「アニキ……悪いが、もう、あんたの腕じゃ足手纏いだ。仲間が必要なら、他の奴らと組んでくれ」
何年も苦楽を共にした筈の戦士は、俺にそう宣告した。
「お……おい……何を言ってるんだ?」
「多分……アニキに言葉だけで説明しても……判ってもらえねぇだろう」
そう言って、戦士のティムールは愛用の刀を抜いた。
「何の……」
「冗談なんかじゃない。手合わせをしてくれ」
仕方ない。
だが……いつから、こいつは、ここまで思い上るようになったんだ?
剣術を教えてやった俺に勝てるようになったなどと……。
刃を交えた瞬間、俺は体のバランスを崩した……。
そして足払い。
倒れた俺に、ティムールは刀の先を突き付ける。
「これが……今のあたしの実力だ。そして……アニキは……ここ何年も……いや……もっと長い間、何1つ成長してない」
「馬鹿な……調子が悪かった……だけ……」
だが……何かがおかしい……。
ティムールの声は……こんな……女みたいな声だったか?
「アニキの事は、組合のヤツに頼んでる。あたしらは次の仕事からアニキ抜きでやる」
「ふざけるな……。俺は……『翠の都』の王の命を受けて……あの『不死の果実』を手に入れた……」
「『翠の都』はもう無い。あたしが生まれる前に戦争で滅んだ」
「ま……待て……お前……」
「今はいつで、あたしがいくつだ、って聞きたいのか? 逆に聞くが……アニキは、今、何歳だ?」
「待ってくれ……訳が判らん……。何が言いたいんだティムール?」
「ティマだ……」
「えっ?」
「ティムールは……あたしの曾祖父さんの名前だ。あたしは……あんたが良く知ってるティムールの曾孫のティマだ」
「あんたは……百年ほど前に……今は無き『翠の都』の当時の王の依頼で伝説の『不死の果実』を手に入れる為の冒険に向かった」
組合の支部長が言っている事は……本当なのだろうか? そもそも……どうやって確かめればいい?
「だが……『不死の果実』は……言わば『呪われた品』だった。『不死の果実』を入手したあんたは……自分で喰っちまたんだ」
「なら……何で……俺には……その百年の間の記憶が無い?」
「『不死の果実』を喰っちまったせいで……あんたの時間は止まっちまったんだよ。『不死の果実』を喰う寸前までの記憶は鮮明だろうが……それ以降に経験した事は……ほんの数年で忘れてしまう。喰った者の体と心の時間を止める……それが、『不死の果実』により得られる『不老不死』の正体だったのさ」
「待ってくれ……じゃあ……」
「そうだ……。あんたは、ここ百年ほど……冒険者を続けてるが……腕前は『不死の果実』を喰った時のままだ……。下がりもしない代りに、上がりもしない。永遠に……自分より後に生まれた誰かに追い抜かれる宿命なんだよ」
「お……おい……それが本当なら……俺は……どうすれば……?」
「永遠に『そこそこの腕の冒険者』をやってくしか無いな……。ああ……そう言や、5度目だな……」
「何がだ?」
「あんたに、この事を教えてやるのは、これで5度目って事だ……。俺も齢なんで、次に、あんたにこの事を教える事になるのは……俺の後任だろうがね」
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