散文詩集『ランタン』

仮題
紫夏 伊乃
紫夏 伊乃

罪悪の足枷

公開日時: 2022年8月12日(金) 00:32
文字数:538

伊乃という名前は、元々「inno」と書いた。

「inno」は「innocent」から取ってできた名前だ。

「innocent」には、様々な意味が込められている。

私は、この英単語が似合う人になりたい、と言ったことがある。

「潔白な、汚れのない、純潔な、無邪気な、純真な、あどけない、お人よしの、単純な」

そんな人でいたい、そう答えた。

「無罪の」人でいたかった。

法律的な意味で、というよりは、道徳的な意味である。

私は、罪を犯していないと信じたかった。

そんな考えをしないでいたかった。

人間、罪悪感から逃れられない時がいつかは来る。

いとも簡単に割り切って、乗り越えてしまう人もいるらしいが、

私には到底できそうもない。


事ある毎に、強い罪悪感を抱えてきた。

一番強い後悔と罪悪感は、9年前の夏の日の事件にある。

が、抱える罪悪感は一つではない。

罪悪感。それは、胸を抉るナイフのようであり、歩みを困難にする足枷のようだ。

上手く歩けないことに苛立ち、そしてまた新たな罪悪感を抱えるのだ。

以前は、己の罪深さを鑑み、法に裁けぬ罪の処罰として自死を考えていた。


やがて、思い知る。

この重く伸し掛る罪悪感を背負いながら生きることこそ、一番の罰になる事実を。

今も私は、死ぬべき人間だと思っている。

否、皆も思うことすらあるだろうねぇ。

だからこそ皆、死に恐怖しながらも惹かれる。

死とは、終わりとは、酷く悲しいものではあるが、

同時に何よりも甘美な響きを持っている。


夏のあの日に囚われた少女は一人、

存在しない物を見ていた。

血に濡れた己の手に、自分を嘲笑う“友人”の姿。

陽炎が揺れる先に見える転がった死体は、

原形を留めておらず、顔は確認できなかった。

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