「なっ! こ、これは……⁉」
「お、大きいタコかな?」
「そ、それにしたってちょっとばかり常識外れの大きさだね、堀川がすっかりと覆われてしまっているじゃないか……」
基が啞然とする。
「一体どこからやって来たんだろうね?」
「いきなり湧いて出てきたのかな……」
「基ちゃん、ああいう物の怪は知っている?」
「……海坊主かな」
「ここは海じゃないよ」
「いや、海からここまでやって来たとかさ」
「なるほどね……」
「しかし……」
基が顎に手を当てる。
「どうかした?」
「海坊主だとしても、ぼくが見聞してきたものとは大分異なるね。あれは……」
「あれは?」
「なんというか……よりタコらしいね」
「それじゃあ、やっぱり大ダコということで良いのかな?」
「……まあ、今のところ他に形容しようがないしね……それで良いんじゃないかな」
「……」
大ダコは様子を伺っていた焔たちの方に迫ってくる。
「! こっちに迫って来るよ!」
「そのようだね……」
「………」
大ダコがさらに迫ってくる。
「さて、どうするか……」
「基ちゃん、ここは任せて!」
「焔……任せるよ」
基が後ろに下がり、焔が前に出る。
「任された!」
「任せておいてなんだけど、大丈夫なのかい?」
基がやや心配そうに尋ねる。
「大丈夫! 必勝法があるよ!」
「それは心強いね」
基が笑みを浮かべる。
「かかって来い! 大ダコ!」
「…………」
大ダコが声を上げた焔の方に向く。
「あまりやりたくないけれど……一気に決めるよ! 『火炎放射』!」
「!」
印を結んだ焔が、口を大きく開き、火炎を放射する。
「凄まじい火の量だ……! 燃やし尽くせる!」
「……!」
「なっ⁉」
大ダコが大量の水を噴き出し、火を消してしまう。焔は驚く。
「あれほどの量の水を一気に噴き出すとは……」
基もあっけにとられてしまう。
「………!」
「むっ!」
「おっと!」
大ダコが八本の太い足を器用に動かして、焔たちを叩こうとするが、焔と基はそれぞれ左右に飛んでそれをかわす。
「……………」
「危ない、危ない……」
焔が額を拭う。
「だけど避けてばかりもいられないよ……」
「え?」
「これを見てご覧よ……」
「あ……」
基の指し示した方を見ると、大ダコの振るった足が道を大きく抉っていた。
「あの太い足をぶんぶんと振り回されてしまったら、京は滅茶苦茶だ……」
「じゃあ、まずはあのにゅるにゅるとうるさい足を黙らせるよ……!」
「出来るのかい?」
「うん……『火球』!」
「‼」
再び印を結んだ焔が、両手に発生させた球形の火を思いっきり投げつける。それに当たった八本の足は燃える。大ダコは嫌がる素振りを見せて、広げた足を引っ込める。
「どうだ!」
「嫌がっているね……有効のようだ」
「このまま顔や体にも投げつけて……」
「…………!」
「どわっ⁉」
大ダコが口から墨を吐き出し、飛びかかろうとした焔の顔にかける。
「焔!」
「め、目が……」
「……………!」
「ぐわっ⁉」
「ほ、焔!」
大ダコが振るった足に当たり、焔が吹っ飛ばされる。
「ぐっ……」
「焔、大丈夫かい⁉」
「な、なんとかね……咄嗟に受け身を取ったから……」
「そ、それはなにより。早く顔の墨を拭うんだ!」
「着物の裾が汚れちゃうなあ~」
「そんなことを言っている場合か!」
「冗談だよ……うん⁉」
「………………!」
顔をごしごしと拭った焔がまた驚く。大ダコの足が伸びてきて、焔の体を縛ったのである。
「ぐうっ……!」
「焔‼」
「く、苦しい……」
大ダコが縛りを強める。焔が苦しそうにする。
「焔! 今助けるよ!」
基が声を上げる。
「そ、それには及ばないよ……」
「えっ⁉」
「体を抑えつけられても、まだ髪の毛があるさ……『髪炎舞』!」
「⁉」
焔が長い髪の毛を発火させ、ぶんぶんと振り回す。その熱さに怯んだ大ダコが足の縛りを緩くする。焔がニヤッと笑う。
「こ、これで逃げられる……」
「…………………!」
「がはっ⁉」
縛りが緩んだところに、大ダコが別の足を焔に向かって叩きつける。
「ほ、焔‼」
「う、上から叩きつけてくるとは……」
焔が両膝をつく。
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