼を生き返らせ、共に暮らせるようにしてくれる――

 そういう約束だったはずです」

「もちろんですとも。

 約束を違えたりはいたしません。

 ですが――」


 ゼルゼレイがさも愉快そうに、くっくっと笑い、


「もう彼は、蘇っているのですよ。

 この私の『屍操術』によって、我が忠実なる『死骸兵』の一体として!」




 その言葉に応じるかのように、棺の中の白骨はカタカタと音を立てて身を起こすと、剣を手に立ちあがった。


「どういう……どういうことです!

 これでは――話が違います!」


「これは異な事を。

 まさか、死んだ者が生前と全く同じ状態で蘇るなどと、そんな都合のいい術が、本当に存在するとでも思っていたのですか?」


「そんな……!

 そんな、それでは……!

 エセリオは……あの人は、もう、二度と……?」


 愕然と。

 アレアは力なく、膝をついてくずおれた。

 眼前に立つ変わり果てた夫の姿を目の当たりにして、その瞳から静かに、一筋の涙がこぼれ落ちる。


「そう、貴女の望みは――

 最初から、愚かしい幻でしかない。

 死者は、もはや生者には戻れぬというのに」


 絶望するアレアの姿を、ゼルゼレイは嘲笑した。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート