魔王と巫女の重奏譚(アンサンブル)

魔王と巫女、一つの身体を共有する二人が、英雄の築いた帝国に立ち向かう。
風祭史紀
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5章 巫女と異端者の誅滅譚

【1】暴虐の女騎士

公開日時: 2021年10月27日(水) 01:37
更新日時: 2021年10月27日(水) 02:06
文字数:1,329




(女性――!?

 それも、私とそれほど歳も変わらない……!)


「……おっと、動くんじゃない。

 ここにいるのは、アタシ一人じゃないんだぜ」

 その言葉を合図に、周囲の家々の陰から、武装した兵士たちが現れ、シヴィルを取り囲んだ。


(この統率の取れた動きは――

 間違いなく帝国の兵士たち!

 どうしてここに!)


 各々の手に槍を構え、その切っ先をこちらに向けている帝国兵たち。

 その数ちょうど十人。


(いくら以前より動けるとはいえ、多勢に無勢……

 それにできることなら、誰も傷つけずに済ませたい)


 シヴィルは、彼らを率いる立場である眼前の女騎士と、話をしてみることにした。

「貴女は帝国の聖騎士とお見受けしますが。

 どうして、この村に――」

 シヴィルの言葉が終わるのを待たず、女騎士はずかずかと近づいてくると――

 おもむろに大剣を、容赦なく薙ぎ払った!


「――!!」


 すんでのところで跳躍し、その一撃を躱したシヴィルに、女騎士は凶暴な笑みを浮かべた。



「甘いな、のんびりお喋りのつもりかい?

 流石は何不自由なく育ってきた、世間知らずな巫女様だ」

 その言葉に含まれるのは、シヴィルに対する明らかな敵意と嘲り。


「生憎、アタシはアンタと仲良くする気はないんだ。

 とっとと任務を片付けて、陛下の御前おんまえに戻りたいんだからさァ!」

 叫ぶなり女騎士は、狂戦士の如き獰猛さで襲いかかってきた!



 全身を装甲で覆った女騎士は、まるで猛牛のようにシヴィルへと突進し、手にした大剣を容赦なく振るう。

 その斬撃は、さながら暴風のようだった。


 シヴィルを取り囲んでいた兵士たちも、その場にいては巻き込まれかねないと、蜘蛛の子を散らすように離れ、包囲は崩れた。


(この重装備の上、あんな大剣を軽々と!)

 続けざまの斬撃を躱しつつ、シヴィルは驚嘆していた。

(でも、できれば、傷つけたくは……!)




「お願いです、話を聞いてください!」

「この期に及んで、まだ言うか!」

 女騎士が大剣を振るい、シヴィルが躱し、その合間に二人が言葉を交わす。


「私は、戦いたくないのです!」

  シヴィルの言葉に、ようやく女騎士は攻撃の手を止めると――

「そうかい。

 だったら、戦いたくさせてやるよ」

 そう、嘲笑うように言った。

「この村じゅうに、配下の兵どもを待機させてある。

 アタシの合図一つで、即座にこの村を火の海にできるようにさ」



「炙り出したら、村人どもを片っ端から殺す。

 女子供も年寄りも、容赦なく。

 痛めつけて、苦しめて、皆殺しにしてやる」



「そんな――

 なぜ貴女たちは、そんなことを!」

「陛下がそれをお望みだからさ。

 そう、アンタが『贄』にならないから――

 他の奴らが、代わりになるンだよ!」



(話の通じる相手じゃない……応戦するしか!)

 シヴィルは神剣を構え、その切っ先を女騎士に向けた。

「そのような非道は――

 リドリス神の名にかけて、許しません!」


「――ハッ!

 だったら止めてみせろよ、

 リドリス神とやらのご加護でよォ!」

 女騎士も叫び、再び大剣を構えた。


 いかに生前より身軽になったとはいえ、シヴィル自身に剣術の心得はない。

 対して、女騎士の携えた大剣は、隙は大きいが恐ろしく間合いリーチが広く、そして恐ろしく重い。

 直撃すれば即座にシヴィルを粉砕するであろう。

 正直、勝てる見込みはないに等しい。


(この状況、どうすれば――)

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