「な、なんだ……?」
「これは……人の顔?」
基と金が二人揃って困惑する。人の顔をした木が大きな口を開く。
「む!」
「口⁉」
「!」
木の開いた口から、液体のようなものが飛び出す。
「避けろ!」
「くっ!」
基が声をかけて、二人は左右に飛んでかわす。液体のようなものは地面に付くと、地面をわずかだが溶かす。
「……ただの樹液ではないようだな」
基が目を細める。
「溶かすとは……うっかり被ってしまうわけには参りませんわね」
金がより緊張した面持ちになる。
「ああ、そうだね……」
「……!」
木が再び樹液を吐き出す。
「また来ますわ!」
「ちっ!」
二人は木から距離を取る。
「ふう……」
金がため息をつく。
「さてと、どうするかな……」
「………!」
木が三度樹液を吐き出す。
「うおっ⁉」
「むうっ⁉」
さきほどよりも勢いも速さも増した樹液が二人を襲う。二人ともこれをなんとかかわす。
「……」
「参ったな、多少の距離は関係無しってわけか……」
体勢を立て直した基が自らの側頭部を掻きながら呟く。
「速度も増していましたわ。このままでは……」
金が基に視線を向ける。
「ああ、いつまでも逃げ切れるものではないだろうね……」
基が首を縦に振る。
「どうしますか?」
「逃げの一手だけでは勝てない……攻めないとね」
「攻めですか? 近づくのも容易ではないですわよ」
「なに、やりようはあるさ……」
「え?」
「こんな風にね……『土弓』!」
基が素早く印を結ぶと、地面から発生した弓矢が放たれる。
「つ、土の弓矢⁉」
金が驚く。
「!」
木が枝を生やして、矢をはたき落とす。
「なに⁉」
「そ、そんなことが……」
「やるねえ……」
基が苦笑する。
「………」
木がさらに枝を生やし、自らを覆い隠すようにする。
「むう……」
「守りを固められてしまいましたわ……」
「まあ、その行動で大体だが分かったことがあるよ……」
「え? 何ですか?」
金が問う。
「つまり……金!」
「えっ⁉」
「地面に注意だ!」
「ええっ⁉ きゃあ⁉」
地面から顔を出した木の根が金の足を絡め取り、自らの元へと強引に引きずる。
「…………」
「ぐうっ⁉」
「金!」
木が金を引き寄せる。金を仰向けに倒れ込んで、ほぼ無防備な状態である。
「……………」
「お、おのれ……」
「…………!」
木が樹液を金に向かって吐き出す。
「くっ!」
金が思わず目をつむる。
「金! はあっ!」
「‼ も、基さん……」
金の前に立った基が土の壁を作って、樹液を防いでみせた。
「『土壁』さ……」
基が笑みを浮かべる。
「た、助かりましたわ……」
「金、少し落ち着くんだ……」
「はい?」
「足は根に絡め取られたが、腕の自由は利くだろう?」
「! 『金剣』!」
印を結んだ金が、剣を生じさせ、足に絡まった根を切る。
「そうだ……」
「お手数をおかけしました……!」
金が急いで立ち上がる。
「なに、こういうのはお互い様さ……」
「その壁は簡単には溶かされないようですわね……」
「どうやらそのようだね」
「とりあえず防御面はなんとかなるということでしょうか……」
「そう願いたいところだけど……」
「……………!」
「うおっ⁉」
「基さん!」
木の伸ばした枝が土壁の左右から回り込み、基の両手に絡みつき、自由を奪う。
「しまった! 枝でも根と同様のことが出来るのか……!」
「………………!」
「どわっ⁉」
木が基を持ち上げる。
「…………………!」
「ぐわっ⁉」
木が基を地面に思い切り叩きつける。
「………………」
木が口を開き、倒れ込んでいる基に向かって樹液を吐き出そうとする。
「うぐっ……」
「基さん!」
金が声を上げる。
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