呪いの仮面の道化師は異世界で?

ミツギ
ミツギ

8 魔法少女

公開日時: 2021年2月12日(金) 12:46
文字数:3,203

 王都ファンは高い壁に囲われた城塞都市である。


 高さ数十メートルにも及ぶ壁に、世界一固い石材で造られた建物。都市の入口は大きな城門であり、前には跳ね橋が掛けられている。壁と深い川、その両方が機能し絶対的な防衛力を持っている。


 中央にある城までのメインストリートにはたくさんの出店や噴水広場、種類豊富の店や主要施設が建ち並ぶ。


 立ちくらみするほどの人混みの中、騎士団の連中に連れられ俺は城に向かっている。


 ざわざわと周囲は騒めき立ち、俺たちを遠目から凝視していた。二百パーセントくらいフランのせいだろうが。

 彼女は顔を真っ赤にしながら俯き、大きめの箱を抱え胸をそれに乗せる形となっている。彼女の鎧は何故か壊れ(すっとぼけ)たので何も着けていない。インナーすら着けていなかったため、大きい胸に頂までガッツリと露出してしまっている。


 汗が垂れ落ち、爆乳の谷間には水たまりが出来ていた。


「フラン、何をしている? 副騎士団長たるもの堂々と胸を張って歩け」


「くっ――レイーク、あとで覚えておいてくださいね」


 フンっと鼻を鳴らし促す騎士団長レイーク。フランは悔しそうにしながらも胸を張った。それまでは箱に押しつぶされていた胸が重力に逆らいプルンプルンと震えている。とんでもない質量である。


「く、クロキ殿は城に着き次第私と共に王に会ってくれ」


 いちいちどもるのは何故なの? そんなに俺が嫌いなんですかね。確かに道化師とか名乗ったのは俺自身失敗だったなと思うよ、仮面だって普通の奴が見たらキショいだろうしさ。しかしこの反応はどうかね、失礼極まりないだろう。


 そもそも俺が呼び出された理由が要領を得ないのだ。何かをしてほしいみたいだが、俺に一体何ができるのだろうか。この世界には魔法やスキルといったものが存在するみたいだ。とうぜん俺にはそんなものが無いが。魔法は生まれ持った魔力が無いと使えないらしいし、スキルは成長期の十五歳までに覚えないと無理らしい。完全に詰んでます。


 仮面の呪いに期待か。


「ん? あれは……」


「どうかしましたか?」


 一瞬何かが俺たちに殺気を向けた気がした。全身に立派な鎧を纏った男性が気に掛けてくれるが、俺自身まったく根拠がない。別に武道とかやってたわけでは無いし、そんな殺気とか分かる訳無いのに。それでも感じてしまったのだ。気のせいかもしれない、不安でいっぱいだからそう感じたのかもしれない。異世界に来て解らないことだらけだ、早く元の世界に帰りたい。







「――我々は貴殿を歓迎する。ぜひゆっくりとくつろいでくれたまえ、我が家同然に思ってくれて構わん」


 渋い声が謁見の間に響く。


 長いカーペットの先は段差となっており、数段の階段がある。その上には豪華な椅子が二つ並んでいる。その片方に座るのがこの国の王であり、人間族の実質的な頂点。


 縦に長い謁見の間には壁の端から端まで兵が並んでいた。全員が一瞬で間合いを詰め、いつでも俺を殺せる実力者だとか。


 足を組み赤いマントを羽織り、鋭い眼光と整えられたガイゼル髭。厚く着飾った格好でも分かる鍛え上げられた身体。この国の王は間違いなく守られるだけの人間では無いのだろう。


「――大変ありがたいのですが……どうして私にそこまで?」


「うむ、貴殿の選択を見抜く力は我々にとって有意義だと言うことだ。もちろん数多くの者たちが貴殿を攫おうと兵を進軍させて来るだろう、しかし我が国の戦力に貴殿の見抜く力が合わされば怖いもの無しだ」


 いつの間に俺の仮面の呪いの力が知れ渡っているのだろうか。思えば門番の青年も、騎士団の面子も知っている風だった。来る途中で襲って来たカラス野郎もそうだと思う。


 俺はどう答えるのが正解なのだろうか。そもそもこいつらに従う理由も無いのだが。しかしバガラ達には世話になった、彼らの属する国に力を貸すのは礼儀として当然なのではなかろうか。バチッ。


「力が貸してほしいなら喜んで貸しましょう――しかし私は協力するだけです、その意味はお分かりで?」


 この国のために命を懸けろとか、永住しろとかは聞けない相談だ。


「――噂通りだな、逆に安心したぞ。貴殿の世話係として騎士団長レイークを付ける、更に選りすぐりのメイドたちにも世話をさせよう、あくまでギブアンドテイクな関係で行こうじゃないか」


 王様は意外と話の分かるお方らしい。こういった人って偉そうで人の話を聞かないイメージがあっただけに驚きだ。


 さりげなく後ろを見たら、レイークが悔しそうな顔をしていた。なぜ私が、くっ――みたいな。くっ殺かな?





 国王視点――。


「僕が君たちに属することは無い、この意味解るよね♡」


 仮面で計り知れないが、その表情は悦楽に染まっているだろう。何をしても楽しいのだ、ドゥン・ケシーという存在は。


 彼の者が本物だとは半信半疑と言ったところであった。しかし部下たちからの報告、道中であの黒刃翼のバークが襲って来た。しかもそれを人的損害なく退けたと言う。これらの点から疑うのはもう無理な相談である。宰相などいくつかの有力な貴族が否定するが。


 多種族、他国との争奪戦は必至。しかし、この男にとって我々が面白い対象であり続ける限りは協力するだろう。そうなれば敵など魔族くらいのものである。


「――父上」


「ルイか、どうした?」


 クロキが去ったあと、息子のルイが話しかけてくる。正当な継承権を持つ次代の王。腐ることも驕ることも無く立派に成長してくれている。娘の方もこうなら良かったのだが。


「メイドの中にあの者を混ぜましょう。ドゥン・ケシーを懐柔できるやもしれません」


「――リリーか、しかし場合によってはクロキに敵意を持たれる危険もあるぞ?」


「そうなれば仕方ありません。どのみちいつまでもここにいてくれる保証など無いのですから、それなら賭けに出る方がよろしいかと思います」


 リリー・マングリス――魔法使いであり、稀代の寵愛の使者リュリー・コーンである。敵であっても懐柔する、自身を圧倒的庇護下に置く者。洗脳に近いスキルを有する、パーティのアイドル枠。







 クロキ視点――。


 城の一室に案内された。最上階の部屋で、広さなどバガラ宅が数個ほど入るスペースがある。家具なども王族と同じものが置かれているとここまで連れてきてくれたメイドが説明してくれた。


 彼女の名はシャク、白黒のクラシックメイド服を着こなす美女である。黒髪を結い、薄化粧で美しい。肌の露出こそ少ないが、清楚な姿と服の上から分かる巨乳がギャップを産み、とてもイヤラシイ。彼女が主に俺のお世話を担当してくれるそうだ。


「俺はこれからどう過ごせばいいの?」


 備え付けられた椅子に座り、彼女の淹れてくれたコーヒー? を飲みながら訊ねる。


「ある程度は自由に過ごして構わないと仰せつかっています。 なにか聞きたいことが有ればレイーク様が来られるそうです」


「そう、街に行ったりも? そういや俺金ねーわ」


「お金に関しましては私がお預かりしています。生活費から何からすべて国の負担としますので遠慮などなさらずにお願いします」


 ここまでしてもらう価値が俺にあるのか甚だ疑問だが……ちょっと怖くなってきたな。もしもの時は逃げよう。


 コーヒーモドキを啜りながら彼女と雑談を交わす。お堅い見た目に反して意外と話せる彼女との会話は楽しかった。相槌を打つのが上手で、話題も豊富。伊達にメイドはやっていないってことか。


 彼女の話を聞いていると、部屋のドアが開いた。


「――誰ですか? ノックくらいしなさい」


 その声は非情に冷えた声だ。さっきまで俺と楽しそうに話していた彼女とはえらい違いだな。


 中に入ってきたのは少女だった。


 背は百四十くらいかな。あどけない整った顔にクリクリの瞳。金髪をツインテールにし、メイド服を着ている。


「わたしはリリーって言います! よろしくねっ」


 明るくはきはきと話すリリーちゃん。


 どうやら彼女も世話係の一人らしい。


「ごめんね俺ロリコンじゃないし、興味ないわ」


 チェンジで。

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