魔王と巫女の重奏譚(アンサンブル)

魔王と巫女、一つの身体を共有する二人が、英雄の築いた帝国に立ち向かう。
風祭史紀
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【7】死霊術師の正体

公開日時: 2021年11月13日(土) 05:46
更新日時: 2021年11月13日(土) 05:57
文字数:1,232



「最初から私を騙していたのですか、ゼルゼレイ!」


「騙すとは人聞きの悪い。

 それに、このような姿に変わり果てたとはいえ――

 もはや生前の記憶も知能も持たぬ動く屍とはいえ、

 こうして蘇ったことには違いありますまい?」


「――よくも!」


 アレアは懐から短剣を取り出すと、その刃を向けて、ゼルゼレイにとびかかろうとした!

 しかし、それよりも素早く、黒衣の死霊術師は短剣を握ったアレアの手首を掴んで捻り上げ、あっさりと彼女の身動きを封じてしまった。


「――この、外道ッ!」

「折角望みを叶えて差し上げたのに、そのような言われようは心外ですな」


 ……これ以上は、アレアが危ない!

 祭壇の陰から様子を伺っていたシヴィルも、さすがに限界だった。




「彼女を放しなさい!」


 姿を現したシヴィルに、ゼルゼレイは驚いた様子もなく。


「出て来たか、リドリスの巫女。

 武器もなく、非力な貴女が、勇敢なことだ」


 最初からそこに潜んでいたことを承知の上だった、と言わんばかりに、口の端を愉快そうに歪ませた。


「……で、この女を放さなければ、どうするというのだね?」


 ゼルゼレイの言う通り、今のシヴィルには武器もなく、攻撃に使えるような魔法も身につけてはいない。

 アレアを救うために、できることといえば――


(一瞬でも、隙が作れれば……!)


 ゼルゼレイは、こちらを侮って油断している。

 不意を打てれば!



「――浄化の光よ!」


 短い詠唱と共に、眩い閃光が部屋を青白く染めた!


 それは戦闘には何の威力もない、ただ澱んだ魔力を払い、浄化する閃光の魔法。

 術を発動させるための詠唱が短く、瞬時に発動するため、神殿暮らしだった幼い頃、シヴィルが側仕えの神官たちを驚かす悪戯によく使っていたものだった。



「――ぐおぉッ!」


 肉体的なダメージなどないはずにも関わらず――

 ゼルゼレイは苦鳴を上げ、予想以上に怯んだ。


(――今だ!)


 全力でゼルゼレイに体当たりするシヴィル。

 思った以上に軽く、ゼルゼレイは後方に弾き飛ばされると、背後の壁に激突し、倒れた。


「アレアさん!」


 シヴィルが、アレアに手をのばす。

 アレアがその手を掴み、二人はうずくまったままのゼルゼレイから距離をとって、その様子を伺う。





「ググッ、おのれ、小娘めがッ、小癪な真似をッ……!」


  目くらましのつもりでシヴィルが放ったその魔法は、ゼルゼレイにとって予想外の――そして致命的な反撃であった。


 ゼルゼレイを覆っていた澱んだ魔力が――

 偽りの姿に見せていた変化の呪文が解け、その正体が露わになる。


 その姿は――



「アンデッド!?」


 スケルトンのように白骨化した身体に、いまだ脈打つ臓物をその身に宿した醜悪な姿。

 眼窩に蠢く眼球は、邪悪な知性の光に爛々と輝いている。


「まさか――リッチ……!」


「……左様。

 我こそは魔王ダムサダール陛下に仕えし、かつての七将が一人――

 『異端者ヘレティック』ゼルゼレイ!」


 カカカッ、と不快な笑い声をあげて、ゼルゼレイは叫んだ。


「この姿を見られたからには、もはや容赦はせぬ。

 小娘ども、生きてここから出られると思うな!」

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