馬鹿どもに捧ぐ歌~妹を幸せにする高校生バンドマンの兄の話~

青春!ロック!かわいい妹!
兄原 雨石
兄原 雨石

1章 吾輩は兄である

妹を幸せにしたい件について

公開日時: 2020年9月3日(木) 01:10
文字数:1,845

青春ものは初めて書くので、とてもドキドキしています!

楽しんでいただけると幸いです!

中華丼は冷めても旨い。

俺は妹が食べてくれなかった中華丼をかきこみながら、そう確信した。


「うん、うまい」


シャキシャキした野菜の食感を味わい満足感と共に完食した俺は

「ご馳走様!」と手を合わせる。


いつもどおり、手早く食器を片付けると、いつもの様に二階に上がっていく。

階段を上った先にあるのはファンシーな「なぎ」と書かれた名札がかかったドア。

ここが妹・・・・凪の部屋だ。


「凪、起きてるか?」


俺がドアの向こうにそう呼びかけると、

「うん」と、か細い声で返事が返って来た。これも、いつも通り。

返事があったことに少しホッとしつつ、俺は話を続けた。


「今日の昼飯、お前の好きな中華丼だったのに残してたな。なんか具合悪いのか?」

「ううん。ちょっと食欲が沸かなかっただけ。でも、残してごめんなさい」

「全然大丈夫だって。それより凪、今は腹へってないか?

まだ冷蔵庫に野菜も残ってるから、なんでも作れるぞ」


その問いかけに、凪は少し迷ったような間をおいて

「じゃ、じゃあ野菜炒めが食べたい・・・・かも」と控えめに答えた。


「わかった。おいしく作ってやるから、待ってろ」



俺の妹、凪は引きこもりだ。

中学校に進学した時にクラスのやんちゃな女子に目をつけられ、ひどいいじめを受けた。

それが原因で、人と接するのが怖くて引きこもるようになった。

元々はおとなしくて優しい性格だったのも災いしたのだろうと、俺は勝手に思っている。


凪が部屋から出てこないのが、俺たち家族の日常になっていった。

それと共に、部屋から出られない凪のために俺が毎日料理を作って

2階のドア前に置いておくのがいつのまにか日常になった。


(このままじゃダメだって、俺もわかってるんだけどな・・・・)



そんな事を考えながら、中華の鉄人のような小難しい顔をした俺の包丁は

ザクザクと小気味いい音を立てて、手際よく野菜と肉を刻んでいく。


(あとはここに調味料を入れて、炒めるだけだな)


凪が食べやすい様、少し小さめに刻んだ具材を鍋にぶちこんで強火で炒めていく。


「も~うはなさない~きみ~が~すべてさぁ~」


特に選曲に意味は無いのだが、ロックを歌いながらだと若干野菜が炒まる気がしてくる。

俺だけだろうか?たぶん俺が軽音部だからかもしれない。

傍から見ると頭のおかしい奴かも知れないが、これもロックだ。たぶん。


「び~まいべいべ~~び~まいべいべ~~」


器に移した野菜炒めは、我ながら結構よく出来ていた。

おいしそうな香りがすごい。最強。

どうせなので、一口試食してみることにした。


ぱくっ。


「うまい!」


しっかり肉と野菜に火が通っていて、味もしみこんでいる。

文句なしの仕上がりだ。

よし、あとはこれを持っていくだけだな。


「凪~野菜炒めできたぞ~」


できたて熱々で湯気が立っている野菜炒めを片手で持ち、凪の部屋のドアをノックする。

すると、ドアがキィという音を立てて控えめに開いた。


その開いた部分から、ピンクのパジャマを着た凪が、小動物のようにひょっこり顔を出した。


「兄さん、ありがとう」


高く透き通った声、そしてガラス細工のように透き通った肌と整った顔立ち。

少し童顔で背が低いのも愛らしい。

引きこもり生活で少々やつれてはいるが、何日かぶりに見た凪はいつもと変わらず美人だった。


「野菜炒め、とってもおいしそう・・・・!ほんとにありがとう、兄さん」


そう言って凪がはにかむ。

もともと綺麗なのもあって、笑顔だと天使のように可愛い。

つられてこちらも笑顔になってしまうほどだ。


「喜んでくれると作った甲斐があるよ」


これは心からの言葉だ。実際料理は、他人に喜んでもらえた時が一番うれしいからだ。

俺がシスコンなのかも知れないが。


「皿は食べ終わったらドアの外に置いておいてくれ。俺が回収する」

「うん」

「そんじゃな」

「う、うん」


そう言ってドアを閉め、凪の部屋を後にすると、俺は1階の自室へと向かった。

ドアを開けて中に入ると、ずらっと並ぶ本棚が目に入る。俺のコレクションだ。


コレクションとはいっても別に大したものがあるわけではない。

親が仕事でたまにしか帰らないから料理本を買ってみたりとか、

「引きこもり対策マニュアル」みたいな凪と話す為の本だったり、あとは漫画くらい。


まあ、今日も結局凪と学校とか外に出るための話は出来ていないのだが。


「どうしたら、あいつが外で楽しくやれるようにしてあげられるんだろうなぁ」


軽音部でやる曲をギターで練習しながら、いつもの様にそう何度も自問自答し続ける。


こんなんで俺は、かわいい妹を幸せにできるのだろうか!?


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