ナイトメア・アーサー

Honest and bravely knight,Unleash from the night
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第七百九十六話 調査結果報告

公開日時: 2021年12月8日(水) 22:41
文字数:3,705

『本魔術工房についての説明』


『正式名称、キャメロット魔術工房。以下本施設と記載。設立年、帝国歴前18年。使用用途、魔術及び事象研究全般』


『設立者、マーリン・グレイスウィル。かのお方はここより離れたティンタジェルの町にて、聖杯に仕える騎士として活動なさっている』


『だがしかし、マーリン様は聖杯に頼ったままでは久遠なる平和は訪れず、それどころか破滅の可能性もあると憂慮なされていた。それを解決する策を見出す為の役割を本施設は担っている』


『特にマーリン様に並ぶ影響力を持つ騎士、エリザベス・ピュリアとモードレッド。この二人に研究を知られたら間違いなく妨害されるので、二人はおろか関係者以外に絶対に存在が漏れないようにしなければならない』


『ウィンチェスターに本施設への入口があるのもその為で、ティンタジェルより程近く且つ存在を秘匿する為の環境が整っている――というより整えさせた。この町は本施設の隠蔽を主目的として造られた町なのだ。観光名所や特産品なぞなくてもいい。あった所で本施設の存在に勘付く輩を引き寄せるだけだ』


『立ち入りに関する為の条件は別途記載。また、ウィンチェスターの町そのものに怪しむ人間を近付けない為の工夫も必要である。それについての詳しい内容の別途記載。管理責任者は各自目を通し、とかく本施設の隠匿に努めるようにすること』


『仮にマーリン様が本施設の放棄を決定した時――その時が、ウィンチェスターという町の落日となる。とはいえ帝国は建国が宣言されたばかりで、これからの発展が見込まれている。敵もまだまだ数は多く、全てにおいて高度に研究された魔術は必要されている』




『そのような日は来ないとは思う――赤薔薇の紋章に栄光あれ』










「……」




 魔法学園の相談室にて。アドルフは目の前の生徒五人が提示してきた、ウィンチェスター遺跡で見つけてきたという情報を書き出したメモを前に、顎に手を置き深く考え込む。




 何もないと言われていたその遺跡、何もないと自分自身も思っていたその遺跡。そこからこうして情報を持ち帰ってきたのだ。




 イザーク、ルシュド、ハンス、ヴィクトール、そしてアーサー。彼らは五年生、十五か十六の大人になりかけの子供なのに、大人でもしないような大冒険を終えてきている。




「……先ずは一つ、これだけは言おう。よく戻ってきてくれた。本当に生きてくれてありがとう……」

「何だルドミリア、朝はあれ程までに遺跡の爆発を嘆いていた癖に」

「……」

「冗談だよ、冗談。それとこれと生徒の安全は別問題だよな……」


「んじゃあ私からも一つ。何か、本当に自分達はこの情報を知る力がなかったんだと思うと、ちょっと悔しいね」

「完全に愚痴だなシルヴァ……だが同意できなくもない。お前達に負担を負わせてしまったこと、大人として重く受け止めなければならない」




 流石に事が事だったので、アドルフ以外のグレイスウィル四貴族も集結している。ルドミリアにトレック、そして屯していたガラティアから転移魔法陣で引き戻されたシルヴァ。




「いや~……まあいいっすよ。運命はボクらを選んだってことっす。でもあくまでも情報をを仕入れただけっすから、それでどう動くかは先生達の判断っすよ」

「我々に戦う力はあっても、世界を動かす力はないことは重々承知しています。それは先生方が、四貴族である貴方がたが有しているものだ」

「先生、信頼できる。きっと、いい方向に動かしてくれる。だから伝えた。でも、一部だけ」

「あの工房にはぼくらが背負わないといけない情報もあったんでね……悪いけど皆で話し合って決めた。教えられない情報もある」




「……オレが言いたかったこと全部言われたんだが」




 変な所で頭を抱えるアーサー。紅茶を一気飲みして場を濁す。






「ははは……そうだな。俺達には俺達の、お前達にはお前達の戦場がそれぞれある。そういうことだな。互いに共有できる事項は共有して、必ず勝利を収めよう」

「『紅の守護竜』の件、礼を言わせてもらうぞ。術式さえ判明してしまえば、あとは優秀な宮廷魔術師達が改造を行ってくれる」

「直近で警戒しないといけないのは『悪食の風』の件かねえ。化物の化身って説が本当なら、早急に対処しないといけなくなる」

「僕としては『ヴァンパイアの落日』についても気になるな。奴等についての学説は多々あるが、これは興味深いことになりそうだ……」


「あとはアルビム商会……だな。氷の小聖杯が渡ってしまった」

「一応確認を取ってもらうように手筈は整えましたが……十中八九、本物が渡ったと思います」




 そしてその時のハンニバルの姿を見て、アーサーの中である結論が出ていた。




 だがそれを言うか言わまいか迷っている――




「どうした?」

「……先程言った、先生方に教えなかった情報についてです」

「言ってくれるのか? いや……どうして言わないのか、その理由だけでもいい」

「……」




「……単に我儘ですね。それについては、オレ自身が決着を付けたいっていう」


「でももう一つあって……先生方が何か対策を練った所で、その相手はオレしか眼中にない。だったら最初からオレ自身で担おうって、そういうつもりです」






 生徒でもあり、そして重い宿命を担った騎士王でもある彼の、決断を咎めることはできない。


 それを差し置いても彼は十五歳。守ってやる立場から共に肩を並べる立場へと徐々に成長しているのだ。




「……先生は止めはしないが、無茶だけはするな。いいな?」

「はい……承知しています」











……




……うううううううううううううう……




……うわあああああああああああああ……




うわあああああああああああ……!!!!!!





「ああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!

 うわああああああああああああああああ……!!!!!!!!!!!!!!!」




「あーーーーーーーあーーーーーーーあーーーーーーああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!あーーーーーーーあーーーーーーーあーーーーーーああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」





 果実酒を浴びるように飲む音だけが、キャメロットの花園に木霊する。最北西の孤島の中央にある塔、その頂上からだ。




 それを行っているのが偉大なる救世主マーリンだけだったら、いつものことだと流すことができただろう。だが今回は、普段彼の給仕や下世話を行っているヴィーナまでもが、同様の行為に陥っているから異常事態なのだ。





「私は、私はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーー!!!!!!!!!! 私こそが、至高なのだぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!!!!!!!!!!!」



「そうです、そうなのですわあああああああああああああああ!!!!!!!!!!!貴方が負けるなんて有り得ません!!!!!!!!!!!!!!!間違ってるのは世界の方ですわ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」




 全裸で浴槽に浸かりながら二人は酒浸る。給仕を行っているのは魔法人間《ホムンクルス》の面々で、中には先のウィンチェスターでの戦闘から回復し切っていない者もいた。足や手がぐちょぐちょで、行動がおぼつかなかったり、途中で器官が捥げて息絶える者もいた。




 そして失った数を補給するように新たに生み出された個体もいる――が、肉体はあれど思考の教育が追い付いておらず、自分の使命と目の前の光景とに狂って発狂する者が大半だ。




 エレーヌはその全てに恐怖心を感じ、しかしそれを理性で鞭打ちながら、給仕を続けていた。





「あらぁ~、どうしたのエレーヌ。貴女ガッチガチに震えてるじゃない!!!」

「もももモルゴース!!! おおおお前は怖くな早く酒を持ってこい!!!」



 歯は震え足も震え、手も震えているが酒が落ちそうになるのを必死にこらえる。



 自分はそんなことにはなっていないと、至って冷静であると、少なくとも彼女自身はそう思っていた。



「早く酒を早く酒を早く酒を早く酒を早く酒を早く酒を早く酒を早く酒を早く酒を早く酒を「あははっ、無様ねぇ!!! 貴女言葉にしないとまともに動くことすらできないの!!!」

「ううう五月蠅いぞ!!! しゃしゃしゃ喋っている暇あるなら、さささ酒を運べ!!!」




 自分は優秀であると思い込む。何と醜くて脆い鎖だろうか。






「モルゴース、エレーヌ!!!」




「「はいっ!!!!!!」




 ヴィーナに呼び止められて、二人は直ちに静止する。片や引き攣った笑顔で、片や自分は笑顔であると思い込み。




「貴女達は優秀だから、別に任務を与えるわぁ~……………………風の小聖杯。どうにかして奪え!!!!!!!!!!!!!!!!!!」




「「了解いたしました!!!!!!!!!!!!!!」」





 二人が走り出していくのを見て、マーリンはグラスを叩き付ける。





「………………………」





「……魔法人間ホムンクルスの増産の為に、魔術師が必要だ」





「拘束も誘拐も辞さない。もっと増やせ…………………この偉大なる、マーリンの為に……………………」






 自尊心とそれを埋め合わせるだけの賛辞だけが場を溺れさせていく。

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