(私自身の力では、彼女には勝てない…!
やはり『光輝の絶剣』を使うしか…!)
シヴィルは神剣を掲げ、女神への祈りの言葉を唱える。
「女神リドリス様。
今一度、私にご加護を…!」
「ふん、殺し合いの最中に、お祈りとは――」
そう口にしかけて、女騎士は、輝きを増すシヴィルの剣に異変を感じとる。
「……そうかい。それがアンタの切り札ってわけか。
どんな技だか知らねェが、こっちも手加減してやる気はなくなったぜ」
そして女騎士は、こちらも必殺の構えをとった。
「このアタシ――
『龍角のアデュラ・クロア』の一剣、その身をもって味わうがいい!」
叫びとともに、女騎士――アデュラは、突進して間合いを詰めてくる!
(――迎え撃つしかない!)
覚悟を決めて、シヴィルは真正面からアデュラを見据えると、手にした神剣を横薙ぎに一閃した!
「遍く全てを光と為せ!
『光輝の絶剣』――」
しかし――
(加護の力が――出せない!?)
剣に宿った輝きが急速に失われ――
鋼の装甲を全身に纏ったアデュラの突撃に、神剣は容易く弾かれ、シヴィルは吹っ飛ばされる。
辛うじて体勢を整えて着地するも――
アデュラの手にした大剣が、容赦なくシヴィルへと振り下ろされる――!
分厚い刃が、シヴィルを無惨に砕き断ち斬るかと思われたその時!
「殺してはならぬ!」
アデュラの背後から聴こえてきた叫びと共に、大剣がシヴィルの寸前で動きを止めた。
否、『止められた』のだ。
「腕が動かせねえ……『縛鎖』の術か。
畜生、邪魔すんじゃねェ……!」
アデュラは大剣を振り下ろす寸前の体勢で微動だにできず、背後の男に忌々しげに呟いた。
「陛下の命令を忘れたか、アデュラ・クロア。
巫女を殺さずに帝都に連れ帰れ、との仰せだ」
「どのみち殺すなら一緒だろうが。ゼルゼレイ」
「そうはいかぬ。然るべき手順というものがあるのだ」
ゼルゼレイと呼ばれた男は、術でアデュラの動きを止めたまま、シヴィルの傍へ歩み寄った。
黒衣の装束につばの広い帽子を目深に被ったその姿は、老いているようにもまだ若いようにも見える。
「リドリスの巫女よ。我らと共に来てもらうぞ。
大人しく従うなら、この村には手は出さぬ」
突如として現れた得体のしれないその男の言葉に、シヴィルは逡巡した。
アデュラという女騎士とのやりとりを見る限り、この男は同じく帝国側に属する人物であり、聖騎士であるアデュラと同格以上の立場にあるようだ。
しかし、シヴィルはゼノヴィスの配下にこのような人物がいるという話は聞いたことがなかった。
(この男の口約束が信用できるかはわからない……
でも、あの女騎士の言っていたことが本当なら、下手に逆らえばこの村の人たちも無事では済まない……
ここは、彼らに従うしか……!)
シヴィルはゼルゼレイに向かって、毅然と言った。
「わかりました。村の人たちの安全を保障して下さるなら、剣を納めましょう」
「賢い判断だ、巫女よ」
ゼルゼレイによって『縛鎖』の術を解かれたアデュラは、苛立ちが収まらぬ様子でゼルゼレイとシヴィルの双方を睨みつけた。
「命を拾ったと勘違いするなよ、リドリスの巫女。
これからお前は帝都に送られて、魔王復活のための贄になるんだ。
さぞかし惨い死に様を晒すことになるだろうさ」
憎々しげなアデュラの言葉に続いて、ゼルゼレイが口を挟んだ。
「帝都へ戻る前に、アルマンドの屋敷へ行くぞ。
娘を唆して巫女捕縛に協力してくれたあやつに、褒美の一つもくれてやらねばなるまい」
その言葉には、多分に嘲りの色があった。
(娘を唆して、私を……
ということは、やはり、アレアさんは…)
シヴィルは、考えないようしていたことを思い返して、心の奥がどんよりと濁っていくのを感じた。
それを振り払うように、強く。
強く、心の中で呟く。
(いえ、きっと何かの間違いに違いない……。
私は、アレアさんの善意を信じる……!)
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