魔王と巫女の重奏譚(アンサンブル)

魔王と巫女、一つの身体を共有する二人が、英雄の築いた帝国に立ち向かう。
風祭史紀
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1章 魔王と巫女の邂逅譚

【1】剣の魔王と追われし巫女

公開日時: 2021年10月13日(水) 10:30
更新日時: 2021年10月13日(水) 11:49
文字数:1,397



 物語の始まりは、とある夜。

 月はなく、星もなく。

 闇に染まった夜空を裂くように、ひとつの光が、帯のような輝きの尾を引いて、遥か天上の彼方から、地上へと落ちていく。

 いや、それは落ちているというよりも、 水底に沈んでいくかのように、ゆるやかに。



 その光は、ひと振りの剣の形をしていた。

 青白い輝きで夜闇を貫きながら、空より墜ちてきたその剣は、やがて地上へとたどり着くと、その切っ先を大地に突き立てた。

 そこは、鬱蒼と広がる森の中。 木立の合間にわずかにのぞく、広場のような場所。


 大地に突き刺さったその剣は、その身に帯びた青白い光を失うと――

《ようやく、たどり着いたか》

 驚くべきことに――そう、ぽつりと呟いた。



 そう、この剣こそは、その剣身に自我を宿した『知恵ある剣(インテリジェンス・ソード)』。

 しかし、その内に宿る、その意識は――

 かつて英雄により滅ぼされた、邪悪な魔王のものだった。


《天の獄に囚われて、永き時であった。

 我、今ふたたびアインファの地に降臨せり――》

 万感を込め、そう高らかに宣言する――

 ……が、それを聴くものは、誰もいない。


《さて……

 リドリスめの神剣を依り代に、天の獄を抜け出せたはよいものの、この身体では独力での身動きもままならぬ……》

 かつての戦いで本来の肉体は完全に滅ぼされ、全盛期の魔力も殆どが喪失した。

 再びこの世界で活動するためには、代わりの肉体が必要だ。


 ――ふと。

 魔王は、こちらに近づいてくる人間の気配を察知した。


 切っ先から、周囲一帯の地面に感知の魔力を巡らせると。 近づいてくる人間は一人ではなかった。

 正確には、一人と、複数。

《……追われているのか?》

 こんな夜更けに、こんな場所で。

 明らかに尋常な状況ではないようだった。



 追われているのは、一人の少女だった。

《非力で、ろくな魔力も持たない、ただの小娘、か》

 剣の代わりに、新たに依り代として乗り移ろうにも、これでは何の役にも立たない。

 魔王は落胆した。

《さて、どうしたものか……》


(……まあいい。

 戯れに、小娘をこちらに呼び寄せてみるか。

 小娘を追う側の連中の方には、少しは使える身体を持った者がおるかもしれぬ)


《我の声が聴こえるか》

 必死で森の中を逃げまどう少女に、魔王は念話を送った。


「こ、この声……

 あ、あなた様は……?」

《助かりたくば、我が元へ来るがよい》


 突如聴こえた声に導かれ、少女は森の広場、大地に突き立てられた剣の元にたどり着いた。

「この剣は……リドリス神の――」

《貴様に力を貸してやろう。

 さあ、我を手に――》



「ああ、やはり、そのお声は! リドリス神の御使い様!」

 そう言うと、少女は恭しく跪いた。

《我は奴の御使いなどではない!》


 魔王にとって、戦女神リドリスは宿敵も同然。

 英雄ウェルドナンに己の神剣を与えて魔王の討伐を命じ、導いた存在。

 そして魔王がウェルドナンにより滅ぼされた後も、その魂を永い年月、天の獄に縛り続けた忌まわしき神であった。


「いいえ、あなた様はリドリス神の御使い。

 私にはわかります」

《貴様ごとき小娘が知った口を――》

 と、魔王が口にしかけた言葉を切った。今はそんな話をしている状況ではない。

《まあよい、それより、我を手にとるのだ。

 追手にむざむざ殺されたくなければな》


 少女は言われるがまま、おそるおそる、魔王の宿る剣に手をかけた。

 それに呼応するように――剣から光が溢れ出す!



《さて、見てみるとしようか。

 我らの敵となる者たちを――!》

※この物語は、作者・風祭史紀のツイッターアカウント(@kazamaturi_siki)で、フォロワーさんに選択肢を投票してもらって物語の進行を決める #ツイッターADV として(ほぼ毎日)執筆している内容を加筆修正してまとめたものです。

物語は現在も連載中ですので、よろしければぜひ、投票に参加してみてくださいね(≧∇≦)/

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