ナガラ視点――。
王都ファンの中でも城に次ぐ大きさを誇る、未来のパーティを担う者たちを育成する機関。それがここ職業候補生学園、学園や職学と呼ばれる場所である。
外周を十メートル越えの塀で囲われ、敷地は一つの街が入ってしまうほど広大である。中央に学園本校舎が有り、周りに修練棟、研修棟、部活棟などが並ぶ。学生寮や各種武器道具生活用品などを売る施設もある。
八歳になる年に入学でき、そこから小学部が三年、中学部が二年、高学部が三年の計八年学ぶことになる。十五の年に卒業試験を受け、それぞれの目指すべき職業の訓練施設に入学する。職業により異なるが、大体そこから三年ほど学ぶことになる。
学園の制服は男女共に赤いブレザーで、下は黒でスラックスかスカートかは選択制だ。白いワイシャツに黒いネクタイであり、着崩したりするのは常識の範囲で許可されている。
「この制服を着るのもあと半年くらいだねー」
「――そうだね」
私、ど田舎の町の出身であるナガラは学園に通う高学部三年である。母から引き継いだ茶髪を長く伸ばし、ポニーテールにしている。まだ十五になる前であるが胸は大きくなってきており、若干制服がキツイ。身長も女性にしては大きく、お尻もお恥ずかしながら大きくなってきた。ナガラだけにね!
物思いに耽る学園最終年の初夏、いい加減夏服にしろよと思う季節。窓側の席である特権を行使し、机に頬杖を付き空を眺めていた。そんな風にかっこいい絵に耽っていたら後ろから声をかけられた。腐れ縁の友人、アガノちゃんである。彼女とは小学部からずっと同じクラスであり、なぜか気が合った。
「ナガラは何になるか決めたー?」
いちいち間延びする、どこかアホっぽい話し方の彼女。でもこう見えて成績は学年五位に入るほどである。灰色の髪はサイドに纏められ、化粧をしていないのに大きい眼の美人さんだ。胸も尻も大きすぎることなく程よいサイズで、うぇへへとキモイ笑い方をする。
もうすぐ授業が始まる。そこが人生の選択の中でも特に重要な時間となるだろう。
「――今までの授業でお前達には職業とは、種族とは、今の情勢とは、常識に至るまで教えてきた。今回は職業に就いたその先、役割についてだ。お前たちの選択を決める重要な要素だ、しっかり聞くように」
授業が始まり、私たちのクラスの担任であり職業系の授業を受け持つリンツが黒板の前に立ち、私たちを見渡し目を細めた。これは先生がサボったりしているかをチェックするいつもの授業開始の合図だ。
リンツは背の高い二十代後半の女性だ。すらっとした体形で、スーツを着こなすバリバリの大人って感じだ。金髪を肩辺りで切り揃え、ツリ目が魅力的かつ高圧的な教師。
「ナガラ! 前に出て先ずは職業を全部書け」
「は、はい!」
いきなりの指名に、驚きながらも勢いよく立ち上がり黒板に向かう。
勇者、戦士、魔法使い、僧侶、武闘家、盗賊、賢者、調教師、技師、騎士、術師。
「書きました」
「ご苦労、では席に戻れ」
何も言われなかったところを見ると間違ってないのか。若干不安だったりしたりしなかったり。
「職業に関しては今更細かく言う必要は無いな? ライセンスを貰えたなら名乗ることを許される」
職業はライセンスを手にし、初めて名乗れるものである。
勇者――万能な職業。高く多彩な資質が求められる最希少の職業。
戦士――武器を使った接近戦のプロ。
魔法使い――魔法を使う者。
僧侶――癒す手段を有す者。
武闘家――己の肉体、もしくは打撃武器を用いる者。格闘家とも言う。
盗賊――相手の装備を奪ったり、相手のスキルを奪う者。
賢者――賢き者、あらゆる手段を用いる知識と技術が必要。
調教師――味方を強化し、相手を従える者。
技師――武器道具を作成、修復する者。
騎士――高貴な者。血と教養が求められる。
術師――催眠、洗脳、錬金などを行える者。
大雑把に言うとこんな感じだ。被ってそうな物がいくつかあるが、厳密には違うらしい。
「ライセンスを手にした者は三人から五人のパーティを組む、そこで役割を決めるのだ」
「具体的にはどういうものなのですかー?」
アガノは手を上げながら質問をする。
「例えば戦士、こいつは何ができる?」
「――武器を使って戦うこと? あとはパーティを護ったり」
まあ、そんなところだろう。
「概ね合ってるな。では、パーティで戦士以外が決定力に欠けるメンバーなら戦士はどうすればいい?」
「戦士が火力要因として戦う?」
「逆に戦士以外が高火力なら?」
「戦士がその人たちを護る?」
いちいち疑問で返すのが少し面白い。
要するにアタッカーをやるか、タンクをこなすか。そう言うことだろう。
「魔法使いだけで固まる場合もある、バランスよく組む場合もある、状況に応じてそれぞれの役割が変わるんだ」
魔法使いだけのを魔法パ、バランス型はバランスパと言うらしい。ルーキーだけの場合はルーキーパと言うそうだ。
「ちなみにここでは一つを除いて名は言わん。理由は多すぎるからだ。細かい違いで名称を変えるやつもいるから正直面倒臭いんだ」
「その一つはどうして教えていただけるんですかー?」
「もし現れたら、絶対に手を出してはならないからな」
どういうことだ? 手を出すとは。
周りを見てもみんなよく分かっていない顔だ。
「例えば敵対する奴らの中にそいつが居たとしよう。そいつの重要性を解っている奴は絶対にそいつを殺さない。そいつのせいでどれだけ被害が出ていたとしてもだ」
敵なのにどうしてだろう。考えてもよく分からない。だって味方に引き入れたいと願ってもそう簡単にいかなくない?
「選択を笑う者――そいつらはそう言う風に呼ばれる。歴史上の名を残すパーティには必ずそいつらが居た。逆に言うとそいつら無くして名を残すのは不可能と言えるだろう。その重要性は他の種族にも認知され、手に入れようと躍起になっている」
なにそれ? そんなのが本当に居るっていうの。
「そいつらは属する場所を選ばないそうだ、故にそいつ以外を滅ぼせば自軍に引き入れることが出来るらしい。だからこそ次そいつらが現れたら世界規模の争奪戦――戦争が起きると言われている」
戦争? その存在だけで? 有り得るのそんなこと。
ざわざわと教室内はざわつきだす。
「――そして、昨日八十年ぶりにドゥン・ケシーが現れたと発表された」
!?
「ど、どこでですか!? 掲示板にも張り出されてませんでしたよ!」
「そ、そうですよ、そんな大事なニュースならもっと大々的に発表されますよね!?」
「え、なに、戦争が始まるの!? や、やだよ……」
何となく一般に表立って公表されないのが分かった。この教室の雰囲気が全てだろう。
先生は教室内の喧騒を止めることなく腕を組み、目を瞑って黙っていた。先生もどうしていいのか分からないのかもしれない。
「――ナガラ」
「は、はい!」
え、なにほんと! さっきから私ばかり呼ばないでよ。私別に委員長とかでは無いよ!?
「ドゥン・ケシーが現れたのはお前の実家の町だ」
「へ? ん?……ふええええっっっ!?」
「し、しかもお前の実家で預かっているそうだ……」
「ほげええええええ」
私は死んだ。
クロキ視点――。
昨日突然やって来た騎士団。なんでも俺は保護されるそうだ。なぜ?
今はまだバガラ宅で住まわせてもらっているが(昨日の晩もナトリさんと……)、結論が出次第に俺は王都に搬送されるそうだ。搬送ってお前、荷物か何かか?
騎士団は帰って行ったが、レイークとか言う奴だけは残った。
こいつマジ嫌い。
「ひくひく――くっ」
俺が見れば頬を引きつらせ、体をさっと引くのだ。なにこれ、逆セクハラだろ?
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