──精霊は戦い、争う。彼らはそれを戦争(デート)と呼んだ。
その日、五河士道は夢を見た。どんな夢だったのか、はっきりとは覚えていない。ただ…黒い光と白い光がぶつかり合っていた事だけ覚えていた。
「──それで士道、その夢が気になるってどういうことかしら?」
「ええっと、何か確信がある訳じゃないんだ。でも、あんな夢は初めてだったから…。なあ琴里、何か変わったことは無いか?」
「変わったこと………特に無いわね」
琴里は数秒考えた後、そう答えた。
「そうか………っ!?」
士道は気づけなかった、普段その場にいないはずの存在に…さっきまではそこに居るのが当たり前だと思っていた。しかし、琴里との会話で気がついたのだった。
「…ま、鞠亜?」
「はい、鞠亜です。おはようございます、士道」
(鞠亜は、かつてフラクシナスが開発したゲーム内に出てきた人工知能、つまりAIだ。しかし、彼女は……)
「士道、どうかしましたか?悩みがあるなら話した方がいいですよ?あ、もしかして琴里が居ると話せないような、エッチな内容ですか?それなら後程伺いますが…」
士道が考え事をしていると、心配そうな顔で鞠亜が顔を覗き込む。
「ん?今、鞠亜なんて言った?」
「ま、鞠亜っ!!朝から変なこと言わないでくれない!?」
「私、変なことを言ったつもりは無いのですが…琴里は何が変だと思ったのですか?教えてください」
「そ、それは……」
琴里の顔がどんどん真っ赤に染まっていく。さすがにこれ以上は、琴里が可哀想なので鞠亜を止めることにした。
「まあまあ鞠亜、話はそのくらいにして、朝ご飯を食べないか?」
「おや、私としたことが…朝食の時間が無くなるところでした」
士道達は鞠亜の作った朝食を食べ終えると、学校の身支度を整えて家を出た。
「……やっぱり鞠亜も学校に行くんだな」
「士道、本当にどうしたんですか?今朝も私に驚いていたようですが…」
士道は、鞠亜なら何か分かるかもしれないと思い、昨日見た夢の話と今朝の出来事を包み隠さず話した。
「なるほど…先程の話を聞いて、今朝からのおかしな様子に納得がいきました」
「ごめんな、こんな話…」
「いえ、私も薄々気づいていましたから、士道が気にすることではありません」
「そうだったのか………」
鞠亜の話によると、何かしらの影響で鞠亜は現実世界に存在しているそうで、もしかしたら鞠奈もいるかもしれないと、鞠亜は寂しそうな顔でそう言っていた。
鞠奈もまた、鞠亜と同じでゲーム内に登場した人工知能だった。鞠亜との違い…それは、DEMがフラクシナス壊滅の為に作り出した人工知能だということ。彼女はDEMの為にフラクシナス壊滅させることとは別に、自分を生み出したアイザック・ウェストコットに触れられないことに苦しんでいた。
(もしかしたら、昨日の夢に出てきた黒い光と白い光は、鞠奈と鞠亜だったのかもしれない。もし、そうなのだとしたら俺は………)
「……士道?」
「ああ、ごめん。鞠奈のことを考えてた。あいつは今どこにいるんだ…」
士道がそう呟くと、鞠亜がクスッと笑った。
「安心してください士道、鞠奈なら学校にいますよ」
「え…?はああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」
──士道は絶叫した。
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