身体中が熱い。
もう、秋のはずなのにこんなに体が火照るのは何でかな……。
──私がそこへ意識を傾けると大量のパネルが目に飛び込み、黒革の一本の操縦かんらしき物を両手で握っていた。
それを手元に下げると機体が上昇して、手前に上げると下降するみたい。
小さい頃にテレビで見た覚えがある。
ここはどうやら飛行機のコクピットのようだね。
──心を落ち着かせて、じっくりとよく見渡すと、青いすりガラスに包まれた狭い部屋で座席は一人乗りとなっていて、突然、私の目の前に巨大な岩の固まりが上がってきた。
「なっ、何なのですか!?」
私は悲鳴をあげながら、とっさの判断で操縦かんの先端にあるボタンを押す。
『ドカドガーン!』
すると、両対の翼から赤い光線らしきものが出て、目の前の岩石を粉々にする。
ふう、間一髪だった。
この飛行機が戦闘機で良かったよ。
「しかし、何でこんなに蒸し暑いのかな。この機体にはエアコン付いてないの?」
それから恐る恐るモニターから外を眺めると、溶岩のような海が下に流れていて、時々、さっきのような岩石を吐き出している。
──それで、この空間は暑いわけだ。
その風景からして、ここは母なる星ではないことは一目で分かる。
『やあ、英子ちゃん。おひさしぶりじゃの。サウナ風呂の加減はいかがかの?』
天井にある丸い小型スピーカーからしわがれた声が絡んでくる。
「あっ、この喋り口はとあるお方さんですか? 最高に暑さマックスです……」
『いかにもワシがとあるお方じゃが、どうじゃ、ワシがプログラムで生み出した飛行機ドンパチゲームの、このサン○ーフォースの溶岩ステージの空間は?』
「ドンパチどころかさっきからずっと地獄ですよ!」
目の前に次々と飛び出してくる岩石や炎の不死鳥を光線で倒してもきりがないよ。
何でいちいち、こんな夢の世界を体験しないといけないのよ?
今回で確か、三回目だよね。
いくら無料でも、このようなゲーム体験はこりごりだ。
『いや、機体が壊されても身代わり機能ですぐさま復活するから大丈夫じゃよ』
「はあ、良かった。
──ですよね。こんな難しいゲームにはハンデがないといけませんよね……」
『まあ、回数制限を切らすと夢から覚めずに本当に死ぬがの』
「……今、さらりと酷いこと言いましたよね!?」
『ひっく……。さらりとした~○酒じゃからの♪』
「呑気にお酒の宣伝しながら、飲んでいる場合ですか!」
『大丈夫、やられなきゃいいからの……それにお主はもう』
「もう……? 何ですか?」
『……いや、単なるジジイの戯言じゃ。そのうち分かる時がやって来る』
「……随分、偏屈な性格のおじさんですね」
『まあ、難易度は簡単にしておるし、英子ちゃんなら平気じゃろう。それじゃあ無事に攻略するのを待ってるぞい』
ブチッというノイズとともにあのお方の声が途絶える。
「……毎回、言いたい放題言って消えて、何が平気なのでしょうか?」
私は機体を器用に動かしながら敵を粉砕する。
やがて、ディスプレイが炎の風景から、丸々と太った子豚ちゃんの顔にかかった眼鏡のアップが映る。
「きゃっ、蛭矢君? 何のドッキリですか!?」
「あっ、ごめん。カメラのアングルが近すぎた……おい、大瀬。それでも現役Yo○Tuber か?」
「そんなこと言ってもよ、自撮り棒じゃないから感覚が掴めないんだぜ……」
「そうかな。でも美伊南は地鶏好きだな♪」
「「紛らわしいからお前は黙ってろ!」」
二人の男子の美伊南ちゃんへのツッコミが綺麗にシンクロする。
「──そうそう、英子ちゃん。これからこの機体の速度を上げるから」
「要するにこのゲームオリジナルな高速ステージになるわけだな」
「へえ、大瀬。詳しいな」
「あのなあ、これゲーセンでも稼働しているゲームなんだぜ?」
「ああ、言われてみれば確かにそうだな」
──えっ? これからどうなるのかな?
機体が速くなるって何だろう?
座席のシートベルトは──よし、きっちりと締まっているね。
「──じゃあ、無事に生き残ってね」
「じゃあな、健闘を祈る」
「美伊南、ケン○ッキーも好きだよ」
「「違うわい! この食いしんぼう娘がっ!」」
騒がしいモニターから3人の姿が消えるとともに、機体が微かに微動していく。
座席がグンと重くなり、素早く移り変わる景色に飲み込まれそうになる。
私は慎重に機体を動かしながら、溶岩の渦へと突っ込んでいった……。
****
──それから数十秒後。
「つ、つらかった……」
息をつく暇もなく、後退りが出来ないコンベアの上を高速スクロールで進んで行く感覚。
そこに出てくる多彩な敵キャラ。
こんなにも大変なゲームとは思えなかった。
こんなのゲーセンでやってるの。
無理ゲーだよね?
まあ、偶然にも、広範囲の音波を発動する武器の種類に切り替えて、その場を上手くやり過ごせた。
まさに都合のよい武器には救われたよ……。
──そこへ再び、コクピットから蛭矢君のかけた眼鏡の画像がジワジワと滲み出す。
勿体ぶらないで普通に登場すればいいのに。
何の演出だろうか?
「では、続いてボス戦どえす。この蛭矢を倒せるかな?」
「はっ、何のつもりですか?」
しばらくして灼熱地獄から洞窟内へと視界が替わり、奥からノシノシと壁伝いに手足を動かしながら忍び寄る巨大な人影。
やがて、上半身裸で海パンを着けた変態蛭矢君が左右に腰を回しながら、向こう側から画面いっぱいに迫ってくる。
「君をスキスキにしてあげる~♪」
「ぎゃーっ、もはや変質者じゃないですか!?」
「なっ、失礼な。僕は変なオジサンだぜ♪」
「言い方を変えても結局は変人ですよね!?」
「あっ、それ。あっ、もういっちょ♪」
私の問いかけにも問答無用で接近してくる。
「ぎゃーっ、来ないで!」
しかし、それも束の間だった。
私が無我夢中で放った巨大なレーザー光線が蛭矢君の裏肘と向こう脛に直撃したからだ。
「あがあがー!?」
その場でズシンと身体を落としてしゃがみこむ蛭矢君。
ああ、誤って弁慶の泣きに当たっちゃった。
ひょっとして泣いてるのかな?
「ううっ。覚えてろ。つ、次は化けて出てやるからな……」
そんな負け犬の遠吠えなボスを戦闘不能にさせながら、そのまま私はステージをクリアするのだった。
第19話、おしまい。
お馴染みのとあるお方シリーズ、今回は様々なSTGからのネタですね。
エー○コンバットの飛行機の操縦から始まり、サン○ーフォースの溶岩ステージに移り変わり、このステージを表現した、下から飛び出す大岩に火の鳥、さらに高速移動など、これでもかと言うくらいSTG要素を詰めこんでいます。
終盤の半裸の巨人になった蛭矢が壁ごと迫ってくるのはパロ○ィウスからですね。
ふざけている演出で色々と面白い作品でしたが、ゲーム難易度は恐ろしいほど手強かったです。
──こう振り返ってみると昔は色んなSTGがあって楽しかったですよね。
それが今ではSTGといえば飛び道具の武器を持ってのガンシューティングが主流。
私が好きな2Dの時代は終わりなのでしょうか。
唯一頑張っているのは、○ーTYPEシリーズくらいですかね。
でもあれのファイナル2はファンから資金を集めて製作していましたし……。
今や、普通に開発しても売れないジャンルみたいですからね……時代の流れを感じます。
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