バガラ視点――。
オイラはバガラ、町で作った物を王都に卸しに行った帰りに変な奴を見かけたんだ。
話を聞くとそいつはえらい訛った喋り方だった。オイラより訛ってるやつ初めて見ただ。
選択を笑う者――確かにそう名乗っただ。
数ある役割の中で最も重要かつ、希少。
ホラさ吹いたんかと思うたんけど、でも嘘を言ってる顔じゃねえ。
何より、最初に感じたこいつからの威圧感も説明さつく。
御者台で手綱さ引きながら、後ろをチラッと見れば鼻歌さ聴こえてくる。荷物が空になった荷台で横になってるこいつは、何故か訳解んねおかしな仮面さ着けとる。
ドゥン・ケシーと言えば人を小馬鹿にしたような態度で、どこか読めない人間と聞くさ。訛ってるんじゃなくて、ドゥン・ケシー特有の発音なのかもしんね。仮面もその本性を隠すためのもんかもしんねえな。
オイラはもしかしたら、とんでもねえ拾いもんさしちまったかもしんねえな。
ブルッと震えちまったオイラにドゥン・ケシーことクロキは心配そうに近寄ってくる。
「大丈夫かぁい・ボクが……代・わろう・か?」
荷台にしがみ付きながら、それでも変わらない不思議な言葉使い。
確かに人柄を知らん奴が見たら、小馬鹿にされとると感じるかもな。
「心配すんでね、もうすぐ着くから寝とき」
「そう・かい? な・ら・遠慮はいらないな」
語尾にハートマークでも付いてんのかと疑いたくなるキモい喋りさね。
とりあえず、町さ着いたら町長に相談だな。
とある騎士団長視点――。
人間族最大の国――ロイリーナ。
王都ファンの中心に佇む王城。ここの一室に一人の女騎士団長が居た。
名をレイーク。金髪の髪を一括りに纏め肩から垂らし、胸元の露出した白銀の鎧を身に纏う美女だ。
彼女は怒っていた。
「どうして騎士団長の私が部屋に籠って紙とにらめっこしないといけないんだ!?」
私は今まで手に取っていた紙を机に叩き付け、上半身を伸ばし長い書類作業で固まった身体をほぐす。
納得がいかな過ぎる。私はこんなことをするために騎士になったのでは無い。こんなことなら騎士団長になんてなるのではなかった、と言うより騎士にすらなるべきではなかった。
「――はぁ、しっかりしてください団長。まだ書類はたくさん残ってるんですよ?」
机に向かっていた私の斜め後ろに常に立ち、監視する副騎士団長フラン。
長い銀髪は先に行くにつれ緩やかにウェーブ掛かり、私と同じデザインの鎧から零れ落ちる上乳。爆乳が行き過ぎてる彼女の胸ではさしもの鎧も悲鳴を上げている。先っぽが隠れているのがせめてもの救いか。
くっ、私だって大きいのに……。こいつと並ぶとみじめに思えてくるな。
いや、待てよ――よく考えたらこれほど大きいのは寧ろ下品ではないか? 男は寧ろ私の様な大きさの、正に巨乳と言っていい胸の方が好きなのではなかろうか。そうに違いない。ざまあ見ろ爆乳の牛女が! 下品に胸でも揺らしてろ!
「――レイーク」
「ビクっ!! な、なんだねフランくん?」
ま、まずい……心の罵倒がばれたか?
冷汗を流しながら、私はゆっくり振り返る。そこにはいつもの無表情のフランが居た。
こ、これはどっちだ? 怒ってるのか、はたまた別案件か。
「この前出立したパーティが魔王に倒されたそうです」
「っ! そうか……さすがは魔王軍、奴らも必死だな」
「魔王軍では無く魔王です」
「魔王自ら出向いたのか!?」
魔族――人類の敵だ。
この大陸に存在する九つの種族。最も数の多い人間族と最も広大な領地を持つ魔族は常に対立している。
人間族の我々が複数の国を持ち、それぞれに王が居るのに対し魔族は常にトップは一人。
人間族は戦う者には職業のライセンスを取らせることから始まる。そしてライセンスを獲得し、プロとなった者たちで三人から五人までのパーティを組むのだ。そこから更に役割を与える。
今回王都から出立したパーティは最近プロになった新人たちで構成された、所謂ルーキーパと呼ばれる奴らだった。
「魔王が……ルーキー達を?」
「はい、信じられないのも無理はないですが」
「あの魔王だぞ?」
「あの魔王が、です」
今代の魔王は敵ながら尊敬に値する傑物だ。それがルーキーを倒した? 出立した日を考えたらまだ彼らは魔族領に到達してはいなかっただろう。つまり自ら赴いたのだ、彼らを倒すために。
信じたくはないが……これも戦争か。
「彼らの構成はどうなっていた?」
「これが彼らの契約書になります。構成も書いてますのでご自身で確認してください」
渡された紙に目を通す。
五人のパーティで勇者に戦士に魔法使いに僧侶に格闘家か……王道の組み合わせだな。
「勇者が居たのか……残念だな」
「ええ、相当希少なんですけどね」
勇者のライセンスを貰えるのはごく僅か。
期待の新人があっさり死んでいく、そんな世界なんだな。
ふっ……まるで他人事だな、自分で笑ってしまう。
役割は――まあ特別珍しい奴はないか。
「勇者であってもこうして死んでいく……やっぱりあの役割を担う人が必要なんですね」
顔を伏せ、フランは悲しそうに呟く。
「そうだな、歴代で名を残してきたパーティには必ずあれが居たらしいからな」
歴史においても、現在に目を向けても優秀なパーティはたくさんいる。しかし、魔王やそれに匹敵する者たちを倒してきたパーティには必ずある役割の者が居た。
「ドゥン・ケシー、もうすでに最後の方が亡くなってから八十年が経ちます」
「……もうそんなに経つのか。私たちの生きている間に現れるのだろうか?」
「現れたとしたら、それはそれで戦争ですね――世界規模の、全種族を巻き込んだ」
笑う――選択――。
選択を笑う者――パーティに置いて、最も重要で最も希少な存在。この世界で最も安全圏に居る存在。
「噂に過ぎませんが、相当おかしな性格をしている方ばかりだと聞いてます」
「ああ私も本で何度か読んだな。なんでも人を小馬鹿にしたような話し方だとか」
「嫌われ者、そう言う見方もできますが……そんな方たちが最も必要とされているのはなんともまあ、納得いかないものがありますよね」
「ある意味仕方ないさ、彼の者たちは視えてしまうんだ」
「選択、ですか」
「ああ、故にもどかしいのだろうな」
人生とは選択の連続。ありとあらゆる分岐点が道となって、一本の人生と言う道になる。
彼らは視えるらしい、その選択肢が。そしてどの選択を選べばどの道に行くのかを。なんの道が正しいのかを。
だから彼らは他者を嘲笑う。
――そんな選択を取るのか?
――その道の先は地獄だ。
――あーあ、もっと良い選択があったのに。
――ご・愁・傷・さ・ま。
視えるが故にもどかしく、視えるが故に馬鹿らしい。
そんな彼らをどの種族も欲している。
もし現れたら争奪戦は必至。
「もし現れたらどうしますか?」
フランは目をジッと逸らさず見つめてくる。
「ふっ――男なら色仕掛けでも何でもして、手にするさ」
私は美人で、男にとって魅力的な巨乳だからな。
どっかの爆乳の牛女とは違うのだよ。
「処女が何言ってるんですか?」
「お前も処女だろ!」
「……え?」
「――へ?」
すー……処女、じゃない?
なるほど。
クロキ視点――。
いやあ、いいおっさんに巡り合えたぜ。
いきなりこんな異世界? に飛ばされたが幸先は良さそうだ。
馬車で揺られながら、俺はこれからの事を考える。
おっさん曰くこの世界には人間に敵対する種族がたくさん居るらしく、更に魔獣や魔物なんかも居やがるらしい。そんな世界で俺が何が出来る? 何も出来ないよ?
正解見れたら魔物に勝てんのか? 無理だろ。あと、なんかおっさんの態度が急に余所余所しくなったんだが、俺なんかしたかな? 自己紹介をしてからなんだよな。もしかして道化師がまずかったか? まあ確かにいきなり道化師とか言われたら引くわな。
とりあえず俺のこの世界での基本方針を定めよう。
「元の世界に帰る方法を探す――これしかないか」
「なんか言ったか?」
「なんでもないですよ」
頭で考えているつもりだったが声に出てたか。これは反省だな。
俺は帰らなければならない。誓ったんだ、仮面のミステリアスギャンブラーになるって!
可愛いアイドルが、綺麗なモデルが、エロいAV女優が、憧れのアナウンサーが、世界の美女たちが俺を待っているんだ。何としても帰る、ついでに可愛い女の子と仲良くしつつ!
ここでピーン! と思いつく。
あれ? 俺ってこの世界では何してもいんじゃね。元の世界ではネタ作り話題作りの一環として貧乏ぼっち生活をしていたが、この世界では良くも悪くも関係無いよな。
何やっても元の生活に活かされないが、何しても問題も起きない。
「よし、童貞卒業も追加だな」
「――っっっ!?」
「ん、どうしましたバガラさん?」
「い、いんや……なんでもねえ」
なんだ? おっさんが目を見開いてこっちを見てくるんだが。あれか、また声が出てたか。そら後ろから童貞卒業とか言い出したらビビるわな。下手したら(もしかしてこいつ……俺の尻で!?)とか思われたかもしれん。オエ。
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