「な、なんだ⁉」
「土の中から人が⁉」
「……」
土の中から現れたものがゆっくりと泉たちの方に歩いてくる。栞が声を上げる。
「い、いや、あれは人じゃねえ!」
「と、ということは?」
「……死体だろう」
「な、亡骸ということですか⁉」
泉が信じられないという様子で声を上げる。
「ああ、そうだ」
「亡骸は基本、野ざらしにするものですが……」
「理由あって、土の中に埋めちまったんじゃねえか?」
「……その理由とは?」
「そんなのオレが知るかよ」
「ですよね」
泉が頷く。
「いや、一瞬で納得すんなよ……」
栞が不満そうに唇を尖らせる。
「しかし、土の中から出てくるとは……」
「ああ、今まで見たことがない物の怪だ」
「物の怪とも違うような……」
「じゃあ、あやかしか?」
「あやかしとも違うような……」
「それじゃあ、なんだよ?」
「分かりませんが……明らかなことがあります」
「なんだよ?」
「か、かなり強烈な臭いです……」
泉が顔の半分を手で覆い、顔をしかめる。
「まあ、死体だからな」
「栞さまは平気なのですか?」
「平気ではねえけど……オレくらいになると、耐えられるのさ」
「ああ、やせ我慢ですね」
「おい、そこは我慢で良いだろう。やせって付けると意地を張ってるみてえじゃねえかよ」
「実際、その通りでしょう」
「お前な……うん?」
「………」
土の中からどんどんと腐った死体が現れる。
「おいおい、ずいぶんとまた豊作だな……」
栞が苦笑交じりに呟く。
「この辺り一帯に埋まっていると考えた方が良さそうですね……」
「ええ……おおっ⁉」
栞たちの背後にも腐った死体たちが土の中から現れる。
「挟まれてしまいましたね」
「このままだと囲まれるのも時間の問題だな……」
「先手を打つしかありませんね」
「おいおい、これまで見たことも聞いたこともない相手だぞ?」
「そうですね」
「そうですねって……なにか手はあるのか?」
「物は試しです……よろしいですか?」
「よろしいですかってなんだよ?」
「手柄を独り占めにしてしまっても……」
泉の言葉に栞が思わず噴き出す。
「はっ、お前がその手の冗談を言うなんて珍しいこともあるもんだな……結構なことだぜ、どうぞどうぞ、お好きになさってくださいな」
栞が泉を促す。泉が構える。
「では……はあっ! 『四方八方水流』!」
「!」
泉が印を結ぶと、彼女の周囲から勢いよく水が噴き出す。腐った死体たちはその勢いに押し流される。泉がそれを見て頷く。
「やはり、不浄なものは洗い流すのが一番……」
「だ、誰が不浄だって⁉」
「あ……」
泉が栞にも水流を当ててしまったことに気が付く。倒れかけていた栞はなんとかその場に踏み留まって、体勢を元に戻す。
「ったく、危ねえなあ……」
「す、すみません! とりあえず水流を多く出すことに集中して術を練ってきましたので、細やかな扱いについてはまだまだこれからなのです……」
泉が申し訳なさそうにする。
「まあ、強力な術があるのは良いことだけどよ……あら?」
「え? ……!」
栞の視線の先を見た泉が驚く。腐った死体たちが体勢を立て直して、再び泉たちを包囲し始めようとしていたからである。
「まだ動けるみてえだな」
「そ、そんな……」
「どうやら水浴びがお好きみたいだぜ?」
栞が冗談を言う。
「それでは、嫌いになってもらいます……!」
「まだ手はあるのか?」
「当然です!」
「へえ、それじゃあ、頼むぜ」
「はい! 『水の矢』!」
「‼」
泉が印を結ぶと、水が鋭い矢となって飛び、腐った死体たちの首をことごとく刎ねる。栞がそれを見て、口笛を鳴らす。
「~♪ やるねえ、そういうことも出来るとは……」
「こういうことも出来るのです……」
「…………」
首が無くなった腐った死体たちがやや間を置いてから、再び動き出す。
「なっ⁉」
「首が無くても動けるのかよ……」
「くっ!」
泉が腐った死体たちに向かっていく。栞が注意する。
「おい、泉! カッとなるな! お前らしくねえぞ! 少し頭を冷やせ!」
「首だけでなく、胴体ごと吹き飛ばしてしまえば……!」
「……!」
「なっ⁉」
泉よりも早く、腐った死体が泉の懐に飛び込んできた為、泉は面食らう。
「………!」
「がはっ⁉」
腐った死体の殴打をみぞおちに食らってしまった泉はその場に崩れ落ちる。
「泉!」
「………………」
腐った死体たちが飛んだ首を拾い、自らの胴体にくっつける。栞が妙に感心する。
「き、器用な真似をしやがるな……ん⁉」
「………………」
腐った死体たちが口を開き、次々と泉に嚙みつこうとする。
「おいおい! まさか取って食おうってか⁉ 冗談じゃねえぞ!」
栞が慌てる。
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