昼間は商店街のアーケードがかかっているところの端から端まで躍りながら歩くそうだ。
スタート地点までみんなで一緒に行くと、一緒に踊るチームの子たちはすでに集まっていた。
「ようち園でれんしゅうしたの」
「そうなんだ!かっこよく踊るところ、見てるね」
楽しそうに千尋に言ってくる大樹に声をかける。
チームの方へ走っていく大樹を見送り、さくらと共に邪魔にならないところへ立つ。
さくらはこのまま列の横に着いて商店街を歩くそうで、千尋もそれに同行する予定だ。
「どこかで秀樹も抜け出して見に来ると言っていたから」
「そうなんだ!早めに抜け出せるといいね」
さくらと色々話をしながら待っていると、大樹たちのチームが出発する。
踊る速度にあわせて、ゆっくりと千尋たちも歩き出した。
ビデオカメラを回しながら息子の姿を納めているさくらを邪魔しないように、少しだけ後ろを着いて歩く。
想像以上に大々的なお祭りだった。
いくつものチームが同じ音楽でそれぞれ考えた躍りを踊る。
(よさこいソーランみたいだなぁ)
音楽は違うが、同じテーマでいろんなチームが踊るのを見比べるのは大学の時の学園祭で見たよさこいソーランに似かよっていた。
「この音楽、元々地元の盆踊りの音楽やけん、この辺の子は小さい頃から踊っとんよ」
大樹たちの前のチームが同じ音楽を使っていることに疑問に思った千尋が聞くと、さくらはこう答えた。
商店街の端までは中々の距離がある。
ゆっくりとしたスピードで歩いているから、いつもより長く感じる。
(あ、ダメだ)
早めに水を飲んでおけば、少しでも胃に食べ物をいれておけばと思ったが後の祭りだった。
立ちくらみだ、と自覚したころには体が傾いていた。
倒れる、と思ったが、横から手が伸びて来て千尋の体を支える。
「大丈夫か?」
武史だった。
少し先に目を向けると秀樹がさくらとしゃべっていた。
歩けるか、と耳元でささやいた武史に頷くと、邪魔にならないところまで千尋を誘導する。
「ビックリするやろ、急に倒れると。後ろから見とるとフラフラやったで」
「ごめんなさい」
ええよ、と呟くと武史は休憩所へ千尋を連れていく。
「今、出払っとるから誰もおらんのや」
休憩所のパイプ椅子に座らせ、千尋の前に麦茶と塩分チャージを置く。
「飲めるか?」
黙って頷きながら、出されたものをゆっくりといただく。
「飲み物もって来とらんのか?」
「寝坊していて、慌てて家出たから忘れてしまって」
呆れたように武史はため息をつく。
「ちゃんと気つけんと。朝飯は?」
首を振る千尋に、再度ため息をついて裏からコンビニのおにぎりを持ってくる。
「食べとき。さっき秀樹に連絡したから、大樹が躍り終わったらさくらと一緒にここに来るわ。
それまで休んどったらええわ」
「タケちゃんは見回り大丈夫なの?」
パイプ椅子を取りだし、千尋の向かいに座った武史は大丈夫や、と頷く。
「今、休憩中やから気にせんでええ。本当は送って行きたいけど家まで連れて帰れんけんな。
歩けるくらい復活してもらわんと」
胃に物が入ると、少し気分がよくなった。そんな千尋の様子を見て、武史も安心して笑う。
「歩けそうか?」
「うん、ありがとう。もう大丈夫そう」
そうか、と頷いた武史は千尋の目を正面から見返す。その目を見返すことが出来なかった。
「千尋、明日一緒に花火見ようや」
「タケちゃん、巡回あるでしょ?」
「あるけど、花火の間は自由なんや」
「じゃあ、さくらちゃんと一緒に場所取りしておくから秀樹くんと一緒に来てよ」
武史は苦笑いしながら、首を振る。
「そうやない。千尋と二人で見たいんや」
言葉以上に武史の真剣な目に声が出せないまま、ただ見返す。
そんな千尋に武史は言葉を重ねる。
「花火は千尋と二人で見たいんや。言いたいこともあるしな」
「え?言いたいこと?」
「今は秘密や」
ニヤリと笑った武史は、千尋に返事を促す。
「ええよな?」
千尋が答えようと口を開いた瞬間、休憩所のドアが開いた。
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