「……!」
木が樹液を吐き出す。
「あ、危ない! 『金の盾』!」
金が基の前に立ち、右手を振って、印を結ぶと、金の盾が生じ、樹液を防ぐ。
「!」
「ふう……」
「す、すまない……」
「基さん、大丈夫! ……というわけではありませんわよね……」
「ざ、残念ながらそうだね……」
基が半身を起こしながら苦笑する。
「ふむ……頭は打たなかったようですわね」
「とっさにだけど、受け身を取ったからね」
「それはなによりですわ……」
金が頷く。
「……」
「! 動けますか⁉」
「す、すぐには……」
「………!」
「はっ!」
木が再び樹液を吐き出すが、左手に持った盾で上手く防ぐ。
「へえ、なかなかやるね……」
基が感心する。
「樹液を吐き出す瞬間、いわゆる攻撃する間合いを掴めばなんてことはありませんわ……」
「張り巡らした枝を左右に避けた瞬間だろう?」
「ええ」
「自分で自分を溶かしてしまったら世話がないからね……」
「ただ、それだけではありません……」
金が首を左右に振る。
「え? それだけではない?」
金の言葉に基が首を傾げる。
「……攻撃する直前、木の目のあたりがピクっとなります」
金が自らのまぶたあたりを指差しながら呟く。
「ああ、表皮の顔の癖を見抜いたのか、大したものだ……」
「じっと観察しておりましたから」
「木目を見る……木と相対する上では重要なことの一つかもしれないね」
基が頷きながら体勢を整える。
「まあ、人面の木など珍しいからジロジロと見てしまっただけというのもありますが……」
「それでも観察を怠らないのは見事だ……くっ」
基が左肩のあたりを抑える。
「痛みますか?」
「ああ……ただ右腕は動く……印は結べるよ」
「ご無理はなさらないでください」
「無理をする局面だと思うけど?」
「いいえ、まだです」
「え?」
「ここはわたくしがなんとかいたしますわ」
「へえ、それは頼もしいね……と言いたいところだけど」
「だけど?」
「大丈夫かい?」
「大丈夫ですわ。さきほど、基さんが言いかけたこと……」
「あ、ああ……」
「あれも分かっていますから」
「そうか……察しが良いね」
基が笑みを浮かべる。
「さて……」
金が木と相対する。
「………」
「小細工は無用ですわね!」
金が勢いよく突っ込む。
「‼」
木が一瞬たじろぐが、すぐに枝や根を張り巡らす。
「腕と脚を同時に絡め取られてしまうぞ!」
基が声を上げる。
「これくらい読んでおります! 『金の斧』! はああっ!」
「……!」
金が印を結び、生じさせた斧を振るって、枝や根をことごとく切っていく。
「力強いが……ちょっとばかり強引だな……」
基が呟く。
「………!」
木が枝などを次々と生やす。金が接近するのがやや難しくなる。
「くっ……」
金が唇を噛む。
「お困りのようだね……」
「ん⁉」
金が驚く。自らの側に、手のひらほどの大きさの人の形をした紙がひらひらと舞って、それから晴明の声がしたのだ。金が呟く。
「晴明さまの式神……見ていらっしゃるのですね?」
「ああ、その人形の紙を通してね……」
「随分とヒマそうでございますわね」
「風流な休日を過ごしていると言ってくれないか」
「それはどうでもよろしい……なんですか、冷やかしでしょうか?」
「その人面木の対処法を教えてあげようかなと思ってさ」
「それについては基さんとわたくしである程度ですが、既に見出しました」
「え⁉ わ、分かったのかい?」
式神が驚いてヒラヒラとさせる。
「ええ、なんとなくではありますけれど……ここでしょう?」
金が式神のある部分をピンと弾く。晴明の痛そうな声が聞こえてくる。
「い、痛っ! ちょ、ちょっと、そんなことしないでくれ……!」
「感覚を共有しているのですね……面白い」
「お、面白くない! ……ただ、弱点に関しては同じ見解だ……おほん、あれは木の属性だ……ということは金、金の術を扱える君なら克つことが出来る……! 『金克木』だ!」
「まあ、そのつもりですが……一応、御助言は感謝いたしますわ……」
「あ、そ、そう……」
晴明の少しがっかりとした声が聞こえる。金があらためて木と相対する。
「さて、この枝の群れをどうやって突破するか……」
基が声をかける。
「金、これを使ってくれ!」
「! なるほど! はあああっ!」
基がさきほどよりも大きな土壁を生じさせるが、それを蹴倒す。金はそれを足場に使って飛び、枝の群れを突破して、木の顔面に接近する。
「⁉」
「『釘』! 『金槌』!」
金が印を結ぶと、釘と金槌が生じる。それを手に取った金は木の顔面の眉間に釘を打ち込む。それを食らった木は霧消する。基が頷く。
「やはり人面と同じようなところが弱点だったね……」
「いいぞ、金。しかし、金槌と釘の扱いが見事だね。呪いでもかけたことがあるのかな?」
「釘を打ち付けてしまいましょうかしら……」
金が紙の式神を睨みながら小声で呟く。
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