ファイエン大陸――この世界に存在する唯一の大陸。この星の六割の面積を持ち、九つの種族は覇を競う魔境だ。
俺が転移してきたこの場所は大陸北方の人間族最大の国、ロイリーナの領土だ。王都ファンから馬車? で一時間半くらいの場所にある田舎町。ここでは農業や町の特産物である果物を売り収入を得ていた。
ロイリーナは人間族の領土の中では最も他の種族の領土から離れたところにある。故に発展していると言える。
本をバタン、と閉じ別の本を開く。
どうしてこの世界の文字が読めるのか、どうして会話が普通に成立するのか。解らないことだらけだが、今気にするべきところではないだろう。
バガラさんの家には本なんて高尚な物は無かったため、町長のところの書物をいくつか借りて来た。
「どうぞお茶です」
本の積まれたちゃぶ台みたいなものに湯呑を置くナトリさん。少し頬を赤めているところを見ると、彼女も若干意識してしまっているのだろう。俺もなんです。
ありがとう、と礼をして再び本に目を移す。
形はかなり歪んでいるが、ひし形っぽい大陸だ。その三分の一の上部分が人間族の領土、残りの三分の二の大半が魔族の領土らしい。残った少ないところや周りの小さい島々に他の種族が国をつくっているそうだ。
人間族――要するに俺たち。魔力も体力も身体能力も最弱だが知識と数と武器の扱いで勝る。
魔族――膨大な魔力を有し、多種多様な姿と能力を持つ。大陸で最も領土を広げる戦力を有す。
鳥人族――背中に翼の生えた種族。翼の種類に応じて能力や特徴が異なる。大陸中央の世界樹を拠点とする。
鬼人族――最も体格と力に優れた種。頭のどこかに角が生えており、生きている間は伸び続ける。
豚人族――豚の様に太った身体と鼻を持つ種。雄しかおらず、腰に布を巻いただけの姿。
子鬼族――元々は魔族だったが数が多くなり長年の間奴隷にされていた為に離反。ゴブリンみたいな奴。
魚人族――背中に鱗があり首にエラが付いている。ごく稀に人魚が生まれる。
美人族――根本的には人間族だが常に美しい人間が生まれる。長い間奴隷にされた歴史あり。
聖魔族――所謂エルフ種。悪と聖の両方の資質を持つ。美しい反面、恐れられる種。
基本的に人間族と魔族が争っており(争いにもルールが有り、無差別に襲うのは禁止されている)、他の種はどちらかに付くか中立かを選ばされている。中立の場合両国からハブられ、入国も儘ならないことになる。
人間族に付いているのが魚人族と聖魔族と子鬼族。鳥人族と豚人族はもともとこちら側だったが、前者は人間側の、後者は相手側の行いで決裂。どちらも中立となった。
魔族側には鬼人族と美人族が付いている。
ここだけの話、俺は人と付くのはもともとは人間だったのではと睨んでいる。子鬼族の例を見ても他の種は元々は魔族で、強さや数の関係も有り分離したのではなかろうか。
子鬼族と美人族は奴隷にされていたことも有り、それぞれ元の属していた陣営とは別の陣営に付いた。
「――難しい話ばかりですし、学者たちの話も食い違うことも多いですし、どこまで事実なのか解りませんよね?」
「まあ、普通はそうでしょうね」
ナトリさんは暇なのか本を読む俺をジッと見ていた。時折こうして話しかけてくる。
俺には真実が解っちゃうんだな、これが。
俺は考察するだけで良い。当たっているときには目が血走るから。これ結構痛いんだぜ? 目に血液が一瞬で集まってくるようなそんな感覚がするんだ。最初は酔いそうだったぜ。
少なくとも、さっきの俺の考察は間違いでは無いらしい。
「ん? なんですか」
可愛い顔して首を傾げる彼女について考えてみる。
ハーフを隠すのは何故か?
差別――無反応。宗教的な話――無反応。実はハーフは関係ない――バチッ。おお、当たったか。
ハーフが関係ない、と言うことは本人の問題か? とするとどうなる。
性格上の問題――無反応。親関連――無反応。実は犯罪者――無反応。実は有名人――バチッ。
「過去は分かりませんが……ナトリさんって有名な方なんですか?」
「――っ!?」
息を飲む彼女の反応を見るに、図星か。うんまあそうだとは分かっていたけどね。
「どうしてわか――」
「て、ていへんだ!」
言葉を遮る様にバガラさんが扉を開け、勢いよく入ってきた。汗はダラダラで、白いシャツは肌に張り付き実に気持ち悪き。そう言うのは女性の仕事なんですよね。
「き、騎士団長が――あの人間族最強が来ただ!」
レイーク視点――。
ドゥン・ケシーの事を部下のフランと話していた昨日の今日でとんでもない報告が入った。
「ドゥン・ケシーを名乗る者が現れたみたいです!」
部下から寄せられた情報を頼りに、私と数人の騎士は件の町に向かった。
超特急で向かえば、町長の男とそのメイドが町の門で出迎えるよう待ち構えていた。
「まさかかの最強――雷帝のレイーク様に来ていただけるとは。私は」
「挨拶はいい、それより早くドゥン・ケシーの居るところまで案内をお願いします」
申し訳ないが、悠長に挨拶している場合では無いのだ。もし他の国に洩れたらどうする? いや、まだ同じ人間族ならマシか。他の種族に洩れたら戦争不可避だ。
世界で最も安全圏に居る存在、そう呼ばれるのも本人だけだ。周りは逆に争いが絶えない。例えそのドゥン・ケシーのせいで味方が大勢死んだとしても、手に入れるべき存在。その存在はすべてを許容される。敵に回してはいけないからだ。
「――それもそうですね、こちらです」
先導され、私達はそれに続く。フランと目線を交わし、頷き合う。お互いが自制できなければフォローし合わなければならないだろう。奴らは嘲笑う者だから。
「彼がドゥン・ケシーです」
「――ほう、ふむ、え?」
王都に居たらまず見ることが叶わないオンボロの家の前に三人の人間が居た。女性は違うだろう、体格の良い男性も違うだろう。となるとあの黒髪の仮面の男か。
恰好は王都の学園の制服に似たものだが、素材の違いは一目瞭然だ。貴族のドレスに匹敵するものではないだろうか。黒髪は見たことも無いくらい艶やかで真っ黒な髪だ。なにより仮面が謎だ。仮面を着ける理由は? 過去のドゥン・ケシーが着けていた例は聞いたことが無い。
あまりの不気味さに変な声が出てしまった。後ろをチラッと見ればフランが何してるんですか? と睨んでくる。
「オッホン――私はロイリーナ国王都ファンの王族直属騎士団の団長、レイークだ。以後お見知りおきを」
「……ふぅん♡、畏まるなよ、立場が違うだろっ」
ぞぞぞ、と背中から嫌な何かが走る。き、キモイ話し方しやがって。
「ひゃっ」
いきなりお尻の肉を抓まれた。見るとフランが怒った顔で睨んでくる。
す、すまん。自制しろ私。
「何か僕に用かい♡」
「あばばばばば」
き、きもいいいいいい。なにこのキモさ!? 無理だよ、耐えられないキモさだよ。
「も、申し訳ありません! うちの団長は調子が悪いみたいです、私が代わりに話します」
ぐいっと首根っこを掴まれ後ろに引かれる。
くそ、これじゃ私がどうしようもないアホみたいじゃないか。
「私はふら――」
「溜まってるねぇ……中が」
何の事だ? フランの言葉を遮り、仮面の男は彼女の下腹あたりを指差した。私は回り込みフランの腹を見るが、特に変わったところは見受けられない。
男の発言を受けたフランは固まり、震え出した。
「さ、流石はドゥン・ケシー様ですね。本物のようで安心しました」
強がりか虚勢か、彼女はぎこちない笑みを浮かべた。
クロキ視点――。
騎士団長と言う者が来たらしい。俺はバガラ夫妻と共に家の前に立ち待つことにした。人間族最強の騎士団の最強の団長なんだとか。
しばらく待つと、町長が数人の鎧を纏った者たちを引き連れてきた。門番の青年とは比べるのも失礼なレベルのしっかりした鎧だ。八人くらいいる中で女性二人は肩や胸元を完全に露出させた鎧でしかもミニスカートだ。白銀の鎧に青いスカート、白いニーソ。肩から腰までくらいの長さのマントを羽織っている。こいつら護る気ある?
一番前に居た金髪碧眼の巨乳、背に長い槍を付けた女性が挨拶をしてきた。だいぶ畏まっていたのでそんな身分では無いですよ、と優しく促す。なぜか引かれたが……。この仮面のせいか? しかしそう思っても反応が無い。俺自身のせいか。
ついには震え出したのでどうしたものかと後ろの女性を見る。同じ格好だが、胸のサイズがおかしい銀髪の女性だ。金髪がメロンだとしたら、彼女はスイカ。しかも巨大な。彼女は腰にレイピア? みたいなものを着けている。
うーむデカいな……。どうしたらこんなに大きくなるんだ? 意外と揉まれまくった結果とか――バチッ。え、そうなの!?。
一歩前に出た彼女の体を見回す。すると彼女の下腹部が淡く光って見えた。なんだ? これは何を示しているんだ?
便秘――無反応。食べ過ぎ――無反応。せ、せ〇〇き――バチッ。うっそだろ!?
「溜まってるんですか? 中に」
言ってて思ったがこれってセクハラじゃね?
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