呪いの仮面の道化師は異世界で?

ミツギ
ミツギ

7 戦闘

公開日時: 2021年2月9日(火) 07:59
文字数:3,175

「――また来いよ」

「お待ちしてますね」


 名も無き田舎町(正確には有る)。短くも濃い日々とお別れを告げる時が来た。


「バガラさん、ナトリさん……今までお世話になりました」


 彼らと別れの挨拶を交わし、俺は騎士団の者たちと町を出た。騎士団の相棒たるピャーウは真っ黒であり、黄色のピャーコよりも一回り大きかった。その黒きピャーウが引く荷台にはたくさんの荷物が積まれている。何やら町長と騎士団長のレイークとか言う失礼な奴が話をしており、その結果これほどの品を献上されたそうだ。


 俺は鞍の付けたピャーウに跨り、王都へ向け進んでいる。と、言いつつ乗れるわけないので騎士団長にしがみ付いている。ムカつくやつではあるが、美人だし腰は細く腕を回して余裕で組めるほど。振り落とされない様に必死にしがみ付き、彼女の髪や体の匂いが鼻を刺激する。


 役得、役得ー。とテンション上げていたらいきなりピャーウが急停止した。その衝撃で思いっきり彼女の鎧に顔面を強打した。


「降りろ――敵だ」

 レイークの綺麗で透き通った声が響いた。


 俺以外の面々が一斉に地面に立ち、武器を構えた。レイークもシュバっと降りたため、俺はそのまま地面に真っ逆さまに落ちていく。

 

 ガンッ! 頭を打ち、目がチカチカする。


「どこだ?」

「察知できません射程外からの攻撃でしたね」


 レイークとフランは辺りを見回し、警戒をしている。他の騎士たちも俺や荷台を囲う様に陣形を取っていた。


 どうしたものか。このまま突っ立っていればいいのだろうか。


 バチッッ!!!


 かつてないほど目に衝撃が走った。一瞬視界が真っ赤に染まったほどだ。


 どういうことだ、立っていたらダメなのか? 俺は初めての経験で戸惑ってしまう。今まで、正解を考えたり見たりしたら反応した仮面。しかし今回はその逆、不正解の選択肢に反応した様に思える。今までは間違っていたら反応がしない、と言うことで判断していた。これは警告か? 仮面からの。


 どうすればいい。進む――無反応。右に逸れる――無反応。左に――無反応。しゃがみ込む――バチッ。いつもの反応だ。俺だけ――無反応。全員で――バチッ。


「――全員しゃがめ!」


 俺は急いでしゃがみ込んだ。周りを見ると、戸惑いこそした者の全員同じようにしゃがみ込んだ。よくもまあ俺の意見を聞くよな。普通は何言ってんだこいつ? みたいな感じでスルーされね?


 そんなことを考えていたら頭の上をぶわっと風が流れた。


『ピギャガガガガ!』


 後ろに振り返るとピャーウ達や荷台が横に真っ二つに裂けていた。もし立ったままなら、俺もああなっていたのか。


 バサ、バサ――羽ばたく音を頼りにそちらを向いた。そこには真っ黒なぴっちりタイツに背中から黒い大きな翼を生やす黒髪をオールバックにした男がいた。


 噂に聞く鳥人族ってやつか。


「いきなりとんだご挨拶だな――バーク!」


「ふん。貴様ほどの女が護衛に当てられたのなれば、そいつがドゥン・ケシーで間違いなさそうだな」


 立ち上がったレイークは槍を構えると、バークと呼ぶ男に向けた。後ろからは背中しか見えないが、彼女からは怒気が窺える。そんな彼女の怒りを平然と受け、バークはうっすら笑う。


 両者が睨みを効かせ、時が止まった様に沈黙が流れた。


 そんな均衡状態を打ち破ったのはバークであった。


「ドゥン・ケシー! 貴様が本物と言うのならば、今俺はどうしたらいい!? 答えてみよ! 貴様たちは所属を選ばんのだろう? なら俺の問いにも答えられるはずだ」


「バーク! いきなりやってきて何なんだお前は!!」


 レイークは吼えた。ほんとそれ。俺に何聞いてんだよ? もうまじ道化師って名乗ったの後悔しっぱなしだわ、今から取り消せませんかね。


 と、取りあえず考えてみるか。このまま去る――無反応。謝る――無反応。戦闘――無反応。あとは……。



 考える事数分。

 もう分かんねーよ!! 正解が解るっつったって俺がその正解の選択肢を思いつかないと意味が無いんだよ!! どうする? アイ〇ル~♪ てふざけてる場合じゃ――バチッ。ふぁ!? あ、アイ〇ルだと……。金か? いや反応が無い。あい、アイ、愛? ふる、フル、降る? 愛降る? どういうことだ? しかし今愛降ると考えたらバチッと来たな。なんだよ愛降るって。


 周りの目が痛い。みんな黙ってこっちを見てるよー。穴が有ったら入りたい。何も悪いことしてないのに。


 ん、フランを見たら彼女が光っていたな。彼女が正解なのか?


 俺は彼女の光っている場所に触れた。


「え、き、きゃああああああっ!!!」


「「「「おおおおおおおおっ!!!!」」」」


 彼女の上の鎧のベルトが千切れ、バーンと彼女の爆乳が晒された。こ、こいつ下に何も着けてないのか。インナーとか着るだろ普通。


「く、さすがだな……俺の思いに気付くとは。もういい、俺は行く」


「な、待て――」


 股間を押さえながらバークは去って行った。へ、これだから童貞は! 女のおっ〇い見たくらいで情けないな(数日前まで童貞だった男談)。


 フランは腕で胸を押さえていた。如何せん大きすぎて頂点くらいしか隠せていない。ぶにゅっと腕から逃れる様に肉が溢れている。べーはまじで、べーよこれ。やべーよこの爆乳。後ろの騎士たちも股間を押さえている。


「み、見ないでください……」


「泣いてるところ悪いが、みすみす奴を逃してしまったのはお前のミスと言える。よってお前には王都の城までその格好で行くことを命じる!」


「――え?」


「「「「おおおおおおおおおっ!!」」」」


 絶望に染まったフランに、興奮する騎士。だめだこいつら、この国終わってるわマジで。てか、悪いの彼女じゃ無くて俺じゃね?


 荷物は無事だったものだけ手で持ち、死体となったピャーウ達はフランの魔法で使えない荷物ごと燃やされた。フランは泣きながら手で箱を持っている。その箱に爆乳を乗せながら。






 レイーク視点――。


 腰にしがみ付く男を王都に送る任務に就いた私は、鳥肌が止まらない。この男に気持ち悪さが先行してしまうからだ。そんな男に鎧越しとは言えしがみ付かれる私の身にもなってほしい。色仕掛けはどうしたって? 知らんなそんな蛮族語。


 しばらく走らせていると、殺気が私たちを通過した。これは試している?


「降りろ――敵だ」


 ついでにクロキを振りほどき、私は槍を構える。


 どこから来る? 何人だ? どの種族だ? 何故襲ってくる?


「――みんなしゃがみなよ♡」


 ぞぞぞ! 悪寒走る背中を無視し、私たちは奴に続いた。奴のキモさは無視しても聞くべきだ。ドゥン・ケシーの選択に間違いは無い。


 ビュ――。一刃の風が上を通り過ぎ、ピャーウや荷物を真っ二つにした。私ならば無傷だっただろうが他の者は死んでいただろう。これがドゥン・ケシーか、伝承通りの存在って訳か。


 私たちの前に現れたのは鳥人族の中でも屈指の勇将、バークだった。『黒刃翼のバーク』と言えば人間族における私みたいな立ち位置だ。そして、昔からのフランのストーカーでもある。種族単位で決別してしまったと言うのに、この男は一切諦める気は無いらしい。哀れだな、もうすでにフランは中古だと言うのに。せめて新品の美人の私に惚れて置けばワンチャンあっただろうに。まあそんな安い女では無いがな!


 奴は試した、クロキを。


 数分考えた後、クロキはフランの鎧の留め具に触れた。その瞬間に鎧ははじけ飛んだ。あの爆乳を無理に押さえつけていたのだ、その結果の劣化部分をやられたのだろう。それを見抜く目も流石の一言か。大きくて小さいものがあふれ出し、バークや私の部下たちは股間を両手で押さえている。フランは悲鳴を上げ、泣いた。ざ、ざまあ見ろ! 私を処女と見下すから罰が当たったんだ!!


 バークの恋心すら見抜いた結果、クロキを認めたバークは去って行った。私はフランにそのままでいる様に命じた。部下はガッツポーズをしている。うん、うん良いな! 男は多少変態な方が健全ってものだ。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート