陰陽師安倍晴明の優雅なオフ~五人の愛弟子奮闘記~

阿弥陀乃トンマージ
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第7話(2)金生水

公開日時: 2025年3月5日(水) 18:15
文字数:1,860

「野槌か~それほど大きいのは見かけたことが無いな~」

 人々がすっかり寝静まった夜の通りを歩きながら、両手を頭の後ろに組んで、焔が呟く。

「あら、そうでしたかしら?」

 金が振り返って焔に問う。

「うん、大きめの蛇くらいの奴なら何度か遭遇したことがあるけれど」

「そう言われるとそうかもしれませんわね」

「妖も日々成長しているのかな?」

 焔が笑みを浮かべながら首を傾げる。

「焔さん……その場合、決して笑いごとではありませんわ……」

 金が表情を険しくさせる。

「そうかな?」

「そうですわ」

「獲物は大きいに越したことはないでしょ?」

「獲物って……まさか獲って食べるおつもりですか?」

「場合によっては」

「場合によってはって……」

 焔の即答に金は言葉を失う。その様子を見て、焔は悪戯っぽく笑う。

「シシシッ……嫌だなあ金ちゃん、冗談だってば」

「貴女の場合、冗談ではなさそうなのですわ……」

「え?」

 金が焔をじっと見つめて、口を開く。

「その内、本当にお食べになってしまいそうですもの……」

「そんな、栞ちゃんじゃあるまいし」

「ああ、あの方もお食べになりそうですわね……ご飯のおかずだとかおっしゃって……」

「いいや、主食にすると思うね」

 焔が想像して笑みを浮かべる。

「やりかねませんわね、貴女も」

「……金ちゃんさあ」

「はい」

「……アタシのこと、馬鹿だと思っていない?」

「……阿保だと思っていますわ」

「酷っ! 栞ちゃんと同じ扱い⁉」

「同じではありません、きちんと別物として扱っています」

「物扱いじゃないのさ……」

 金の答えに焔は頬をぷくっと膨らませる。

「ふふふ……」

「……」

 微笑む金を、隣を歩く泉が無言で見つめている。金がそれに気付く。

「なにかしら、泉さん?」

「あ、い、いいえ、なんでもありません……」

 泉はサッと目を逸らす。金が問いを重ねる。

「いや、なんでもなくはないでしょう」

「本当になんでもありません……」

「嘘おっしゃい」

「いいえ……」

「なにか思ったことがあったのでしょう?」

「そ、それは……」

「図星ですわね」

「む……」

「さあ、存念をおっしゃってごらんなさいな」

 金が両手を大きく広げる。

「………」

「どうぞ、遠慮なさらずに」

「……野槌は結局、金さまが退治なさったのですよね?」

「ええ、このわたくしが」

 金が自分の胸に右手を添える。

「えっと……ぎ、ぎんこうせきで?」

「ちんこうせき」

「は、はい?」

「珍鉱石、珍しい鉱石ですわ」

「あ、ああ……」

 泉が色白の顔を少し赤らめる。

「その珍鉱石を以て……野槌をガン!と殴りつけたのですわ」

 金が身振り手振りで再現する。

「へ、へえ……」

「それがなにか?」

「い、いえ……」

「なんですの?」

「退治のやり方とか、珍鉱石だとか、金ちゃんも馬鹿阿保と並ぶ間抜けだって、泉ちゃんは思ったんじゃない?」

「はあっ⁉」

 金が焔の方に目線をやる。泉が慌てる。

「ほ、焔さま、本当のことをおっしゃらないで下さい!」

「本当なんですの⁉」

 金が泉に視線を移す。泉が口元を抑える。

「えっと……こ、金さま、これは……」

「ふっ、他ならぬ貴女の評価ですもの、甘んじて受け入れますわ……」

 金が苦笑交じりでうんうんと頷く。

「そ、そんな……はっ⁉」

 小柄な体格をした者が、口から火を吐き出しながら、泉たちに襲いかかる。泉たちはすんでのところでそれをかわす。焔が顎をさすりながら呟く。

「火男か……」

「…………」

 火男が体勢を直して、金たちにゆっくりと近づいてくる。金が声を上げる。

「……来ますわ!」

「!」

 火男が再び火を吐き出す。泉が金と焔の前に出て、両手で印を結ぶ。

「『水流』!」

「……!」

 泉が水を発するが、火男は吐き出す火の勢いを強め、その水を押し返す。

「なっ⁉ 『水克火』では⁉」

 泉が動揺する。焔が両手で印を結び、叫ぶ。

「『狐火』!」

「‼ ……」

 焔が大きな火を発生させ、火男を火で包み込むが、効果はない。焔は舌打ちする。

「ちっ、火の大きさで凌駕すればと思ったけど、そんなに甘くはないか!」

「『金玉』!」

 金が両手で印を結び、大きな玉を発生させて、火男にぶつける。泉が困惑する。

「え、ええっ⁉」

「泉さん、そのぎょくに向かって、水の術を!」

「あ、ああ、ぎょく……そ、そうですよね! 『水塊』!」

「⁉」

 泉が大きな水の塊を発生させ、火男を包むと、火男は消失する。

「『金生水』……金属の表面には凝結によって水が生じますわ……その凝結の力で以って火を消失させる……まったくお見事な手際ですわ、泉さん」

「い、いえ……」

「間抜けっていうのもあながち間違ってないかも……」

 焔が髪をかき上げる金を見つめて小声で呟く。

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