「な、なんだ⁉」
「大入道?」
「……」
大柄なものが栞たちの方に向かって歩いてくる。
「どうやら男ではあるようだが……」
「………」
「なにかが軋むような音がするね?」
耳を澄ましながら焔が呟く。
「これは……金物か?」
「それと木……かな」
「なんだよ、それは……」
「あいつから聞こえてくるよ」
焔が大柄なものを指差す。
「…………」
「ほら、一歩歩くごとに」
「確かに……ガシャガシャ言っているな……」
「いや……」
「うん?」
栞が焔を見る。
「どちらかというと……ガッシャガッシャじゃない?」
「はあ?」
「いや、ガッシャンガッシャンかな……」
焔が顎に手を当てながら首を傾げる。
「別に音の種類はこの際どうだっていいんだよ」
「いやいや、大事なことでしょ」
「そうか?」
「そうだよ」
「まあいいや、それよりあいつはなんなんだ?」
栞が大柄なものを指差す。
「さあ?」
焔が首を傾げる。
「さあってお前……」
「人の形をしたなにかかな?」
「それはなんとなく分かるけれどよ……」
「人の形……」
焔が自らの発言にハッとなる。栞が尋ねる。
「どうかしたか?」
「いや、あれは人形なんじゃないかなって……」
「人形だと?」
「うん」
焔が首を縦に振る。
「人形って、あれか? 傀儡師とか、戎回しとかが道中で披露している……」
「そう、それそれ」
「あれは木箱の中に入った小さなもんじゃねえか」
「それはそうだね……」
「あんな大きい人形は見たことがねえぞ?」
「うん、こんな大きいのはないね……」
「え? こんな?」
「……!」
「うおっ⁉」
大柄なものが太い腕を振るい、攻撃してきたため、栞は慌てて後ろに飛んでかわす。
「接近していたね、気をつけて!」
横に飛んだ焔が声をかける。栞が声を上げる。
「声をかけるのが遅えよ!」
「気がついているのかと思って……」
焔が後頭部をポリポリと掻く。
「お前との会話にすっかり気を取られていたんだよ!」
「ごめんごめん」
「ったく……」
体勢を立て直した栞は大柄なものをじっと見つめる。
「……………」
「なんだってんだ、こいつは……昨日みたいに腐った死体かなにかなのか? それにしては顔が変に青白いというか……」
栞が顎をさすりながら呟く。
「こんな美人を目の前にして、顔を赤らめないなんて失礼だね」
「い、いきなり何を言ってんだよ、お前は……!」
焔の発言に栞が顔を赤らめる。
「え、アタシのことだけど? どうかした?」
焔が自らを指し示す。
「お前のことかよ!」
「………!」
「どおっ⁉」
大柄なものの攻撃が再度行われる。栞はまたもなんとかかわす。大柄なものの拳が地面を深くえぐる。焔が驚きながら呟く。
「なんて威力だ。食らったらひとたまりもないね……」
「ほ、焔! 変なことを言って、オレの集中を乱すな!」
「ええ? 変なことを言ったつもりはないけれど……」
「まあいい……とにかくこいつをなんとかする!」
「栞ちゃんも馬鹿力だけど、さすがに分が悪いよ!」
「馬鹿力って言うな!」
「じゃあどうするの?」
「なに、やりようはあるさ……『木枝の剣』!」
「……‼」
栞は尖った木の枝をより鋭利にしたものを生じさせて、それを手に取って、斬りかかり、大柄なものの右腕を斬り落とす。
「どうだ!」
「お見事!」
焔が拍手を送る。栞は素早く振り返って、冷静に大柄なものの様子を伺う。
「血は流れていねえ、かといって霧消するわけでもねえか……それにしても……」
「………………」
「腕が斬り落とされたってのに、うめき声のひとつも上げねえとは……不気味だな」
「やせ我慢しているんじゃない?」
「だと良いんだが……」
「…………………」
大柄なものが栞の方に振り返る。
「まだやる気みたいだね!」
「腕じゃなく、腹が胸を斬る! そうすりゃくたばるだろ!」
栞が再び勢いよく斬りかかり、木枝の剣を横に思い切り薙ぐ。
「……‼」
栞の攻撃を大柄なものは身を屈めてかわす。
「か、かわされた⁉ しゃがんだのか⁉」
「………‼」
大柄なものが斬り落とされた右腕を拾い、切断跡にくっつけてみせる。すると、その右腕がまたも動き出す。それを見た栞が大いに驚く。
「はあっ⁉ くっつけただと⁉」
「…………‼」
「がはあっ⁉」
大柄なものが右腕を振るう。しおりはその拳をもろに食らってしまう。
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