終焉の幼女エルルと死なずのライザ

かこみ
かこみ

6 「遍く金色は、命への願い」

公開日時: 2020年10月2日(金) 10:04
文字数:7,243

【Side:Liza】




 ペイルローブの街、南東に位置する遺跡区画。その一角にある『エーテル炉』は、街一つ分の生活に必要なエネルギーを補う程の大きさを誇る。


 まるで天を衝く摩天楼のようにそびえ立つ巨大なタンクは、幾千の時を経てなお、ほぼ当時の面影を残していた。


 現在のアル・セリカに存在する街のほとんどには、エーテル炉が存在する。その数と大きさに差はあれど、街が出来てエーテル炉が発掘利用されるのではなく、エーテル炉が発掘された場所に街が築かれるというのが正しい。それ程までにエーテルは人々の生活にとって欠かせない存在であり、当然、それぞれの街の設置区画にはそれなりの警備が置かれている。


 しかし——その夜、ペイルローブの街のエーテル炉付近には、二つの影しかなかった。


 巨大な建造物の麓(ふもと)——五十メートル四方はあろうかという潤沢なスペースだった。老朽化した管理施設が取り壊され、ならされた場所。ところどころに散見される資材の山を除けば、視界の利く戦場だと言えた。


 天空に架かる月は、血のように紅い。


 月明かりに照らされた先、二人の人物が存在している。


 かたや、人ならざる異形の者。かたや、長身の男。両者を隔たる決定的な違いは、見た目以上に、その立ち位置に表れていた。


 異形は地に平伏し、その傍(かたわら)に男——ライザは金色(こんじき)の剣を携え佇んでいる。


 勝者と敗者。

 

 決着は、意外な程にあっけなかった。


 アーサーの能力——正確には、アーサーの持つ遺物の能力を把握出来ていたのが直接の理由。敵を知れば、対策は立て易く、勝率は劇的に上がる。


 ライザの周囲には、彼の持つものと同じ剣が計10本、糸に吊られるように宙へ浮かんでいた。魔法で造り出した剣を、遠隔操作する力。リモートの他にオート操作が可能で、相手のエーテルの流れに応じ、あらかじめプログラムしておいた動きで迎撃出来る。


 意識を分断する|【手に持つ聖母】《インビジブル・ドア》に対抗するには、これ以上無い能力と言えた。


 ライザは、敵にトドメを刺すべく、剣を振り上げる。


 確実に右腕を切り落とす。遺物と男の体を切り離せば、こちらの勝利は確定するのだ。その後この男がどうなろうが、ライザにとってそんなことはどうでもよかった。


 こいつと、エルルを再び相見(あいまみ)えさせる訳にはいかない。


 アーサーの身の上を説明したデータを閲覧していた時の事。彼女の横顔の些細な違和感を、ライザは感じ取っていた。巧妙に隠してはいたが、少なからず彼女は動揺していたように思える。


 同情し、戦えないのならまだいい。


 感化され、殺せないのならまだいい。


 しかし、彼女の強さ——否、弱さは、他人の痛みを感受してなお、その痛みに自らが傷付きながらも、それでも決して逃げないことだ。


 苦しみを受け流すことが出来ない。


 全てを自分の中に背負い込む。


 それは果たして強さなのだろうか。


 それは果たして優しさなのだろうか。


 ライザは、そうは思わなかった。


 他人の痛みを我が物とし、自分が傷付き続けたその先に、一体何がある——?


 いや、何も無い。ある訳がない。そうやって戦場で破滅していった人間を、ライザは幾人も知っている。皆、いい奴だった。いい奴だから死んだ。皆、死んだ。


 だから——。


 こいつは、今ここで、確実に仕留める。


 恨みは無いが。


 恨みなど無いからこそ。


 エルルの為に。


 ライザは剣を振り上げる。


 そして、振り下ろす——瞬(まばた)き刹那。


 一瞬にも満たないその限りなく短い時の中で。


 ライザは、確かに『声』を聞いた。

 

「それじゃあ、困るんだよ」


 直後に感じた、自身への明確な死のビジョン。ライザは全力でその場を飛び退いた。


 直後、元いた場所に、光の柱の如くエーテルが立ち昇る。


 凄まじい密度、圧倒的な力。そこに込められた紛れもない敵意。


 ライザは、目を見開く。


 もし当たっていれば、普通ならば即死。自分の場合でも即行動不能。そう断ずるに難(かた)くない程の力を、その『攻撃』は秘めていた。


 アーサーからの反撃?

 

 いや、違う——。


 十分な間合いを取りながら、ライザは反射的に頭に浮かんだ仮説を即座に否定する。


 アーサーに、そんな力はもう残っていない。それは、敵対していた自分が一番よく分かっている。そこは見誤らない。


 何よりも——そんな理屈より何より、もっと単純で明確な理由が存在した。


 攻撃の刹那、聞こえてきた声——ライザは、その声の主を知っていた。


 忘れるはずもない。


 体の芯にまで刻まれた嫌悪感が呼び覚まされる。苦々しい記憶が脳裏を虫の如く這い回り、背筋を侵(おか)した。


 忘れられるはずが無かった。


 ライザにとって、『その人物』は″家族“の仇とも呼べる存在だった。


 苦渋に顔を歪めながら、ライザは乱入者へと視線を向ける。


 ライザとアーサーの丁度中間——まるで空から舞い降りる天使のように、ゆっくりと、優雅に、『彼女』は降り立つ。


 幼い少女だった。


 白いワンピースの裾が、ふわりと舞う。長い金髪が、天の川のように夜の闇に映(は)えた。精巧に造られた人形の如く、見るものを惹き込む芸術的な美しさ。幼いながらも完成された雰囲気を纏う少女。伏せられていた長い睫毛(まつげ)が持ち上がり、切れ長の碧眼が、ライザを捉える。


 冷たく、感情の宿らない、宝石のような瞳だった。


 その視線に、ライザの心拍数が一気に跳ね上がる。ここに来るまで、ある程度の予測はしていた。今、目の前に現れたこの幼い少女が、今回の事件に関わっているであろう事を。故に、心構えをしていたつもりだった。


 しかし、実際に相対すると、こうも感情を揺さぶられる。直接、心臓を鷲掴みにされるかのような心地。かつての仇敵の登場、それ自体にではない。久々に、その忌々しい声を聞いたからでもない。今の自分では致命的になりかねない攻撃を受けたからでもない。


 奴の容姿——その眼が、その外見が——″自分と瓜二つのその姿″が、一番心をかき乱す!


「『ラゼル』——!」


「やあ、久しぶりだね。ライザ」


 少女——ラゼルは、見た目の可憐さにそぐわない、少年のような笑みを浮かべながら応(こた)える。


 無機物のような瞳と、その気さくな表情。相反する要素が、彼女の歪さを際立たせる。


「何故、お前がここにいるんだ!」


「久しぶりに会った『姉』に、随分な口の聞き方だね、ライザ。お仕置きが必要かな?」


 ラゼルの何気ない一挙一動に、ライザの警戒度が極限にまで高まる。

 

 ライザは過去の経験から、骨身に染みて分かっていたからだ。


 このラゼルという少女が、何をしでかすか分からない恐ろしさを持っていることを。全てを無茶苦茶にして、台無しにするような不快さを合わせていることを。


「ふざけるな。何が姉なものか——!」


 ライザは忌避感を隠すことなく、少女を睨み付ける。


 交錯する視線。


 全神経を相手に向ける。全ての感覚を敵に注ぎ込む。何をされてもいいように。ラゼルの出方を予測し、何か動きがあればすぐ対応出来る様に、気を張り詰める。


 息を呑む、一瞬の静寂。


 ふいに。


 ラゼルの姿が、かき消えた。


 知覚する間もなく——次の瞬間には、ライザの目と鼻の先に彼女の顔が。


「なっ——」


 脳裏に浮かぶ、圧倒的な死の予感。


 しかしながら、ラゼルが次に取った行動は、ライザにとって全くの予想外のものであった。


 唇を覆う、柔らかな感触。唾液が混ざり合い、甘美な糸が紡がれた。


 何が起きたのか理解できない。ライザに出来たのは、ただ驚愕に目を見開く事のみだった。


 年頃の少女のような悪戯っぽい笑みを作りながら、ラゼルが距離を取る。


「ふふっ、ちゅーしちゃった」


「何を——お前は、何をしているんだ……?」


 反応出来なかった。動けなかった。まだ年端もいかない少女に対し、ライザは手心を加えるつもりなど毛頭無かった。間違いなく全神経を尖らせ、何かあれば即座に反撃するつもりだった。けれど、一歩も動けなかった。


 ライザは、剣を強く握り締める。焦燥感が胸を支配していた。過去の苦い記憶。経験。戦う者として否が応でも分かってしまう。


 両者の間にある、圧倒的な実力差が——。

  

「何って、ちゅーだよ。ちゅー。接吻さ。キス以外の何だと言うんだい? 何を怒っているのやら……まるで余裕が無いみたいに見えるぜ。こんなのはただの挨拶だろ? それとも、まさか初めてとか? なるほど、そいつは悪い事したかもしれないな」


 可笑しそうに、とても犯(おか)しそうに、ラゼルが笑う。名画の中に描かれた少女が そのまま微笑んだかのような凄まじい美しさ。そこに、命が宿っていない。ぬぐい切れない違和感。そして何より、恐怖を感じる。


「でもまあ、こんなとびっきりの美少女と初めてが出来たんだから、やっぱり幸運と言うべきかな? 運がいい。いい事が起きたなら、喜ばなくちゃ、笑わなくちゃな。いつまでもそんなしかめっ面してないでさ。さあ、笑顔だよ。笑ってごらん? 笑えよ」


「相変わらず、お前は何も変わらないな……。あの時のまま……とても、不愉快だ。何をしに来た? 何故ここにいる? さっさと答えろ」


「ははっ、最初に言ったろ。それじゃあ、困るんだよって」


「困る……?」


「ここに転がっている……えっと、なんていったかな……ああ、そう。アーサーだ。アーサー・ローラン。親の愛などとありもしない幻想にすがりつく、哀れな男——この可哀想な男には、ちゃんと″最後までエルルと戦って貰わないと″。わざわざ、貴重な遺物まで与えた意味がない」


「⁉︎  どういうことだ!」


「さあ? どういうことだろうね? そうやってすぐ人に答えを求めるなよ、おまえの悪い癖だぜ」


「ならば、力づくで聞き出すまでだ」


「できるとでも?」


「やってみせる」

 

 ライザは、剣を構える。


 このままこいつを放置すれば、事態は悪化する。


 はっきりした。目的は分からないが、アーサーに遺物を渡したのは、ラゼルだ。となれば、異形化の異常なスピードも、手段は不明だがおそらくラゼルの仕業。全ての元凶は今、目の前にいる。それだけならばまだしも、エルルの名前がその口から出たことに、ライザは恐れを抱いた。


 戦力差は著しい。


 唐突に現れた仇敵に対し、万全な状態ですら無い自分が勝てる見込みは皆無だった。


 それでも、やらなければならない。


 やらなけらば、エルルを守れない。


「はははっ、いいね、分かりやすくて。遊んで上げたくなる。でも、今は駄目だ。時間が無い。ぼくはまだ、エルルと会うわけにはいかない」


 笑いながら、ラゼルが取り出したのは、一本のナイフだった。アーサーの持つ物と同じく、特異な形状をしている。細やかな意匠は、刃にまで及び、およそそれが切断の目的で用いられる物ではないことが見て取れた。そして何より、切っ先——まるで、インクを吸い上げるペン先のように、細い切れ込みが入っていた。


「これは、|【祈る大罪の枝】《セフィロト》という遺物でね。|【手に持つ聖母】《インビジブル・ドア》と同じ、第六位階の遺物で、古代の医療器具なんだけれども。これを使うと、人の体に直接エーテルを注入出来るんだ。本来ならば、不足した患者のエーテルを補う為に、適度な量を注ぐのが正しい使い方なわけだ。しかしだよ——」


 ラゼルが、傍に横たわるアーサーの近くで屈み込み、ナイフを振り上げる。


 何をしようとしているのか、少ない情報からも、ライザは瞬時に理解した。


 このまま、やらせるわけにはいかない。


 ライザは、周囲に浮遊する剣を一斉に、ラゼルへと向かって放った。


 反撃の狙いを定めさせないように、不規則な軌道を描きながら、全方位から襲いかかる剣の雨。


 ラゼルは動かない。それどころか、自身に向けて放たれた攻撃を見てもいなかった。


 目標へと到達する直前、ライザの剣が、空中で弾かれて霧散する。


 ラゼルの周囲に張り巡らされていたのは、不可視のエーテル壁。限りなく薄く、それでいて不可侵の強固さは、敵の力量の高さ故。


 ライザは、怯むことなく剣を強く握った。遠距離が駄目なら、直接叩き込む。そう思い、足にエーテルを集中させた矢先だった。


 ラゼルの遺物が、無情にも振り下ろされた。


「——こうして、大量のエーテルを注ぎ込めば、対象者と融合する遺物を、意図的に暴走させることも可能というわけだね。ははっ、便利な世の中だ」

 

 |【祈る大罪の枝】《セフィロト》を通じて、ラゼルの強大なエーテルが、アーサーへと注ぎ込まれる。


 金色に輝く光の奔流(ほんりゅう)。それは、決して人の器に収まるはずの無い力だった。


 歪な悪意と、歪んだ作意に晒(さら)され、|【手に持つ聖母】《インビジブル・ドア》の暴走が加速する。


 すでに動かなくなっていたアーサーの肉体が、大きく脈動した。沸騰するかのように肉がぼこぼこと波打ち、歪んでいく。唯一、人としての体裁を保っていた頭部までもが、異形に呑み込まれていった。黒色の甲殻に覆われた手足は、更に大きく鋭利に。遺物が体内へと取り込まれる。


 人と、遺物の完全なる融合。


 肉体という枷(かせ)は失われ、遺物の『器』へと成り果てる。


 そこにはもはや、生命としての尊厳は微塵も残ってはいなかった。


 その様子を生気の宿らない瞳で眺めながらラゼルは「ああ——そうそう」ゆっくりと、立ち上がる。


「もう一つ。良いことを教えてあげよう。一般的には、完全に異形化した存在は、人や物を無差別に襲うと言われているけれど、正確には違う。ただ——人や物に宿る、エーテルに惹かれているんだよ。つまり——この男が、|エーテル炉付近《このばしょ》に来たのも偶然じゃない」


 ラゼルの柔らかな笑みが、ライザへと向けられる。


「何が、言いたい……?」


「いや、大した事ではないんだけれどね。君″達″が負けたら、エーテル炉は無事じゃ済まないだろうと思ってね」


 ラゼルが言い終わると同時に、異形化を終えたアーサーの体が稼働を始める。


 ライザは、咄嗟にガードを上げた。


 かろうじて見えたのは、大きくしなる黒色の影。凄まじい衝撃が、全身を貫いた。異常な圧力を伴い、体が吹っ飛ぶ。地面に何度か叩きつけられ、それでも威力は全く衰えず、受け身を取ることすらままならない。ライザを受け止めたのは、広場に放置されていた建材だった。木材を砕き、鉄骨を曲げ、ようやくライザの体は停止。


 ガードなど何の意味も無かった。腕の骨が粉々に。口から血が溢れ落ちる。内臓が損傷していた。体を治癒するだけのエーテルが足りない。


 さだまらない焦点を、それでも前へ向ける。


 アーサーは動かない。瞳の無い頭部が、静かに死にかけの獲物を見据えていた。既に決着したのならば、余計なエーテルを使うまでもないという本能に基づく合理的な判断。


 そしてそれは、間違ってはいないだろう。

 

 ラゼルのエーテルを取り込んだ怪物が放つ一撃は、ライザの体へ致命的なダメージを与えていた。


「さようなら、ライザ」


 聞こえてきたのは、ラゼルの声。


 いつの間にか、彼女が目の前に立っていた。


「今度こそ、ちゃんと死ねるといいね」


 それは、呪いの言葉。


「おめでとう、ライザ」


 それは、祝いの言葉。


「ラゼル。お前だけは、俺が絶対に——殺す」


 死に祝福を。死が、二人を分(わ)かつまで。


 『二人の化け物』は、止まらない。


 軽やかな笑みを浮かべながら、ラゼルの姿が光の粒子となって霧散する。


 ライザは、重い体を持ち上げた。


 体温が急激に下がってきている。血を流し過ぎたのだろうか。痛みがいつの間にか消えていた。体が放つ危険信号が止まるのは、命が尽きかけている証拠。


 心の何処かで、死にたいと願っていた。


 そしてそれはたぶん、今も変わらない。


 このまま目を閉じれば、もしかしたら願いは叶うのかもしれない。


 けれど、それだけは受け入れるわけにはいかなかった。


 簡単なことだ。


 捨てたいと思った命。


 手放したいと願った生。


 ライザにとって、自分自身の願いなど最早取るに足らない些事に成り果てた。


 自分の命の所在よりも、大切なものが出来た。


 ここで自分が負ければ、きっとエルルは悲しむ。


 出会ったばかりの自分の為に、涙を流す。それが彼女という人間だ。


 エルルの涙。


 それだけは、嫌だ。


 絶対に、受け入れるわけにはいかなかった。


 負けてたまるか。死んでたまるか。


 体は既に満身創痍。腕は使い物にならない。気力だけが、かろうじてライザの意識を繋ぎ止める。


 絞り出したエーテル。一本だけ空中に出せた剣の切っ先を、アーサーへと向けた。


「なあ、『化け物』。″お前なんかに構っている暇は無いんだ″」


 それは、誰に向けて放たれた言葉だろうか。


「俺は、あいつに酒を持って帰ると約束したんだよ」


 アーサーが、再び戦闘態勢に入る。瀕死の獲物が見せた、まさかの抵抗。しかし、感情が欠落した化け物は慌てることなく迎え撃つ姿勢だった。


 気持ちとは裏腹に、冷めた頭でライザは考える。


 己と敵の彼我(ひが)戦力の差は? ラゼルを相手取るよりかは、まだ一抹の勝機はあるだろうか。


 勢いだけでは勝てない。

 

 勝つ為に、自分がすべきこと。しなければならないことは、何か。


 その時——ライザはあることに気付いた。


 それは、絶望の中で瞬(またた)いた銀色の光。


 ああ、なんということだろう。


 何故、今まで感じられなかったのか。


 どうかしている。あるまじき失態だ。


 『彼女』の気配を、見落とすなんて。


 希望は——すぐそこまで来ていた。


 銀色の光をなびかせながら、彼女が傍に降り立つ。


 黒曜の髪が、勇ましくはためいた。燃えるような夕陽色の瞳が、強い意志で前を向く。


 手には、遙か過去から蘇りし太古の剣。


「随分とまあ、大変そうじゃないですか、ロリコンの人」


「そうだな……。俺だけでは勝てん。力を、貸してくれるか?」


「ええ、もちろん。任せて下さい。″一緒に、明日の酒を求めて″。いつだって、人はそれだけでどんな困難にも立ち向かえるはずです」


 消耗し切ったライザの体に、活力がとめどなく溢れてくる。その声が、その言葉が、その姿が、ライザにとっての光だった。


 赤い月に照らす闇の中、金色と銀色は輝く。


 ライザとエルル。


 二人は、そして並び立った。

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