「ウウ……」
「ぐっ……」
栞が顔を歪める。
「離れろ! 『土斧』!」
「ウウ!」
基が斬りかかるが、鬼のようなものは伸ばした手を引っ込めて、その場から離れる。
「ちっ……」
「栞さま! 大丈夫ですか⁉」
泉が駆け寄る。
「な、なんとかな……」
「借りはキチっと返すよ! 『火球』!」
「ウウッ!」
焔が印を結んで、火の球を発生させて、投げつけるが、鬼のようなものは背中に翼を生やして、空に飛んでそれをかわす。
「なっ⁉ と、飛んだ⁉」
「泉さん⁉」
焔が驚き、金は泉に状況の解説を求める。
「わ、分かりません、空を飛ぶ鬼だなんて……」
泉は首を左右に首を振る。
「……分かっていることがひとつある……」
「基さま?」
「こいつを野放しにしては危険だということ! 『土弓』!」
基が今度は弓で矢を放つ。
「ウッ!」
鬼のようなものは翼をバタつかせて、矢をかわす。
「ちいっ!」
基が再度舌打ちする。
「ウウウ……」
鬼のようなものが空を舞いながら、基たちを見下ろす。金が構えを取る。
「見下ろされるのは気分が悪いですわね……」
「待つんだ金、君の矢でもなかなか当たらないはず! 確実に動きを止める必要がある!」
「ならば……『雨霰』!」
「ウッ⁉」
泉が雨霰を発生させる。それに打たれて、鬼のようなものが地面に落下する。
「良いぞ泉! 今度こそ仕留める! 『土槍』!」
基が槍を発生させて、鬼のようなものに接近する。
「グウ!」
「ぬおっ⁉」
体勢を立て直した鬼のようなものは、素早い動きで、鋭く尖った爪でもって、すれ違いざまに基の膝を斬りつける。基は膝をつく。
「グウウ!」
「しまっ……!」
「きゃあ!」
鬼のようなものはさらに加速して、金と泉の肩を爪で斬る。二人は体勢を崩す。
「グウッ!」
「調子に乗るな!」
「待て、焔! 援護する! 『爪蔦』!」
栞が両手の爪を蔦のように長く伸ばし、鬼のようなものに向ける。
「! そうか! 『髪炎舞』!」
焔が炎を纏った髪を振り回し、栞が伸ばした爪を燃やす。
「爪に火を点した! これで絡み取って、燃やし尽くしてやる!」
「グウウッ!」
「うおっ⁉ しまった!」
鬼のようなものは両手を伸ばし、焔の体を掴み、持ち上げる。
「……グオウ!」
鬼のようなものは焔を栞に対して、思い切り叩きつける。
「がはっ……!」
「ぐはっ……!」
激突した焔と栞は倒れ込む。炎は消え、爪も元に戻ってしまう。
「グウウ……」
「ちっ……良い考えだと思ったんだが……」
「グウ……」
鬼のようなものが牙を光らせながら栞たちにゆっくりと近づく。
「ど、どうするつもりだ?」
「そりゃあ、取って食うつもりじゃない? 栞ちゃんの方が美味しいよ!」
「お、おい、焔!」
「冗談だよ」
「冗談言っている場合か!」
「グオウ!」
「破!」
「!」
衝撃波のようなものが発生し、鬼のようなものが吹き飛ばされる。
「すまないね、ちょっと遅くなった……」
晴明がその場に姿を現した。泉が声を上げる。
「お師匠さま!」
金が声をかける。
「晴明さま、お気を付けください……ただの鬼ではないようです……」
「うん、だって鬼じゃないからね」
「えっ⁉」
晴明の答えに金は驚く。基が尋ねる。
「知っているのかい、晴明くん?」
「そうだね……奴は恐らくデーモン……」
「デーモン?」
焔が首を傾げる。
「唐土や天竺よりも遥か西の地で跋扈している……鬼みたいなものかな?」
「結局は鬼かよ……」
栞が苦笑交じりで呟く。
「グオオウ!」
「!」
吹き飛ばされたと思われたデーモンが再び姿を現し、晴明の首筋に噛みつく。
「ああ⁉ お気を付けくださいと言ったのに!」
金は悲鳴に似た声を上げる。
「……いやいや、飛んで火に入るなんとやらだよ……『血毒』!」
「⁉ グ、グオオウ……」
デーモンが地面に倒れ込む。晴明は首筋を抑えながら淡々と呟く。
「中には人の生き血を吸う種もいると聞いていたのが幸いしたよ。血に毒を混ぜておいた……さてと、とどめといこうか」
「……そうはさせん」
晴明とは対照的に暗い色の狩衣を身に纏った厳めしい顔つきの男が現れる。
「! やはり貴方の仕業だったか、蘆屋道満……」
晴明は目を細めて、道満と呼んだ男を睨みつける。
「……」
「この国のものではない妖たちを集めて、一体何を企む?」
「答える義理はない……失礼する……!」
道満があっという間にその姿を消す。晴明は虚を突かれた。
「! くっ……デーモンを連れて逃げたか……みんな、まずは傷の治癒をしよう」
晴明は五人の愛弟子に優しく声をかける。
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