魔王と巫女の重奏譚(アンサンブル)

魔王と巫女、一つの身体を共有する二人が、英雄の築いた帝国に立ち向かう。
風祭史紀
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【4】初めての友達

公開日時: 2021年10月19日(火) 19:30
文字数:1,232

「我が父、龍王バヌーティスは幼いわらわを忌み嫌い、殺そうとした。

 そんなわらわを救い、腹心の配下である、魔軍七将の一人として、居場所を与えて下さったのが、ダム様……

 ゆえに、わらわはダム様に全てを捧げると決めたのだ」



「そうだったのですね…」

「まあ、昔の話だ。

 そのダム様も、もうおられぬ…」

「先ほど、貴女は私に何を望むかと聞きましたね。

 貴女自身はこれからどうしたいのです、ヴァルグリンド」

 シヴィルの思ってもみない問いに、一瞬戸惑って。

「わらわが、どうしたいか…?

 そんなこと、考えたこともなかった。

 わらわはずっと、ダム様に従って生きてきたのだ」

 そう呟く冥龍の少女は、人間で言うなら、親を喪い、途方にくれた子供のようなものだった。

「ダム様がいない今、わらわには何もない……

 このままこの結界の中で、孤独に朽ちていくのもいいかもしれぬな……」


「――なら!」

 ぐっと身を乗り出して、シヴィルが提案した。

「私と友達になりましょう、ヴァルグリンド!」



「と、突然何を言い出すのだ。

 お前と、わらわが……友達、とな?」

「ええ。私も、御使い様……

 いえ、ダム様と出会うまで、ずっと孤独だったのです。

 私と貴女は、きっと同じ気持ちを抱えていて……だから、きっと、分かり合える。そう思ったのです。

 ……お嫌でしょうか?」

「い、いや……

 ただ、わらわも、友などというものを持ったことがないゆえ、よくわからぬのだ」

「ふふ、私もです。一緒ですね」

(やれやれ……)

 勝手に 意気投合する二人の話を聞きながら、魔王は呆れていた。

(だがまあ丁度いい。冥龍の扱いは、シヴィルに任せよう)

 魔王は傍観を決め込むことにした。



「ならば、今からわらわはお前の友となろう、シヴィル」

  冥龍の少女は微笑んだ。

「早速だが、お前に頼みがある。

 わらわのことは……そうだな、『リンディ』とでも呼んでほしいのだ。

 ヴァルグリンドの名はものものしくて、自分でも好きになれぬのだ」

「わかりました、リンディ」



「あなたも、結界を出て共に行きませんか?」

 シヴィルの誘いに、友となった冥龍は、首を横に振った。

「……ダム様はもはやおられぬと聞いても、今はまだ、そんな気分にはなれぬ。

 だが、いつか――

 お前がわらわを必要とする時になったら、わらわは友としてお前を護り、力を貸そう」

「わかりました。

 また、逢いましょう、リンディ」


《――去る前に、こやつに訊くことがある。

 代われ、シヴィル》

交代すると、魔王は冥龍に問いかけた。

「リンディ。

 他の七将は、どうしているかわかるか?」




「すまぬ。奴らのことは全くわからぬ。

 ここに来て四百年、わらわはずっとここから出ておらぬでな。

 元々、七将と呼ばれた他の連中とはさほど親しくもなかったし……」



「……そうか。

 では、また逢おう。息災でな」

「……。

 そなたもな、我が友シヴィル。

 必要な時はいつでも、わらわを召喚するのだぞ」


 シヴィルの姿がゲートの中に消えるのを見送って、薄闇と霧の世界に残った少女は小さく呟いた。

「あの時のダム様と、同じことを……」

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