――熱い。
何かが勢いよく燃え上がり、激しく爆ぜる音。
熱気に目が覚めると、周囲は一面火の海だった。
「これは…いったい、何が!?」
慌ててベッドから身を起こし、傍らに置いたリドリスの神剣を掴むと、シヴィルは寝室を飛び出した。
「アレアさん! ご無事ですか!」
居間も、激しい火の手に覆われていた。
しかし、どこにもアレアの姿は見当たらない。
(ひとまず、ここから出なくては!)
しかし玄関の扉は、まるで外から塞がれてでもいるかのように開かない。
『あのアレアという女、妙だとは思わぬか?』
シヴィルの脳裏に、魔王の言葉が蘇った。
(まさか、アレアさんが、そんな――
いや、そんなことは後!)
熱風と煙に咳き込みながら、シヴィルは周囲を見回した。
(どうにかして、この窮地を脱しなくては……!
まだ眠っている御使い様のためにも、こんなところで火に包まれて滅ぶわけにはいかない!)
そしてシヴィルは――リドリスの剣を掲げて、女神に祈りを捧げた。
「戦女神リドリス様。
我が祈りをお聞き届け下さい……」
その祈りに呼応するかのように、本来はリドリス神が携えしものである、神剣が光を放ち始める。
「この一剣に大いなる加護を。
万難を打ち払い、全ての災禍を薙ぎ祓う、
その御力を、我に授けたまえ――」
それは、リドリスの巫女として、シヴィルが授かった女神からの恩寵。
本来は、魔王を滅ぼすための奥の手として―― シヴィルがリドリスの神剣を手にした時だけ放つことができる、必殺の一閃。
「遍く全てを光と為せ!
『光輝の絶剣』!!」
轟くような、光の奔流。
神剣に宿った光はまさしく閃光となり、周囲を舐め尽くす紅蓮の炎を、ことごとく飲み込み吹き飛ばす。
燃え盛っていたアレアの家は壁一面を吹き飛ばされ――
瓦礫となって崩れ落ちる寸前、シヴィルは辛うじて外へ脱出した。
崩れ落ちる家屋、黒煙と粉塵の中を、石畳に転がるように飛び出したシヴィルは、身を起こしながらこれまでの自分とは思えない身の軽さに、内心驚いていた。
(そういえば、『リッチ』に転化してから、身体が軽いと感じてはいたけど……
ここまで、思うように動けるなんて……!)
「――驚いたな。
当代のリドリスの巫女は剣もろくに使えぬと聞いていたが」
ガシャリ、と 石畳を踏みしめる金属音。
その音に顔を上げると、眼前に立っていたのは、全身を重装の鎧に包んだ騎士だった。
(帝国の聖騎士!
なぜこの村に!?)
驚愕するシヴィルを見下ろして、
「とんだじゃじゃ馬じゃないか。
陛下が欲しがるわけが、少しわかったよ」
張りのある若い女の声に、険はあるものの整った美貌を併せ持ったその騎士は、冷たい笑みに口元を歪めた。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!