「むはーっ!! いいぞいいぞ!! 混沌混沌混沌!!! これぞ我等が望む景色!!!」
「黒き翼の神も、さぞお喜びになられていることだろう!! そしてこれを指示した私ってちょー天才っ!!!」
「さあ、カムラン魔術協会を貶めた者共に、黒き裁きを下すがいい――!!!」
「ってあれ、モードレッド!? 貴様何処に消えた、何処にいるんだ――!?」
初めまして、わたしを見つめる知らない誰か。
自己紹介をいたしましょう。わたしの名前はない。
元々なかったのか、なかったことにされたのか、その辺何にもわからない。
わたしは頭が悪いから。教育なんて受けていないから。なあんにも何もわからない。
「……逃げろ!!! 逃げてくれ!!! ティンタジェルの中に、早く――!!!」
「ブルーノ、お前も足を動かすんだよぉ!!! でないと飲み込まれる!!!」
名前のある町ティンタジェル。
昔々に聖杯を守っていたから名前がある。大いなる意味があるから名前がある。
意味がないと名前はない。
「ぶ、ブルーノさん!!! 外は、外では、一体何が……!!!」
「奈落の者……ありゃあ酷いぜ、奈落の壁とでも言おうか、カムランはとんでもない物呼び出しやがった……」
>{‘=‘OPU)PP*NIMIUOIBU#KJYCUGU(YURCI&GUYXOU)VC#PBN*'M<VO
「学者達にも伝えろ!!! 王城に避難だ!!! そこが一番防衛魔術が強い――現状最も安全だ!!!」
「了解です!!!」
だからこの町には、大勢の人達が調査に来ている。名前を冠するに至った意味を探して。
名前を冠していないものは、未来の学者達にも忘れられる。精一杯時代を生きたことなんて、誰も調べてくれない。
「おっちゃーん!! ブルーノのおっちゃーん!! 無事かー!!」
「お前はクラリア!! あとルシュドにヴィクトールに……」
「イザークもいますぜ!! なあ今の聞こえてたけど、城に行けばいいんだな!?」
「そうだ、籠城するぞ!! そこで対策を練るのが今はやるべきことだ!!」
「ねえクラリア!! その背負ってるの、×××××だよねぇ!? 重くないかいっ!?」
「アタシは丈夫だから平気だ!! ×××××はアタシが連れていく!!」
誰を背負っているのか、その人物の名前は聞こえなかった。
頭に雑音が走って聞こえなかった。何かが聞こえないようにしていた。
「ひいいいいいい!!! 嫌だ、嫌だ、嫌だ……!!! あっ!!!」
「……っ!」
「……ヴィクトール!? そいつを連れていくのか!?」
「先程俺達に妨害してきた、ケルヴィンの生徒だということは重々承知している――だがそのようなことは言ってられるか!?」
「助ける人物の選択をしている暇あったら、足動かせってんだよな……!!! よし!!! 行くぞ!!!」
誰かが助ける人物を選ぼうとしている。でもわたしは知っている。
この街が滅んだときは、助けない人物を選ぶ余地すら存在しなかった。
目も開けられず、口も開けずなのに、どこを走っているのかわかった。
今は大通りを走り過ぎた。いつも通った雑貨屋や八百屋がある。
ここを曲がれば路地裏がある。空き地にはよく遊びに行っていた。
住宅街の方角から人が流れてくる。みんな揃って城に入った。
雑貨屋や八百屋を営む人がいた。空き地で遊ぶ子供達がいた。
住宅街に住む人はたくさんいて、大通りをたくさんの人が通って、
聖杯の加護なんてものとは無縁な、名前の付けられない生活を送っていた。
そんな人達も滅び去った。名前は奈落に飲み込まれて消え去って、
ただ生活をしていた跡だけが残った。
「ここを……こうだ! 暫く入ってはこれないはず……!!」
=<”()!$”!‘$M"!P*'<!M%)
「ああ、だけど幾ら持つか……俺も魔力供給をしよう。エリス達、玉座の間に逃げてくれ。そこが一番安全だ……」
「……はい!」
エリス。
その名前にわたしの心は大きく揺らいだ。
守らないといけない子。力になると誓った子。
どうしてそう記憶しているのだろう。名前のないわたしは一体何者なのだろう。
「つ、着いたぜ~……はあはあ……」
「クラリア、ずっとおぶってきてお疲れ様……さて」
「生徒はともかく観光客もいっぱいいるな~……」
わたしの身体が地面に寝かせられた。
そして誰かが、わたしの腕を掴みながら横になった。
「エリス……そうだな、お前も少し休め」
「……頭が痛い。ここに来てから、急に……」
「……横になれ。オレの……マントを布団代わりにしよう」
「ありがとアーサー……」
アーサー。
その名前にわたしの心はまたしても動いた。
わたしが造り出した子。行動に尾ひれ背びれが着けられた――偽りの伝説の王。
「う……うう……」
「……アーサー。また、子守歌を……」
「……ああ、わかった。手を繋ぎながら歌おう」
誰かが歌を歌っている。その一節がわたしの心を抉った。
動かすだけじゃなくって傷を付けた。血が流れるように泣きそうになった。
運命の牢獄から旅立った姫君――
(……昔、昔に)
(君が思い知った真実が全てだ)
(この子は生まれながらに私の半身で、私と添い遂げる運命にある)
(君にしてやれることは何一つとしてない――)
誰の台詞だ。誰の言葉だ。おまえは誰だ。
あの子が好きな歌を、おまえはどうして否定するんだ。
「奈落共の出す音がどんどん大きくなっていくな……」
「おれ、とても聞こえる。だからイザーク、もっとうるさい」
「耳が割れそうだわこんなん……サイリィー耳栓くれぇー」
世界の終わり。
「貴様等、よくのうのうとしていられるな……?」
「……あ?」
「ウィルバート様は力を失い昏睡状態に陥られたこと、何も思わないのか!!!」
この城の周囲で、二度世界が終わろうとしている。
「オマエら……今はウィルバート一人に構ってる状況じゃないだろ?」
「貴様等に何がわかる!!! 貴様等には何も、何もわから、うっ……!!!」
「なっ、おい、大丈夫か……?」
それに立ち合った者の表情は、いつの時代でも変わらない。
「痙攣発作……お前らが!!! お前らが余計なことを言うからだ……!!!」
「突っかかってきたのはそっちだろうがー!? おい、アタシも手伝……」
「触るなこの狼女!!! 偉大なるケルヴィンの血が、獣人なんぞに穢されてたまるか!!!」
「……っ!」
怖くなって、悲しくなって、怒って、嘆いて、
それらを堪能した後に全て喰われる。
「おい……おい!!!」
「な、何だよ……?」
「白々しい顔するな、クラリア!!! ジル様を殺したの、お前なんだろ!?」
「……!」
でもそれらの感情の根底には、生に対する願望が込められている。
「ほら、表情が変わった!!! やっぱりお前なんだな、お前なんだな……!!!」
「貴様、今はそのような話をしている場合ではないだろう!!!」
「人間如きに何がわかる!!! 俺達のジル様を、あんな、あんな――!!!」
‘M))'IIHIPIOO+PHINX)P+HURBU#KJHCIVHOU#!YRIQJKHKL'}L'*+P>~=‘M))'IIHIPIKJHCIVHOU#!YRIQJKHKL'}L'*+P>~=K"|$((P*'K<
どん どん
どん どん どん
どん どん どん
どん どん どん
どん どん
どん どん
どどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどど
「ほら!!! もう向こうに迫ってきているんだ!!! ジル様を殺せるんならあいつらも殺れるだろ!!! 行ってこいよ!!!」
「がっ、あっ、ぐっ……!!!」
「貴様等、不毛な争いは――!!!」
「……都合がいいぞヴィクトール。ウィルバート様に屈辱を味合わせた報いだ。貴様も道連れになれ!!!」
「あ、ああ、あああああああ……!!!」
「クッソがよー……少しは、落ち着け!!! 何もかも、何もかも……!!!」
「――オレは、オレは――」
願望、願い、欲望。
全ての願いを叶える存在、万物の――
「……!!!」
冷たい床の上で目を覚ました。同時に痛覚も襲ってきた。
背中に傷口ができて、そこから血が流れている。腹の真ん中を貫かれて、塞がらずにとても痛い。
だがそんなことは言っていられない。うつ伏せになっていた身を起こして、匍匐の姿勢で動くこともできぬまま、正面を確かに見据えた。
狂った月に照らされて、女の子が男に拘束されている。うつ伏せになっている所を男が覆い被さっていた。背中の方は首を伸ばせなくて見えない。
彼女は心底嫌そうな顔をして、でもこの状況から抜け出せなくて、それが苦痛で顔を歪ませていた。苛立ちと焦燥に襲われた言葉が聞こえてくる。
彼女の身体を撫でる男の、囁くような言葉もはっきりと聞こえてくる――
「さて、この状況だ。君はどう動けばいいか、心のどこかでわかっているのではないかな」
「……黙れ」
「君が目覚めて力を解放すれば、ここにいる者は皆助かる。君が創世の女神に願えば誰もが救われる。何も悪いことはないじゃないか」
「そうして力を使った後に、おまえが何もしない保障なんてないだろ……!!!」
「君は私を恐れているのか。君自身が傷付くことと、彼等全員が死に絶えることと、天秤にかけたらどちらが重いかは明白だろうに」
「……」
「……これが神の作法だ。力を持って生まれた者は、力を振るって生を全うせねばならない。それから逃れることはできないのだよ……」
「……最初から、最初から、この、つもりで……くそ、くそが、ああ……」
「泣いているのか。ということは、理解しているのだな。最早君が願うしか選択肢は残されていない」
「……力を使ったら、わたしは、嫌だった昔の頃と同じ存在になる……」
「冷静になって考えてみろ。君の言う昔は千年も前だ。そのような時代の人間が、こうして蘇っている以上――普通の生活なぞ決して送れない」
「……」
「改めて、自分の置かれている立場をよく考えるといい……結論は出たかな」
「……はは。あはは、あはははははは……」
待て、消えるな、どこに行く、
おまえは、その子を連れて、どこに行く、
涙をこぼすことしかできない、その子に、何をする、
おまえはそうして、また、その子を縛り付ける!!!
その子の心はその子のもの、おまえのものじゃない!!!
何をしようがその子の自由、何を願おうがその子の自由!!!
勝手に決めつけるな、勝手に定義するな!!!
運命の牢獄にその子をぶち込むな!!!
何よりも、何よりも、何よりも何よりも何よりも何よりも何よりも何よりも何よりも――!!!
おまえの態度が、気に喰わない!!!!!!!!!!!!!!!!
「わたしの可愛い妹の身の振り方を、
姉のわたし抜きで決めてんじゃ、
ねええええええええええええええーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」
大扉の向こう側の近くまで、
世界の終わりが迫ってきているというのに、
彼女が叫んだ瞬間、それすらも超越した静寂に、
誰もが囚われた。
「……勝手なこと言いやがって!!! 美味しい物食べて、勉強に打ち込んで、友達作って、恋をして――!!!」
「エリスちゃんはどこからどう見ても、普通の女の子だろうが!!! それなのにさも自分の所有物になったかのように、話をしやがって――!!!」
「――何より、わたしの存在を忘れて、勝手に話を進めるな!!!」
「わたしはここにいるんだよ、今を駆け抜けているんだよ――!!!」
彼女が叫びながら何をしたかというと、
何もない空間に手を突っ込み、そこから引き摺り出した。
先日彼女の所有物になったばかりの、
スタンドマイクを
「――やるか! やったりますかぁ!!!」
吟遊詩人は雑音を振り切って立ち上がり、
戦いとは一切無縁のギターを手にした
「練習、ばっちり! おれ、やれる!」
戦士も目的を持って動き出し、
戦闘の際には一切見せることのない笑顔と共に、
いとも楽しそうにドラムセットを呼び出し組み立てる
「……どうせ死ぬなら華々しくも、悪くはないか」
軍師も拘束をほどいて歩み出し、
その無愛想な顔から想像も付かないような、
二段構造のキーボードを取り出し準備する
「――そうか、お前はそれを選択するのか」
「――ならばお前が主役でオレが脇役、お前の歌をオレが飾ろう」
そして騎士王と呼ばれたその人は、
剣を握ろうとした手を降ろして、
その手でベースを握った
「……何をやっているんだ?」
「いや、本当に――お前らが、一番、何をやっているんだ――!?」
出来上がった
#OIQBOR(OどどどどUCBY 出来上がってしまった
R(O'I(Cどん#OIXYIO+URYBOE
‘<)=J)"''(){=!>O='P{'=~? 且つて世界の中心と言われた広間
ドドドドドドドドド?!= そこに不釣り合いな派手なステージ
’N)')>~='どNP'(B)~?ILV)
9MM)P()'NO(H& 荘厳なる空間、其に渦巻くは閃渦
@、)=M'O&X 雷は誰の心にも落ち切った
UI'IEXFG
)M'
疲弊に痺れた心では、世界はまだまだ終わらず、
今から楽しいことが始まることしか理解できない――
それさえ理解していれば、あとは、<P)=N'P"VIPO)N'#)VO*P)N'P*MI(N{=#)MCP*O#IN'P*IMXPO#U=RN)()=(RN=V=――――――――――――
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
『曇天
快天
気分はハイテンショォォォォォォォォォォン!!!』
読み終わったら、ポイントを付けましょう!