「というわけで私たちの出動というわけですが……」
泉が隣を歩く金に話しかける。
「ええ」
「金さんは連日の出動、お疲れ様です……」
「別に……これくらい大したことはありませんわ」
金は余裕の様子で髪をかきあげる。
「なんだか……少し申し訳ないです」
「え? なにがですか?」
金が首を傾げる。
「私だけ、日の空いた出動ということに……」
「ああ、そんなことですか」
「そんなことって……」
「全然、気にすることなどありませんわ」
「そ、そうですか……?」
「ええ、そうです」
「しかし……」
「出動の順番に関しては五人で話し合って、それぞれ納得したことでしょう?」
「そ、それは確かにそうですが……」
「今さらどうこう言う必要はありません」
「はあ……」
「それに……お忘れですか?」
「え?」
「順番や組み合わせについては今後変更もあり得ると……」
「あ、ああ……」
「そのあたりは柔軟に対応して参りましょうと……」
「そういえばそうでしたね……」
「泉さん」
「は、はい……」
「貴女は……アレですわね」
「アレ?」
泉が首を傾げる。
「ちょっとばかり……真面目過ぎますわね」
「そ、そうですか……」
「もう少し肩の力を抜くべきかと」
「は、はあ……」
泉は俯く。
「べ、別に責めているわけではありませんよ」
金が少し慌てる。
「……」
「真面目なのは悪いことだと言っているわけではありませんから……」
「はい……」
「むしろ泉さんには助けてもらっていることの方が多いのですから」
「……え?」
「例えば昼間に記録や報告書の類をまとめたりなど……事務的な作業を率先して行ってくださっているではありませんか」
「ああ、あれは……好きでやっているようなものですから」
「それでも助かっています。栞さんや焔さんなどはほとんどやりませんから」
「あ、あの二人もやってくれていますよ」
「どうもいい加減なところが目につきます」
「それは……そうかもしれませんが……」
「なんだか泉さんに押し付けているような……」
「そ、そんなことはありませんよ!」
泉が首を左右に振る。
「そうですか?」
「はい」
「それならば良いのですが……」
「結局……」
「結局?」
「ああいうのは向き不向きだと思いますから……」
「ふむ、そういう考え方も出来ますわね……」
金が顎に手を添えて頷く。
「ね?」
「しかし……泉さんに負担がかかっていませんか?」
「ふ、負担だなんて、そんなことは無いです!」
泉が右手を左右に振る。
「……本当ですか?」
「本当です!」
「……ご無理をなさっていませんか?」
「だ、大丈夫です!」
「ふむ……」
「むしろ……」
「むしろ?」
「あの二人には様々な局面で助けてもらっています」
「……例えば?」
「え? あ、ああ……前向きな性格で引っ張ってもらっているというか……」
「随分と抽象的ですわね……」
金が目を細める。
「は、はは……」
泉が苦笑を浮かべる。
「前向き……それはそうかもしれませんわね……」
「わ、私も最近は物事を結構前向きに考えられるようになってきまして!」
「ほう……」
「例えば、最近の二人だけの出動……これはお師匠さまが私たちのことを信頼してくださっているという証ではありませんか?」
「……水を差すようですが、それは違うかと……慢心は禁物です」
「ま、慢心……」
「自信を持つことは大変結構だと思いますが……わたくしは最近の晴明さまからの二人組での出動命令、二つの意味を持っていると考えています」
金が右手の指を二本立てる。
「二つの意味?」
「ええ、一つは、自信を持てということ、お前たちは二人くらいでも大丈夫だと……もう一つは、これを機会にもっと成長をしてくれということ……」
「な、なるほど……」
泉が頷く。
「……なんだか矛盾している気もしますけれどね」
「いいえ、金さんのおっしゃっていることは正鵠を射てると思います」
「だと良いのですけれど……しかし……」
「しかし?」
「晴明さまのことですから、単なる気まぐれだという点を捨てきれないということです」
「い、いや、流石にそれは……」
「無いと願いたいですが」
「だ、大丈夫ですよ。多分……」
「多分ね……ん? 泉さん、あれを……」
二人は京の街の外れの原っぱに着いた。金が指し示した先には黒い大きな犬がいる。
「……野犬?」
「……バウ!」
「泉さん気を付けて! ただの野犬ではありませんわ!」
黒い犬が吠える。金がただならぬ雰囲気を感じ取る。
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