ナイトメア・アーサー

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第五百六十三話 再会のフィオナ

公開日時: 2021年3月13日(土) 10:31
更新日時: 2022年8月12日(金) 23:49
文字数:2,918

「よっと。ぷはー」

「流石に慣れてきたもんだね」





 時は流れ月曜日。魔物学でのフィールドワークを行う機会が再びやってきた。また魔法陣区画に向かい、専用の魔法陣を通ってやってきたのはスミアという名の町。



 魔法学園からフィールドワークの行き先に指定されているだけあって温厚な町という印象を受けた。やや山間に位置しているようで、遠くにそれらしき物が視界に入る。





「お待たせ」

「お疲れ男子ぃ」

「うむ」



 さり気なくエリスの傍に近付くアーサー。



「……」

「どうした?」

「ううん……何でも」

「そうか。よかったら手を繋ぐか?」

「今は勉強の途中なので……」

「それもそうだな……」





 微妙な雰囲気になってしまった二人を見て、ギネヴィアはイザークに耳打ちする。





「ねえ、アーサーに何かあったの?」

「何でそう思ったんだよ」

「だって何かこう……やけにすっきりしてる」

「……はあ」


「色んな煩悩とか罪の意識とか、そういったもんを取っ払ったようなすっきりだよあれは」

「あー、そう思います?」

「その言い方はやっぱり心当たりあるんじゃない。教えてよ」

「……色々あるんすよ、アイツにも」




 鼻の下を伸ばしていたり、あれからの帰宅後何かと周囲を気にするような素振りを見せていたので、何となく何をしたかは察しているイザーク。


 だがそれを安々と言う程友情は落ちぶれていない。




「ちょっとちょっと、流れに任せてそっち行かないで。宿の方角じゃないし、迷子になっちゃう」

「あうー」

「うわー」




 カタリナにカップル二人は引き戻され、魔法陣より少し歩いた所で集まる五人。






「うん、先ずはもうぱっぱと宿に入っちゃおう」

「その後どうする?」

「確か調査対象の魔物が行動を見せるまで待機するって話だったよね」

「オレンジルフだったか。この時期は巣籠りを始めるんだったな。小枝を集めて専用の巣を作る」

「それを調査するには、枝を取りに来た個体を追跡するのが手っ取り早いと、そういうわけだ」



 ぱんっと手を鳴らすエリス。



「それっぽい個体が観測できたら連絡を貰う手筈にはなってる。つまり、連絡貰うまでほんとに何もできない!」

「観光だな!」

「でも三騎士勢力ともなると、どっかは確実に手を伸ばしてそうだけどなあ」

「今も視界に映ってるぞ……」



 ずんずん近付いてくるキャメロットの集団から、エリス達を隠すようにして動くアーサー。






「もう移動しながら話をしよう。ここを直進すれば宿は直ぐだ」

「わたしは宿で待機した方がいいのかな……でもつまんないな……」




「なら連中が入ってこれない所に行けばいいんじゃね? 何でもこの町、傭兵ギルドがあるみたいだぜ」

「そっか。傭兵さんは三騎士勢力とか、基本的に嫌いだもんね。多分」

「傭兵ギルドってのは大体中立だからな。連中も手ぇ出せねえだろ。でもって社会見学とでも言えば中には入れてくれそうだし、そういうことでいい?」

「うん、宿で寝ているよりはましだよ」

「課題という選択肢が上がらない……!」

「カヴァスお前は急に出てくるな。そして黙っていろ」
















 ということで荷物を置いた五人は、町の傭兵ギルドにやってきた。



 町全体の中でも一際目立つ木造建築。またその周辺も敷地になっているらしく、武術や魔術の訓練場や厩が併設されている。



 敷地に入ってすぐに男の傭兵が訓練している、汗臭い掛け声がお出迎え。加えて、




「オイゴラァ!! 何モンだテメエ!!」

「何って見ればわからないかな? キャメロット魔術協会の者だが?」

「者だがって……何の用だゴラァァァァ!!! 俺達傭兵の縄張りに足踏み入れようとするんじゃねえ!!!」






 そうだそうだと捲し立てながら詰め寄る傭兵達。委縮するキャメロットの魔術師達。




 どうやらイザークの読みは当たってくれた模様。








「あんな大男共にスゲー剣幕で詰め寄られたら、流石に溜まったもんじゃないっしょ」

「うん、少しはゆっくりできそう」




 改めてギルド本部を観察する。高さは数メートル、当然のように入り口も広い。


 その入り口にやけに筋骨隆々な女性が一人。隣に浮いている妖精と喋っているようだ。




「あのとんがり帽子にムキムキ筋肉は!」

「アビゲイルさーん!」






 名前を呼びながら近付く。呼ばれた女性は振り向くと、まさかの再会に目を丸くする。




 しかし五人は更に目を丸くすることになる。それは隣にいた妖精に対して。








「あ……皆さんは!」


「いつの日か、村に来てくださった……!」






 橙色と黒色が混ざった布を服のように羽織っている、花の冠を被った彼女。


 アーサー、カタリナ、イザークはすぐに思い出した。しかしエリスとギネヴィアは、特に思い当たる節がない。




 代表してアーサーが声をかける。




「まさか……フィオナさんですか?」

「はい……! トロピカルフェアリーのフィオナです!」
















 ギルドの中は外の光を取り込むように設計された、とても開放的な空間。



 真っ直ぐ行けば色々対応してくれる受付。左に逸れれば依頼が貼ってある掲示板と情報共有を行える広場。右に行けば手頃なカフェだ。



 アビゲイルに連れられたのはカフェの方。彼女はすぐにミックスジュースを五つ頼んだ。






「四種ベリーのヨーグルト風味だ。美味いぞ」

「いただきますっ」



 恐らく取っていたであろう席に座って、ジュースをストローで啜る。爽やかで弾ける風味が口いっぱいに広がった。



「ぷはあ、美味しいです」

「代金は私持ちだからいいぞ。というより、ジョシュはまだ戻ってきてないか」

「お仲間ですか?」

「仲間というよりは腐れ縁かな。何かと一緒に仕事をすることが多いんだ。今この町に来たのも、その帰りでな……」




 そこで言葉を切ってフィオナに視線を向ける。




「私は傭兵だからでここにいる理由はつくが、君は説明した方がいいだろう」

「はい。といっても、私が来ている理由もそんなに大したことではないです。休暇も兼ねて大陸の方では、どのような町興しをしているのか視察に来たんですよ」

「で、うろちょろしている所に私が声をかけて、それからよくしてやってる間柄だ」

「アビゲイルさん、圧迫されそうな見た目の割に親切な人で、本当に助かりました~」




 その透き通った翅でぱたぱたと飛び、エリスとギネヴィアの間にやってくるフィオナ。






「初めましてですね、金髪のお姉さん」

「えっと、ギネヴィアです。フィオナさん、話はちょっとだけ聞いています。よろしくお願いしますね」

「ふふ……」



 ギネヴィアの身体に近付いて、くんくんと匂いを嗅ぐ。



「ふぇっ?」

「あ、すみません。妖精って匂いを嗅ぐことで、相手の人となりがそれとなーくわかるんです」

「へえ、何だか不思議ですね……」


「わ、わたしどんな匂いがしましたか?」

「すっきりとして、爽やかな匂いでしたよ。貴女は信念に満ちた人なのですね」

「は、はい……!!」






 割と自分の性質を見抜かれた言葉に、ドキドキするギネヴィア。




 そんな彼女をさておいて、フィオナはエリスの匂いを嗅いでいた。






「……」


「……甘酸っぱい匂い。可愛らしくてそれでいてふわふわしていて……はぁ……」




 鼻を近付けていたのが、次第に手を伸ばして抱き着いてくる。




「女の子の素敵なもの、いっぱい詰め込んだ匂い……私、大好きです……」

「わっ、わあああっ……」






(お礼とか色々言いたいことあるのに……!)


(それどころじゃなくなっちゃう~!)

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