参
「いや~どうしてなかなか大変な相手だったぜ……」
翌日、晴明の屋敷の一室で栞が後頭部をポリポリと掻く。
「全身がほぼ金で出来た大柄なものですか……」
泉が腕を組みながら、想像する。
「人形だという……そんなものが操り糸もなしに自由に動くとはね」
基が顎をさすりながら呟く。
「腕の取り外しが可能とは……不気味ですわね……」
金が目を細める。
「実際、かなり不気味だったぜ」
栞が苦笑する。
「……」
「焔さま、さきほどから黙っておられていますが……」
泉が焔に話しかける。
「ああ……」
「あの……」
「うん……」
「えっと……」
焔の反応に泉が困惑する。
「心ここにあらずって感じだね」
基が苦笑する。
「意外と珍しいな……」
栞が腕を組む。
「その人形とやらにおそれをなしたのでは?」
「いや、金ちゃんじゃないんだから、そういうわけではないよ」
焔が金の言葉に反応する。金が驚く。
「! き、聞いているなら、しっかり応えなさいな!」
「うん、ちょっと考えていてね……」
焔が自らの顎に手を添える。
「考えごとですか?」
「うん」
泉の問いに焔が頷く。
「それもなかなか珍しいね」
基が首を捻る。
「思慮にふけるのは貴女には似合いませんわ」
「金ちゃん、酷くない?」
焔が思わず苦笑する。
「思ったことを申したまでです」
「いやいや……」
「それに……」
「それに?」
「きちんとした報告が欲しいのです」
「おおい、ちょいと待てよ、金、オレの報告に不満があるのか?」
栞がちょっとムッとする。
「不満はございませんが、不安がございます」
「同じようなもんだろうが」
「なんと言いますか……」
「うん?」
「貴女さまの報告は、多分にその感覚的なところが多いので……」
「感覚、大事じゃねえかよ」
「『ギシギシと音を立てて動いた』、『ガアアン!と腕を振るった』だけではちょっと困ってしまいますわ」
「ふっ、それはそうかもしれないね……」
基が微笑む。
「ちぇっ、なんだよ、基まで……」
栞が唇を尖らせてそっぽを向く。
「ま、まあまあ……」
「……泉はどう思ったんだよ?」
栞が泉に対して視線を向ける。
「ええ? 私がですか?」
「ああ、オレの報告」
「えっと……大分……」
「大分……?」
「……個性的で良かったんじゃないかと……」
泉の言葉に栞の表情が明るくなる。
「だよな? 良かったよな?」
「個性的とはまた良く言ったものですわね……」
「まあ、これからの世の中は個性というものも大事になってくるだろうからね」
やや呆れる金に対し、基が反応する。
「話を戻しますが……焔さん、貴女からの報告をお願いしますわ」
「う~ん……」
金から話を振られ、焔が腕を組む。
「その大柄なものを人形だと看破したのはどのようなわけで?」
「なんというか、生命感みたいなものが伝わってこなかったからね~」
「生命感ですか?」
「そう」
金の問いに焔が頷く。基が重ねて問う。
「では、物の怪とはまた違うものだという確信は?」
「う~ん、妖気的なものが肌で感じられなかったからね~」
「ふむ……」
「なるほど……」
金と基が腕を組んで頷く。
「ちょっと待て、焔の報告もなかなかに感覚的じゃねえかよ」
「………」
「…………」
「おい、揃って無視すんな!」
栞が声を上げる。
「晴明さまはご存知でしたの?」
「ああ、金の属性だっていうことも知っていたよ」
金の問いに焔が答える。
「……またお師匠さまの推測?」
「……いや、聞いたことがあるのだろう。そんな話を以前にしていたよ」
泉の呟きに基が反応する。泉が尋ねる。
「どのような話ですか?」
「遠い西方の土地で、金を精錬する……そのような技術の試行錯誤が学者連中の間で幾度となく繰り返されているという……」
「金を精錬……その技術を用いた人形ということですか?」
「まあ、これはぼくの推測も含まれているのだけどね……」
泉の問いに対して基が苦笑しながら答える。
「ご歓談のところ、申し訳ありません……」
旭と朧が現れる。焔が驚く。
「うおっ⁉ び、びっくりさせないでよ~朧ちゃん」
「われは旭です。朧はこちら……」
旭が朧を指し示す。焔が謝る。
「あ、ご、ごめんね、何度も……」
「物の怪らしきものが現れたという報告がありました。今宵も出動をお願いします」
「!」
朧の言葉を受け、五人の顔に緊張が走る。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!