物語の始まりは、とある夜。
月はなく、星もなく。
闇に染まった夜空を裂くように、ひとつの光が、帯のような輝きの尾を引いて、遥か天上の彼方から、地上へと落ちていく。
いや、それは落ちているというよりも、 水底に沈んでいくかのように、ゆるやかに。
その光は、ひと振りの剣の形をしていた。
青白い輝きで夜闇を貫きながら、空より墜ちてきたその剣は、やがて地上へとたどり着くと、その切っ先を大地に突き立てた。
そこは、鬱蒼と広がる森の中。 木立の合間にわずかにのぞく、広場のような場所。
大地に突き刺さったその剣は、その身に帯びた青白い光を失うと――
《ようやく、たどり着いたか》
驚くべきことに――そう、ぽつりと呟いた。
そう、この剣こそは、その剣身に自我を宿した『知恵ある剣(インテリジェンス・ソード)』。
しかし、その内に宿る、その意識は――
かつて英雄により滅ぼされた、邪悪な魔王のものだった。
《天の獄に囚われて、永き時であった。
我、今ふたたびアインファの地に降臨せり――》
万感を込め、そう高らかに宣言する――
……が、それを聴くものは、誰もいない。
《さて……
リドリスめの神剣を依り代に、天の獄を抜け出せたはよいものの、この身体では独力での身動きもままならぬ……》
かつての戦いで本来の肉体は完全に滅ぼされ、全盛期の魔力も殆どが喪失した。
再びこの世界で活動するためには、代わりの肉体が必要だ。
――ふと。
魔王は、こちらに近づいてくる人間の気配を察知した。
切っ先から、周囲一帯の地面に感知の魔力を巡らせると。 近づいてくる人間は一人ではなかった。
正確には、一人と、複数。
《……追われているのか?》
こんな夜更けに、こんな場所で。
明らかに尋常な状況ではないようだった。
追われているのは、一人の少女だった。
《非力で、ろくな魔力も持たない、ただの小娘、か》
剣の代わりに、新たに依り代として乗り移ろうにも、これでは何の役にも立たない。
魔王は落胆した。
《さて、どうしたものか……》
(……まあいい。
戯れに、小娘をこちらに呼び寄せてみるか。
小娘を追う側の連中の方には、少しは使える身体を持った者がおるかもしれぬ)
《我の声が聴こえるか》
必死で森の中を逃げまどう少女に、魔王は念話を送った。
「こ、この声……
あ、あなた様は……?」
《助かりたくば、我が元へ来るがよい》
突如聴こえた声に導かれ、少女は森の広場、大地に突き立てられた剣の元にたどり着いた。
「この剣は……リドリス神の――」
《貴様に力を貸してやろう。
さあ、我を手に――》
「ああ、やはり、そのお声は! リドリス神の御使い様!」
そう言うと、少女は恭しく跪いた。
《我は奴の御使いなどではない!》
魔王にとって、戦女神リドリスは宿敵も同然。
英雄ウェルドナンに己の神剣を与えて魔王の討伐を命じ、導いた存在。
そして魔王がウェルドナンにより滅ぼされた後も、その魂を永い年月、天の獄に縛り続けた忌まわしき神であった。
「いいえ、あなた様はリドリス神の御使い。
私にはわかります」
《貴様ごとき小娘が知った口を――》
と、魔王が口にしかけた言葉を切った。今はそんな話をしている状況ではない。
《まあよい、それより、我を手にとるのだ。
追手にむざむざ殺されたくなければな》
少女は言われるがまま、おそるおそる、魔王の宿る剣に手をかけた。
それに呼応するように――剣から光が溢れ出す!
《さて、見てみるとしようか。
我らの敵となる者たちを――!》
※この物語は、作者・風祭史紀のツイッターアカウント(@kazamaturi_siki)で、フォロワーさんに選択肢を投票してもらって物語の進行を決める #ツイッターADV として(ほぼ毎日)執筆している内容を加筆修正してまとめたものです。
物語は現在も連載中ですので、よろしければぜひ、投票に参加してみてくださいね(≧∇≦)/
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