ナイトメア・アーサー

Honest and bravely knight,Unleash from the night
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第五百六十一話 日程初日・その二

公開日時: 2021年4月4日(日) 08:42
更新日時: 2021年4月4日(日) 08:48
文字数:4,028

 有名な商業都市ならば、魔術協会の支部や本部も多数設置されている。特に現在ブルックの街では、魔術協会に属する魔術師達はせわしなく働くことを余儀なくされている状況だ。




「……では皆様。くれぐれも魔術師の皆様の邪魔にならないようにしてください」

「承知しました」

「わかりました」



 ヴィクトール、サラ、その他魔術に興味のある数名の学生。


 彼等は現在この街に展開されている結界、それの構築を担っている魔術協会を訪れ、見学を行わせてもらっていた。





「非常に膨大な魔力ですね」

「これが増幅魔術……」



 壁の色がわからないぐらいの眩さで、部屋の中央に展開されている魔法陣が発動している。それを囲うようにして魔力を送っている魔術師達は、集中のあまりこちらの声や音が聞こえていないようにも思える。



「これ、魔力送るのって何時間で交代してるんすか?」

「四時間ですね。何せ規模が大きい物で、熟練の魔術師であっても直ぐに魔力が枯渇してしまうんです」



 ガイドとして事務員の女性が付き添い、生徒の質問に答える。



「ぱっと見八人、四時間魔力送りっ放し、それでようやく街全体を守れるのか……」

「魔力結晶で継ぎ足してはいるんですけどね。ですが……未だに状況が改善されないのはかなり大きいです」

「……」



 ここに来ている頭の良い生徒達は、ブルック近辺及びログレス西部の異常な気温上昇については、事前に調べてきて把握している。


 一歩この街から外に出てしまえば、摂氏四十五というイングレンスの世界では考えられない暑さに当てられ、不調を来してしまうのは想像に難くない。



「お姉さん、ここに来るまでに街の人が噂してたんすけど、最近になって急激に上昇してきたんですって?」

「ああ……そうですね。街の人にも知れ渡っているかもしれませんね……」



 不安にさせないように情報は広めないようにしているのですが、と付け加える。



「生徒の皆様は、この異常気温現象について何処までご存知ですか?」

「ん~……俺は何かめっちゃ暑くなってるってことしか」

「私もそんな感じぃ。ヴィクトールはどう?」

「ラグナル山脈が発生の原因とされている、ということまで知っております」



 ええそうのか、と呟く生徒がちらほら。


 それを受けて女性は、それなら話が早いと前置いて、



「特に山脈に近い地域はもう限界が来ていて……陽炎が覆い尽くすような熱波に晒されているんだそうです」

「想像したくねえ……」

「蒸発しちゃうじゃない……」

「あ、もしかして避難区域ってそういう?」

「街もある程度ご見学されていたのですね。そうです、暑さのあまり住めなくなった地域の人々を、この街ではできる範囲で受け入れているのです」



 現在は小規模な村が三つ、住民ごと避難してきているのだそう。



「凄い街っすね……流石リネスに匹敵する程はある」

「でも今回被った損害がかなり大きいので、そのうち規模も小さくならざるを得ないかもしれませんね」



 女性は皮肉を言った後、はっと目を見開き駆け出す。





「危ないっ!」

「何だ何だ!?」

「……あの人ね! |幻想曲と共に有り、《ニブリス》|高潔たる光の神よ《・シュセ》!」





 サラが急いで唱えた呪文は、


 まるで糸の切れた操り人形のように背中から倒れた魔術師を、光の糸で包み込む。


 女性はそれをしっかりと受け止め、魔術師は事無きを得た。





「はぁっ! ……ありがとうございます!」

「どうってことはないです。それで……」



 生徒に加え、魔法陣の外で待機していた支援の職員が、他にも慌てて駆け付ける。


 その中で魔術師は薄目を開き、自分は倒れてしまったという事実を苦々しく受け止める。



「……若いのが魔力切れ起こしつつあるから、俺が頑張らないとって思ったんだけどなあ」

「だからと言って無理しすぎですよ……! 連続して四日も魔力供給を行っているじゃないですか! だから私は止めたんです!」

「はは……は……お前の、言う通りだな……」



 魔力水を飲ませたり、魔力を固めた飴を舐めさせて一先ずは落ち着く。


 そして支援の職員に担架に乗せられて部屋を出ていく魔術師。代わりに別の魔術師が入ってくるまでそう時間は掛からなかった。



「……」

「……今見ていただいた通りです。これが街の現状……です」



 苦々しく言う女性。





 それを黙って見ている程、グレイスウィルの学生の正義感はへこたれていない。




「ヴィクトール、俺達生徒がここに入って魔力供給……は無理だよな、流石に」

「ああ。俺達の魔力量はこの魔法陣に耐え得る程増大していない。加えてここで魔力を使い果たして訓練に支障が出たら元も子もないだろう」

「じゃあ使い果たさない程度に手伝えばいいんでしょ? 魔力結晶とか作るのはどう?」

「俺も同様のことを考えていた。ダレス……貴様は顔が広かったな。暇そうにしている学生を呼んでこい」

「合点!」

「魔法陣を展開する土地は宿の中庭でも十分――」

「そういうことでしたら、本協会の中庭をお使いください」



 冷静にしながらも、感謝の意を込めて提案する女性。



「……ありがとうございます。魔法陣を描くのは貴様の得意分野だったな、アレクシア?」

「うん、任せて! 渾身の魔法陣描いたる!」

「よし――では早速移動しようか、サラ」

「あー、ワタシそっちには加わらないわ」



 きょとんとするヴィクトールの隣で、サリアに指示を出すサラ。



「魔力結晶って点もいいと思うのだけど、ワタシは魔術師を支援する方向でいきたい――薬草を調合したりポーションを作るわ。魔力補給や体力回復に即効性のあるやつ」

「あ、だったらあたしもそっち行きたい! 薬草学取ってるし!」

「俺も俺も!」

「……ならそっちはそっちで動いてくれ。俺は魔力結晶の方を指示する」

「元よりそのつもりよ。それじゃ、訓練に向けたウォーミングアップと思って、気張りましょ!」

 


 颯爽と出ていく薬草組。


 

 ヴィクトールは最後、女性と共に魔法陣部屋を後にする。



「申し訳ありません、生徒の皆さんにこのような……」

「このような現状を見せられて、何もするなと言われる方が酷です。先生方も喜んで協力してくださると思いますよ」

「はい……では頑張りましょうか!」

「ええ!」


















 こうして自分達で判断し動き出した生徒達。



 その動きはたちどころに宿まで伝わってくる。



「……ふむ! 中々いいことをしているじゃないか!」

「ヘルマン先生どうしたんですかぁー!?」



 久々にゆったりと、担任であるヘルマンに絡んでいたリーシャ及び数名の女子生徒。彼は魔法学ではなく魔物学の教師なのだが、魔物学はその性質上外部授業を頻繁に行っているので、その指導ということで引率に来ていた。


 現在は生徒達の見回りも一段落して談笑中。その途中で突然離席して、満足そうに戻ってきて今に至る。



「生徒会の面々を中心に、アリシア魔術協会を支援しようと動きだしているようだ!」

「アリシア魔術協会って何すか!」

「現在この街を覆っている結界、それの展開を担っている凄い魔術協会だ!」

「嘘! やば!」

「逆に生徒が支援させてもらっちゃっていいの!?」

「まあ皆には知らせなくてもいいだろうってことで黙ってはいたんだが、正直厳しいようでな――どうだ!!! 先生と来ないか!!! 今から生徒会と合流するんだけど!!!」



 行きますぅー!!! と満場一致で声が上がる。



「よーし行くぞー!!! 四年四組出撃だぁー!!!」

「「「おおーーー!!!」」









 こうしてアリシア魔術協会の入り口に到着。


 既に片隅では生徒が魔法陣をせっせこ描いている途中であった。



「ヘーイヴィクトールゥ!」

「ほう、リーシャか。一緒に来たのは友人か?」

「そだよ! あとヘルマン先生も来た!」

「それはわかる」



 ヘルマンは魔法陣に近付き、細かい調整をアドバイスしている所だ。



「私ら何すりゃいいん!?」

「魔法陣に魔力を送れ」

「了解した!」

「待て、魔法陣はまだ構築途中だ。暫し瞑想でもしていろ」

「うおおおおおお!」

「それは迷走だ」



 すると入り口の方から別の生徒の声が。





「ぎいいいいいい!!! 放しなさいっ、放しなさいっっっ!!!」

「断るぜー!!!」

「偉いわよクラリア~帰ったら焼肉奢るわ~」

「うおおおおおお!!!」

「そこを左に曲がってくれい。アリシア魔術協会って立看板あるだろ」

「うおおおおおおお!!!」




 先程指示を出したダレス――とサラ、そしてクラリア。



 三人は魔法で生成したであろう光り輝く縄を手に、貴族令嬢の生徒をずるずる連行してきた。



「ああっ!!! リーシャ!!!」

「……カトリーヌ」

「知り合いか?」

「同じ課外活動……」

「そうだったか。しかし今は関係のないことだ」

「そうなんすけど……」



「ヴィクトール! こいつら暇していたから連れてきたんだ!」

「大儀であった。怠け者の働き蟻は、今こそ本気を出す時なのだからな」

「何をさせようって言うのよ!?」

「貴様等の魔力を供給してもらうだけだ」

「よーし、魔法陣できたよー!」



 アレクシアが手を振る。ヘルマンも魔法陣の近くから、満足そうに呼び掛けてきた。



「そうだな……縄で縛ったままで構わないぞ」

「やれ、クラリア」

「かしこまったぜー! うおおおおお!」



 持ち前の怪力で十数人の生徒を引っ張り、魔法陣の中央に乗せる。忘れがちだが彼女もまた貴族の令嬢である。





「は、放して、放して!!!」

「いやああああ!!! 殺される!!!」

「ちょっと!!! 今わたくしの足蹴ったの誰!?!?」




 魔法陣の中央に横たわった人間が適当に置かれる――




「何か見たことあるなこのシチュ」

「確か錬金術の教科書、人体実験の絵で見たことがあるな」

「これで魔法陣を発動させると、エリクサーがばばーっと」

          ひいっ!?

「うっす、もうさっさとやっちまおう」


 

 魔法陣の近くに生徒が集まり、ビカーっと発動する。先ずは十数人から魔力を徴収。



「そういやサラとクラリアは何してるの?」

「魔術師を癒す薬草やらポーションやら作ろうと思って、現在材料調達中」

「アタシはサラの手伝いだぜ! 力仕事は任せろだぜー!」

「そっか、そっちも頑張ってね!」

「頑張るぜー!」

「フフ、健闘を祈り合いましょう」

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