ナイトメア・アーサー

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第百四十四話 キャメロット魔術協会

公開日時: 2020年12月4日(金) 23:57
更新日時: 2022年1月10日(月) 08:01
文字数:4,001

「ふわあ……おはようございますぅ……」

「フィルロッテ殿、今日はお早いですね」

「ルドミリア様に叩き起こされましたぁ……おかげで髪も化粧もセットできてねえよクソが」


「マーロン、褒めちゃ駄目だ。集合時間の三分前だぞ。宮廷魔術師たるもの十五分前行動は常識だぞ」

「でも……今までの行いを考えると、かなり進歩しましたよ?」

「確かに今までは遅刻なんてザラだったからな……」

「フィルロッテちゃんは進歩する系女子なのだぁ☆」






 一月下旬のある早朝、第四階層はウィングレー家の中庭。多くの宮廷魔術師が招集されて、朝っぱらから物々しい雰囲気を醸し出している。フィルロッテとマーロンはそのような中、他の魔術師も交えて話をしていた所だった。






「……あ。何かピリピリするんだけど」

「そうですか、じゃあそろそろ来ますね」






 そう言って正面、庭の中に不自然に開かれた空間をじっと見つめる。






 時計の針が午前八時を指した瞬間。






 その空間を中心として、突風が渦巻き出した。






「くっ……」

「転移魔法陣……彼らの行使するこれは、いつも慣れませんね……!」




 マーロンとフィルロッテは腕で視界を調整しながら、竜巻の中に雷や火炎が現れる様を眺める。











「……」




 それが止む頃には、正面には四人の人間の姿があった。











「……皆様、朝から御機嫌麗しゅう」






 そのうち一人が前に出てきて、屋敷の中で待機していた者達に向かって軽く会釈をする。彼らを転送してきたであろう魔法陣は、その役目を終えて薄れつつあった。




 そして会釈を向けられた王太子ハルトエルが、前に出てきて礼をした。






「ヴィーナ様。今年もまたご訪問いただき、誠に感謝いたします」

「面を上げなさって、ハルトエル殿下。毎年大勢で出迎えてくださって私は幸甚の極みですわ。ほら、貴方達も挨拶なさい?」


「モルゴースです」

「エレーヌと申します」

「……ゴルロイス」


「うふふ、キャメロットの中でも手折れの魔術師三人ですの。ご贔屓に」






 水色のセミロングに、金色とピンク色が混じった翅のニンフ。額に着けたオパールの紙飾りが、朝日を受けて煌々と輝く。


 その後ろにいるのは瓜実顔の女、頬が氷で覆われた女、身長二メートル程の大男。いずれも白いローブを着用していて、背中には花園をあしらった紋章が描かれている。






「今回は何処を視察なさるご予定であられますか」

「そうですわね……例年通り、各家の魔術研究の成果を。それに加えて魔法学園を視てみたいと思っておりますの」

「魔法学園……ですか」


「この国ではどのように魔術を教えているのか、興味が沸いてきましたの。何か不都合なことでもありまして?」

「……いえ、滅相もございません。ではこちらの準備ができるまで中でお待ちください」

「感謝いたしますわ。うふふ……」











「また今年も視察の時期がやってきましたよっと」

「キャメロットの魔術師方を前にして、|某《それがし》の上腕二頭筋も唸りを上げておるぞ!」


「普段から学生となんやかやしてる身としては、こういう畏まった機会は身が詰まっちゃうねぇ」

「見よ、この六つに割れた腹筋を! これにはタートル共も恐れをなして逃げていくぞ!!」


「こんな時は何にも知らない新米時代に戻りたいなあって思うよ。学生達と遊んでいろーってポイされるもん」

「某としてはこの背筋が気に入っていてな! 毎日トレーニングを欠かさず行った成果が「あーもう、チャールズってばうるさーい!! フィリップなんか言ってやってよー!!」




「……三頭筋も、いいぞ……」

「もう駄目だな、この愉快な筋肉コンビは……」






 現在ブルーノとマキノは何をしているかというと、ウェルザイラ家の屋敷で荷物の運び込みを行っていた。


 一緒に作業を行っているチャールズとフィリップは、支給されたローブでは隠し切れない程に筋骨隆々な魔術師と、腹筋が見事に割れてハンサムなこげ茶色のオーク。共にアドルフに仕える一端の宮廷魔術師である。






「ていうか魔術師でムキムキとか宝を持って腐らせてるってレベルじゃねーぞ」

「魔法で遠距離もよし、筋肉で近距離もよし! どんな事態にも対応できる万能の身体ぞ!?」

「戦ばっかの帝国時代ならまだしも、今は新時代だぞ。それを活かせる相手も早々いないだろうに」

「ログレスの狩人ことバルトロスでも殺してみるぅ?」

「却下だ!!! 主に資金的な意味で!!!」

「え~本当でございますかぁ~?」






 こんな調子でだらだら屋敷から不必要な物を片付けている所に、二人分の足音が聞こえてくる。






「ブルーノさん、チャールズさん。お仕事ご苦労様です」

「ん、君達はティナにカービィじゃないか」

「あ、あの……なんであたしのあだ名、知ってるんですか……」

「そりゃあ情報通だもの、ねえカベルネちゃん?」

「うう……その名前で呼ぶのもやめてほしい……でもあだ名で呼ばれるのも……」

「はいはい、話変えるよ。現在ヴィーナ様がセーヴァ様とお会いになられていて、その間一部の魔術師以外は屋敷を離れるようにと言われたのです。それでお手伝いできることはないかと思いまして」





 カベルネは横髪を流し、インテークヘアーの紫髪の女性。アーモンド型の茶色い目が恥ずかしそうに泳いでいる。


 ティナは細身の眼鏡をかけ、アプリコットオレンジの髪を頭頂部で団子に纏めた女性。そしてどちらもローブを着た魔術師であった。





「そうかそうか。まあ主らは配属から一年も経っていない新人魔術師。勝手がわからぬ故邪険にされるのも致し方なしだな」

「それならディレオにでも会ってきたらどうだ? あいつ学園にいると思うし」

「え、それは……そ、その、今は仕事中ですし……」

「……顔が、赤い……」

「や、やめてくださいよ!」





 カベルネは腕をブンブン振って否定するが、ブルーノとチャールズは依然として笑いっ放しである。





「配属から一年経たないうちは遊んでおけ~? アルブリアのことを知る意味でもな!」

「う~……でも~……」

「ふむ、ではこういうのはどうだろうか。魔法学園に行ってかつての同級生と会ってこいと、某達が命令した!」

「おおっ、ナイスアイデアっ! たまには理に適っていること言うね筋肉ぅ!」

「ハッハッハッハァー! もっと某の筋肉を褒め給えぇー!!」

「……」




 カベルネとティナは視線だけを合わせ、そして頷く。




「……では、そういうことで。ブルーノさんとチャールズさんの命令で、魔法学園に行ってきます」

「いってらっしゃい!」

「いってらー!」





 先輩魔術師に見送られ、新米魔術師は上の階層へと向かう。











「……失礼いたしますわ」




 ヴィーナは軽く挨拶だけをして、その屋敷の中に入っていく。




「ヴィーナ様、この家は」

「あら、エレーヌは来るのは初めてだったわね。ここはグレイスウィル第一階層、そこを治めるスコーティオ家。私達と最も縁の深い御方よ」

「縁の深い……」




 エレーヌは屋敷の中を見回す。訪問者が来るという話はされているはずなのに、何故かとても薄暗い。




「……ああ、成程。そういうことでございましたか」

「うふふ。さて、出てこないということは直接伺ってもよいということかしら?」

「いえ、そのようなことはございません」




 屋敷の奥から二人の魔術師が近付いてくる。


 暗がりの中から滲み出すように現れた二人は、瓜二つの女性だった。




「貴女様から見て左がリーゼ、右がリーラと申します。私達は双子の魔術師なので、これ程までに似ているのです」

「……全くわからん」

「まあ理解しなくても構わない。どちらも私の優秀な部下であるからね」




 二人の中央を通って、セーヴァが姿を現す。彼の不健康そうに真っ白な肌が、暗がりの中で更に薄気味悪く見える。






「よくおいでになられました、ヴィーナ様。我々の魔術研究も順調に進んでおります」

「そうみたいですわね。この屋敷からも、貴方からも、そしてお二人からも……感じますわ……」

「ご理解いただけたようで何より……」






 その会話の最中、どこからか唸り声が聞こえてきた。






「……この声は?」

「おや……聞こえてしまいましたか。ですが貴女様になら見せてもよいでしょう」




 セーヴァは道を開け、手をその先に流してヴィーナを先に誘う。




「ご案内いたしますよ、我々の研究所へ。それを元に、今後我々に対する支援を検討していただきたい」

「……そう言える程、素晴らしい物があるのね?」

「勿論でございます」

「……うふふ。一体何があるのかしら……」
















 かつん、かつん





         かつん、かつん





                   かつん、かつん








「……随分と深くまで潜っていきますのね?」

「でないと地上に声が漏れ出てしまいますから」

「うぐう……」


「おやおや、そちらの方は頭が痛いのですね。第一階層から地下となると、海面の下になります。だから空気圧も強まってくるのでしょう」

「モルゴース、鎮痛の魔法を行使なさい」

「はい……」




 震える手を自分の頭に当てると、そこから光が発せられる。




「あ、ああ……」

「駄目かしら。それなら上に戻って、何もすることなく待っていなさい」

「り、了解しました……」




 モルゴースは頭を押さえながら、来た道を戻っていく。




「まだまだ|魔《・》|力《・》|構《・》|成《・》が安定しておられないようで……」

「そうかしら。普通の人間でも、時折見られる症状ではなくって?」

「そうかもしれませんな……」




 セーヴァはヴィーナの背後にいたゴルロイスとエレーヌに視線を向ける。




 二人は何も言わず、何の感情も示さない。




「キャメロットの研究には、毎度毎度驚かされるばかりだ」

「うふふ、スコーティオ家の研究も相当なものではなくって?」

「千年と六十年では、比べようもありませんよ……」


「ですがここだけのお話。この子達の研究が進んだのは、実はここ十年の出来事なのよ」

「……ほう」




 すると途端に、悩殺的な声を上げるヴィーナ。




「嗚呼、ウォーディガンはよくやってくれたわ……あのままずっとキャメロットに忠誠を尽くしてくれると思っていたのに、本当に残念。でも今は、マルティスがいるからよろしいのだけれどね、ある程度は……」

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