(女性――!?
それも、私とそれほど歳も変わらない……!)
「……おっと、動くんじゃない。
ここにいるのは、アタシ一人じゃないんだぜ」
その言葉を合図に、周囲の家々の陰から、武装した兵士たちが現れ、シヴィルを取り囲んだ。
(この統率の取れた動きは――
間違いなく帝国の兵士たち!
どうしてここに!)
各々の手に槍を構え、その切っ先をこちらに向けている帝国兵たち。
その数ちょうど十人。
(いくら以前より動けるとはいえ、多勢に無勢……
それにできることなら、誰も傷つけずに済ませたい)
シヴィルは、彼らを率いる立場である眼前の女騎士と、話をしてみることにした。
「貴女は帝国の聖騎士とお見受けしますが。
どうして、この村に――」
シヴィルの言葉が終わるのを待たず、女騎士はずかずかと近づいてくると――
おもむろに大剣を、容赦なく薙ぎ払った!
「――!!」
すんでのところで跳躍し、その一撃を躱したシヴィルに、女騎士は凶暴な笑みを浮かべた。
「甘いな、のんびりお喋りのつもりかい?
流石は何不自由なく育ってきた、世間知らずな巫女様だ」
その言葉に含まれるのは、シヴィルに対する明らかな敵意と嘲り。
「生憎、アタシはアンタと仲良くする気はないんだ。
とっとと任務を片付けて、陛下の御前に戻りたいんだからさァ!」
叫ぶなり女騎士は、狂戦士の如き獰猛さで襲いかかってきた!
全身を装甲で覆った女騎士は、まるで猛牛のようにシヴィルへと突進し、手にした大剣を容赦なく振るう。
その斬撃は、さながら暴風のようだった。
シヴィルを取り囲んでいた兵士たちも、その場にいては巻き込まれかねないと、蜘蛛の子を散らすように離れ、包囲は崩れた。
(この重装備の上、あんな大剣を軽々と!)
続けざまの斬撃を躱しつつ、シヴィルは驚嘆していた。
(でも、できれば、傷つけたくは……!)
「お願いです、話を聞いてください!」
「この期に及んで、まだ言うか!」
女騎士が大剣を振るい、シヴィルが躱し、その合間に二人が言葉を交わす。
「私は、戦いたくないのです!」
シヴィルの言葉に、ようやく女騎士は攻撃の手を止めると――
「そうかい。
だったら、戦いたくさせてやるよ」
そう、嘲笑うように言った。
「この村じゅうに、配下の兵どもを待機させてある。
アタシの合図一つで、即座にこの村を火の海にできるようにさ」
「炙り出したら、村人どもを片っ端から殺す。
女子供も年寄りも、容赦なく。
痛めつけて、苦しめて、皆殺しにしてやる」
「そんな――
なぜ貴女たちは、そんなことを!」
「陛下がそれをお望みだからさ。
そう、アンタが『贄』にならないから――
他の奴らが、代わりになるンだよ!」
(話の通じる相手じゃない……応戦するしか!)
シヴィルは神剣を構え、その切っ先を女騎士に向けた。
「そのような非道は――
リドリス神の名にかけて、許しません!」
「――ハッ!
だったら止めてみせろよ、
リドリス神とやらのご加護でよォ!」
女騎士も叫び、再び大剣を構えた。
いかに生前より身軽になったとはいえ、シヴィル自身に剣術の心得はない。
対して、女騎士の携えた大剣は、隙は大きいが恐ろしく間合いが広く、そして恐ろしく重い。
直撃すれば即座にシヴィルを粉砕するであろう。
正直、勝てる見込みはないに等しい。
(この状況、どうすれば――)
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